19話
ただいま、ダンスを踊っています。
今夜の主役である私が、一番に踊るらしいです。
この役目さえ終われば、解放されるのです。
淑女教育の一つのダンス、苦手です……。
優雅に踊る事が苦手なのです……。
幼いながらもフェオドールは、しっかりとリードしてくれています。
もう、何度、フェオドールの足にコツンとした事か……面目ない……。
フェオドールに謝る為、小さな声で話しかけました。
「ふう、ごめんね。何度も足をぶつけてしまって……」
「ふふ、いいよ。ルイーズにも、にがてなことがあるんだね。ひさしぶりにあって、ことばつかいも、はじめてあったときみたいに、もどってるし、もうきらくに、はなしかけてもらえないのかと、おもった」
「おおぜいのおきゃくさまがいらっしゃるから、しゅくじょとしてふるまうように、といわれてるの。それとね、いまはダンスだけが、にがてだけれど、いろいろ、まなんでいくうちに、にがてなものがふえるとおもう……」
ため息が出た。
前世から、興味のあるものと、興味のないものへの落差が激しいのよね。
興味を持つと、のめり込んでしまうけど、興味がないと、頭からす~っと抜けてしまって、記憶の片隅に追いやられるのよね。
「じゃあ、ルイーズのにがてなものは、ぼくがとくいになるよ。だから、た~くさん、にがてなものがふえても、だいじょうぶだよ。ね?」
フェオドールの言葉を聞いて、顔が熱くなる。
天使は年を重ねても、天使なんだね。
澄んだ青い目を輝かせて『ね?』って……ゲームプレイ中に、こんなイベントがあって、スチルでも出ようものなら、床ローリングしてるわ。
「ありがとう、フェオドール」
「うん。それと、いうのがおそくなったけど、おたんじょうびおめでとう」
「ふふ、ありがとう」
話し込んでいるうちに、ダンスが終わりました。
最後の礼をすると、フェオドールが、腕に手を回す様にと促します。
フェオドールも、立派な紳士ですね。
フェオドールの腕に手を絡ませ、会場の隅に移動しました。
◇ ◇ ◇
挨拶回りに、陛下とのお話、ダンスをこなし、お腹ペコペコのルイーズです。
料理は立食式なので、美味しそうなものを山盛りチョイス。
立食式と言っても、座って食べる事も出来る様に、テーブルもあります。
料理長の料理は、何を食べても美味しいので、少し盛りすぎました。
エビのカクテル、ローストビーフのサラダに、Tボーンステーキ。
Tボーンステーキは、食べやすいようにカットしてもらい、ボリューム重視です。
「ルイーズ、やまもりだね~」と、フェオドールにびっくりされてしまいました。
「フェオドールは、それで、おなかいっぱいになるの?」
一口サイズに切り分けられた『カツサンド』と、私が作ってと頼み込んだ『から揚げ』少々。
男の子はガッツリ食べて大きくならないと……。
「ルイーズが、あいさつにまわってるあいだに、たべたからね。この『からあげ』って、いうのがおいしかったから、おかわり。えへへ」
「きにいってくれたんだ。その『からあげ』も『カツサンド』も、わたしがりょうりちょうにおねがいして、つくってもらったの」
日本の料理文化は凄いね。異世界でも大うけだよ。
私はこれを食べ終えたら、デザートも山盛りの予定です。
テラスの方で料理をいただこうとすると、誰かに呼び止められました。
「ルイーズさま、おたんじょうびおめでとうございます」
ダリウス・シュナウザー様と、ご令嬢がお二人……姉妹かしら?よく似てるわ。
「ダリウスさま、お久しぶりです。きょうは、おいわいにきてくださって、ありがとうございます」
「おひさしぶりです。こちらのおふたりが、ごあいさつをしたいとのことで、いっしょにまいりました」
こちらから、挨拶をするのね。貴族のルールって、少し面倒だわ。
「はじめまして、ルイーズ・ハウンドともうします」
私がそう挨拶をすると、ツリ目がちなオレンジの瞳に、深いブルーの髪のご令嬢が、カーテシーをしました。
「ルイーズ様、お誕生日おめでとうございます。私は、パトリス・シェパード子爵の子、ナディア・シェパードと申します。そして、この子は私の妹でございます」
「おたんじょうびおめでとうございます。わたしは、ナタリー・シェパードともうします」
妹のナタリー様は、ナディア様と同じ瞳の色だけど、髪の色が少し明るいブルーです。
ナディア・シェパード……聞いたことある名前ね。誰だったかしら?
