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楽しい転生  作者: ぱにこ
25/122

20話

 ちくちく……ちくちく……ふふ~ん♪

 ちくちく……ただいま、忍び装束を作っています。

 ケンゾーに黒、自分用に赤の忍び装束です。

 自分用も黒にしようかと思ったのですが、某戦隊ヒーローを思い出してしまったのです。

 『忍びなのに忍ばない』的なヒーローとくれば、赤でしょう。

 小さな手で縫うのも、手慣れたものです。スムーズに縫うために、指貫まで自作しました。

 靴を作るスキルがなくて……地下足袋を制作できない事が残念でなりません……はぁ……ふぅ~……。

 なので、柔らかめの革のブーツで代用する事にしました。


「できました~♪」

 出来上がった忍び装束を手に掲げ、銅像の様に待機しているケンゾーに披露します。

「……っ……おめでとうございます」

 私が急に発した声に驚いたケンゾーは、ビクッてなった後、返事をしてくれました。

 かなり長い時間、待機させていたから気が抜けてたのね。

 

「さささ。こっちがケンゾーの、くろのしのびしょうぞくで、こっちがわたくしの、あかいしのびしょうぞくなの。さっそくきてみましょう~」

「おじょうさま……私の分まで用意して下さったのですか?こうえいにございます……」


 ケンゾーは忍び装束を手に取り、感動して打ち震えています……。

 一緒に鍛錬をするのだから、お揃いにしたのだけれど……ここまで喜んでくれるのなら、作った甲斐があったというものね。


「ケンゾー、そんなにうれしい?」

「はい。おじょうさま自ら、ぬって下さったものですので、とてもうれしいです。ですが、これはどうやって着用するのでしょうか?」

 とてもいい笑顔でお礼を言ってくれたケンゾーは、袴について質問してきました。

 あちゃ~……本格的な衣装ではなく、簡易的に着用できる様にしたつもりだったけれど、袴の帯の結び方は難易度が高いままだったわ。

 コスプレで忍び装束や、和服を着慣れてたから、うっかりしてた。


「ごめんなさい。もうすこしかんたんに、ちゃくようできるように、つくりなおすわ。すぐにできるから、まっててね」

 袴の帯を切り、縫い直します。スエットパンツの様にして、後から帯をぐるりと巻く方が簡単ね。

 自分用はこのままでいいわ。ちくちく。

 フェオドールとダリウスの分も縫うつもりで生地を用意していたけれど、裁断する前で良かったわ。

 ちなみに、フェオドールはグリーンで、ダリウスはブルーにしたの♪ちくちく。

 戦隊ヒーローっぽくするのなら、ピンクも欲しい所ね……ピンク、ピンク……ジョゼは男の子だしねぇ、天使の様に愛らしいけれど、ピンクは……ないわ……。ちくちく、ちくちく……ジョゼはシルバーかしらね。ちくちく……ゴールドだと、派手すぎるものね。ちくちく……。ピンクを着れる女子……。

 …………、ハッ!!女子がいないわっ!!

 紅一点のピンクがいなければ、戦隊ヒーローを名乗れないじゃない!!いやいや、大々的に名乗るつもりはないけれど、心の中で名乗るくらいは、ねぇ?

 う~ん、ダリウスもフェオドールも、ピンクが似合わなくはないけれど……きっと、嫌がられるわね。

 ケンゾーは……「ぷっ、ふふふ♪」似合わなさすぎっ。黒が一番似合うわね。


「……。おじょうさま、心の声が、もれていらっしゃいますよ」

「へっ?…………どこから?」

「ジョゼぼっちゃまは『男の子だしねぇ』からです」


 おっ、ケンゾーったら、声マネ上手ね。って、違うわ!


「かなりまえから、こころのこえがもれていたのね……」

「ええ、人の顔を見ながら、わらって『にあわなさすぎっ』って──」

「ごめんなさいっっ!!」

 サーッと血の気が引く感じを久しぶりに味わいました。

 以前、部屋の中でちゅ~どんっと、魔法を発動した時以来です。

 

「いえ、おじょうさまが、しゃざいされるひつようは、ございません。気にしておりませんので」

 だったら、絶対零度の微笑みはやめてっ!!

 口元は笑ってるのに、目が、目が、目が、こーわーいーーーー!!


「あのね、あのね。みんなでいろをかえて、おそろいにしたいのだけれど、ピンクをきてくれる、じょしがいないのにきがついたのよ。だれか、ピンクをきてくれそうなひとはいないかって、さがしていたら……ケンゾーは?ってイメージしちゃったのよ」

 続けて、早口で言い訳します。口をはさむ余地を残してはならないのです。

「やはり、ケンゾーはくろがいちばん、にあうとあらためておもったわ。うん、くろがかっこいい」

 両手に拳を作って、賛同を促します。

 お願い、折れて……。


「はぁ。次回から、私を見て、ピンクの衣装を着用したすがたを、そうぞうしないと、約束していただけますか?」

 よし!折れた!

 ケンゾーの表情が柔らかくなりました。

「ええ。もちろんよ」

 真摯な態度で、返事をするわ。

「おじょうさまのしゃざい、受け入れました。……それより、質問させていただいても、よろしいでしょうか?なぜ、おじょうさまが、ピンクを着用されないのですか?」

「ん?なぜって、リーダーは、あかってそうばがきまってるもの」

「おじょうさまが、リーダーなのですか?」

「いしょうにかんしては、つくったものに、けっていけんがあるものよ」

 赤は絶対に譲らないわ。


「ピンク、とてもお似合いになると思うのですが……かれんで、おやさしいおじょうさまにぴったりだと、私は……プッ、クフフ」

「っっっ!!」

 さっきの仕返しね!

 もう、もう、もう!

 自分のした事をやり返されただけだから、何も言えないじゃない!

 思いっきりふくれっ面して、プイっとそっぽ向いてやる!

 ・

 ・

 ・

 ケンゾーは、一頻り笑って満足したようです。

 ふくれっ面も解除します。

「ケンゾー、もうおこってない?」

「はい。最初から、気にしておりませんよ」

「ひどいわっ!わたくしをもてあそんだのねっ!!」

「「ぷっ、クフフフフ、ハハハハ」」

 2人で大笑いしました。

 ケンゾーは2人っきりでいる時、仲の良い友達の様に接してくれるようになりました。

 きっと、私の居心地が良い様にしてくれてるのだと思うのです。

 ありがとう、ケンゾー。


 ◇ ◇ ◇


 忍び装束に身を包み、訓練所にやって参りました。

 剣術を指南して下さる方をお迎えするのです。

 父様に打ち勝った訳ではありません。

 剣聖並みの実力を誇る父様に勝てる訳がございません。

 

 最近の父様は、執務が忙しく、剣術の鍛練をする時間がとれないのだそうです。

 私の顔を見て、何か言いたげな表情をなさるのですが、何も仰らず、ハグした後、頬をスリスリして、城へ向かわれるのです。

 ハグとスリスリに力がありません……。

 何かあったのでしょうか?気になりますが、時期が来れば父様から、お話し下さるでしょう。


 出会いは、第一印象が大事よね。

 ピシッと立ち、師がいらっしゃるのを待ち構えています。

 まだかしら、ワクワクするわね。


「いらっしゃったようです」

 ケンゾーの声を聞き、振り返ります。

 おおおおーーー!!ケンゾーにそっくり!

 黒髪に黒い瞳、少し垂れた目もお爺様譲りなのね。

 そうです。ケンゾーのお爺様が、本日より剣術の師匠なのです♪

 お爺様と聞いていたから、もう少しご高齢かと思ったのだけれど、意外と若いわね。

 50代前後って感じね。

 

「はじめまして、ルイーズ・ハウンドともうします。ほんじつより、けんじゅつのしなんをよろしくおねがいいたします」

「ケンゾー・シバの祖父『カツラ』と申します。本日より、お嬢様の剣術の指南を務めさせていただきます」

「ケンゾーともども、よろしくおねがいいたします。それと、ししょうとおよびしてもよろしいですか?」

「師匠、良い響きですね。こちらこそよろしくお願いいたします」

 やはり、侯爵家だからかしら?口調が硬いわね。

 

「ししょう。けんじゅつのしなんのまえに、ひとつよろしいですか?ししょうとでしになるわけですし、ふだんおつかいになってらっしゃるくちょうで、ごしどうをおねがいします」

「普段から使っている口調ですか……」

 師匠は、難しい顔をされています。


「ねえ、ケンゾー。ししょうのくちょうは、いつもかたいかんじなの?」

 ケンゾーに小声で聞いてみました。

「いえ、もう少しらんぼうな、くちょうでございます。しかし、らんぼうなくちょうですと、こうしゃく家にたいして、問題があると考えているのではないでしょうか」

「このばは、ケンゾーとわたくししかいないし、べつにいいわよね?!」

「おじょうさまが、良いとおっしゃるのでしたら、かまわないと思います」

 なら、問題ないわね。


「ししょう。このばは、ケンゾーとわたくしだけですし、ふだんのくちょうでおねがいします」

「よし、わかった。孫が世話になってるし、侯爵家には礼節を重んじたいんだが……確かに慣れない口調だと、鍛練に身がはいらんわな。けど、3人以外の誰かがいる時は、許してくれよ」

 師匠はそう言うと、くちびるの端をにっと吊りあげました。

「「はい。よろしくおねがいします」」

 

「鍛練を始める前に、質問なんだが、その衣装はどこで買ったんだ?」

「わたくしが、ぬいましたけれど。ししょうにも、1ちゃくよういいたしましょうか?」

 忍び装束が気に入ったのかしら?気に入ったのなら、師匠と弟子で、統一するのもいいわね。

「デザインはお嬢様が?」

「ルイーズと、およびください。わたくしなりに、かいりょうはしていますけれど、デザインはもともとあったものですわ。『しのびしょうぞく』といいますの」

 自分がデザインしたなんて、嘘は言えないわ。

 伝統ある『忍び装束』ですものね。

 

「うーん……」

 師匠が唸っております。どうしたのかしら?

「ししょう?」

「ルイーズは『サクラ公国』に行った事あるわけないよな……」

「『サクラこうこく』は、ししょうやケンゾーのおかあさまのこきょうですわよね?まだ、いったことはございませんが、いつかいってみたいですわ~『みそ』や『しょうゆ』をつくっているくになんですもの……」

 ケンゾーみたいな日本人顔な人が、たくさんいると思うの。想像でしかないけど……。

 

 師匠、唸っている時間が長いわね。

「ねぇ、ケンゾー。ししょうはどうしたのかしら?」

「どうしたのでしょうか?そうぞうするに、この衣装を見てからというもの、ようすがおかしくなったと思われます。この衣装に、意味はあるのですか?」

 忍び装束に意味っていってもねぇ、元来『忍者』って傭兵みたいなもので、主に敵情視察や密偵をしていたと聞いたわ。

 動きやすさ?かしら……。

「いみっていっても、うごきやすさかしらね」

「たしかに、かんせつ部分などが、そがいされませんし、じゅうなんな動きが出来ますね」

「ね、ケンゾー。ケンゾーはししょうのことをなんてよんでいるの?」

「え?……じ、じっちゃん……と……」


 なんで赤くなってるのっ!ケンゾーのこんな顔は初めて見たわ。レアよっ!


「ね。ししょうをよんでみてくれないかしら。まごに、こえをかけられたら、こたえるとおもうのよ」

「…………じ、じっちゃん」

「……」


 可愛い孫に声をかけられても、師匠は唸っています。

 ケンゾー、真っ赤になりながら頑張って声をかけてくれたのに。

 こりゃあ駄目ね。


「ケンゾー、のどがかわいたわ。おちゃのじかんにしない?」

「はい。ご用意いたします」

 訓練所にゴザのような物を敷き、お茶を飲みながら、師匠が帰ってくるのを待つことにします。


「はあ、おいしいわ。やっぱりきゅうすで、いれたおちゃは、かくべつよね」

 隣国から取り寄せた緑茶です。

 急須と湯呑は自作です。土魔法で作ったのですよ。少々無骨ですが、それも良い感じなのです。

 しかし、出来ると思ってなかったのに、人間、物欲が絡むと、とんだ力を発揮するものです。

 我が家の庭園で粘土質の土を見つけたのも、ラッキーだったわ。


 お茶請けは、料理長が作った『栗きんとん』です。おせちに入ってるようなものでなく、蒸し栗を裏ごして、砂糖を加えたものを茶巾絞りにしたものです。


「りょくちゃのしぶみと、菓子の甘さがちょうどよくて、美味しいですね」

 やっと、ケンゾーも気に入ってくれたみたいね。

 以前、試しに飲ませていたら、渋さが口に合わなかったみたいで、評価はよくなかったものね。

 気に入って貰えるよう、簡単な材料で作れるお茶請けを作ろうとして、調理場に突撃したら、ちょうど、料理長がモンブランを作ろうとして栗を蒸してたのよね。

 で、栗があるなら栗きんとんを作ってとお願いして、出来上がったのがコチラ。


 この世界、寒天とかもあるのかしら?あったら羊羹とかも作ってみたいわね。

 また、料理長に聞いてみましょう。

 

「「ふぅー」」

 ズズズ。

 お茶をすする音だけが響きます。師匠はまだ帰ってきません。

 

 あっ!じっちゃんって呼んで恥ずかしがったのは、愛称呼びみたいな感じだからかしら?!

 それとも、甘えた感じが恥ずかしいのかしら?!

 

 ともかく、師匠。帰ってきて、鍛練をお願いします。もうすぐ、日が暮れますよ……。

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