私が思い出せずに、沈黙していると、フェオドールが「ぼくにも、しょうかいして」と言い、顔を覗き込んできました。
「ダリウスさま。ごしょうかいさせてくださいませ。こちらにいらっしゃるのが、フェオドール・マスティフさまです」
「はじめまして。ユーリ・シュナウザーはくしゃくがこ、ダリウス・シュナウザーともうします」
「はじめまして。ブライアン・マスティフはくしゃくがちょうし、フェオドール・マスティフです」
2人が挨拶をし終えると、私のおなかが『くぅ~』と鳴りました……。腹ペコ、辛い……。
フェオドールはクスクス笑ってるし、ダリウス様は笑っていいものなのか、わからなから、手で口元を覆ってるし……いや、笑っていいんだよ。子供だもの……。
「あの~。あいさつもすんだところで、しょくじをいただいてもよろしいですか?」
目の前で、おあずけされてる犬の気持ちです。
「もうしわけありません。しょくじのじゃまをしてしまって……」
申し訳なさそうなお顔をするダリウス様。
別にいいのですよ、ご飯さえいただければね。
「ダリウスさまもごいっしょに、おしょくじになさいませんか?わがやの、りょうりちょうのりょうりは、じまんなんですの」
「さきほど、すこし『カツサンド』というものを、いただきました。とってもおいしかったです」
そうでしょう。初めて『カツサンド』を作って貰って以来、進化を続けています。
今では『カツサンド』のソースは数種類、カツレツのお肉もチキンにポーク、ビーフ。
挟む野菜も、肉やソースによって変化します。
最近では、薄くスライスしたチキンにチーズを挟んでカツレツにし、トマトソースをかけた『チーズチキンミルフィーユサンド』が絶品だったわ。
私はケンゾーに、お料理を持ってきてとお願いして、ダリウス様とナディア様、ナタリー様に席を勧めました。
ダリウス様は座られたのですが、姉妹方は遠慮しています……。
「ルイーズ様。私は、レイナルド王太子殿下の侍女をしております。王太子殿下の婚約者候補でいらっしゃるルイーズ様と同席は、恐れ多くて出来かねます」
「……こんやくしゃこうほ?そのようなおはなしは、きいておりませんが……」
陛下が戯れに仰った言葉はノーカウントです。
家柄的に、他の貴族が候補にと、画策してる可能性もあるけれど、父様や陛下がお許しにならないでしょう。
「しかし……」
「じじつよ。ちちもへいかも、わたくしをこんやくしゃとして、たてることはないと、おっしゃってました。ですから、いっしょにしょくじをしましょう」
だから、食事をさせて。お願いよ。
「ぼくが、ルイーズをおよめさんに、もらうんだからね。とうさまにも、きょかをいただいてるし」
ふぇ、ふぇ、ふぇおどーる?!
さらっと爆弾発言をするフェオドール……マスティフ伯爵様も、なぜ許可したんですかっ。
父様から事情を聞き、巫女の伴侶となる可能性があると、知ってらっしゃるのに。
「えっ!ルイーズさまをこんやくしゃとして、おむかえしようと、ちちにおねがいしていたのですが……」
ダリウス様っ!!おまえもかっ!!
ルイーズ、一生に一度のモテ期なの??
折角のモテ期、勿体ない。
来るなら、邪神退治の後にして欲しいわ……。
ダリウス様とフェオドールは睨み合ってるし。
姉妹は呆気にとられてるし。
『ぐるるるるるるーー』もう、無理。もういいや……。
いただきま~す。
パクッ「おいしい~~♪くうふくは、さいこうのスパイスよね♪」
「ルイーズ。『からあげ』も、おいしいよ」
そう言いながら、フェオドールが『から揚げ』をフォークにさし、口に運んでくれました。
はむっ「おいしい~。さめてしまっても、サクッとしててジューシー」
料理長は料理の天才だね。
「フェオドールもいっしょにたべよう。ね?」
一人で食べても楽しくないので、フェオドールに食べる様、勧めます。
「うん、いっしょにたべようね。ルイーズが、もってきたおにくも、おいしそうだね」
ん?どっちだろ。Tボーンステーキかな?
「これ?」と聞くと、頷いてたので、ステーキをフォークでさし、フェオドールの口に運びました。
「おいしい」と、フェオドールはニッコニコです。
そうそう。
些細な睨み合いは、美味しいものでも食べて忘れてしまいなさい。
そう思っていると、ダリウス様が「わたしにも、ひとくち……」ポツリと一言。
「はい。どうぞ」と言って、Tボーンステーキを、ダリウス様の口に運びました。
「おいしいですね」
「そうでしょう。たくさんめしあがってくださいね」
ケンゾーが持ってきてくれた料理も含め、5人で食べさせあいっこをしながら、デザートまで完食しました。
少々強引に、着席させた姉妹も含めて。
ふう、落ち着いた。
お茶をいただきつつ、本音でも語りましょうか。
「ダリウスさま、フェオドール、おはなしがあります。わたくしは、こんやくしゃはもちません。しょうらい、すきになったかたと、けっこんしますので」
「ええーー!ルイーズは、ぼくのこときらいなの?」
フェオドールが頬を膨らませて、抗議します。
「すきよ。でも、すきはすきでも、けっこんしたいすきは、べつものなの」
幼少期の好きと、恋愛は違うもの。
幼少期は、一緒に居て、楽しかったら好きって思考になるし……。
「けっこんしたくなる、すきってどんなの?」
それは……子供に説明するのって難しいわね。
説明に困っていると、ダリウス様が口を開きました。
「ルイーズさま。どのようなかたと、けっこんしたいと、かんがえているのですか?」
ダリウス様、ナイス切り口!
でも、結婚の話を持ってくるより、お友達として、仲良くなりたいわ。
だって、従者面談以来で、お互いよく知らないでしょう。
「ダリウスさま。まずは、けっこんのおはなしより、おともだちとして、なかよくしてはいただけませんか?2ねんまえの、あのときいらい、おはなしもしたことがございません。あと、おともだちとして、なかよくしていただけるのでしたら『ルイーズ』と、およびください。そして、くちょうは、もうすこし、くだけたかんじでおねがいします」
堅苦しい言葉使いをしていると、いずれボロが出るわ。
まだまだ、慣れないのよね……。
「ル、ルイーズ……わかりました……いや、わかった。ぼくのことは『ダリウス』とおねがいします……いや、おねがい?」
そんな難しい注文したかな?赤面しながらも、砕けた口調で了承されました。
普段から、砕けた口調では話さないのかも。
「ダリウス、くだけたくちょうで、はなすのが、むずかしいのだったら、はなしやすい、くちょうでかまわないわよ。なまえは、だいさんしゃがいないかぎり、『ルイーズ』でいいわ」
私がそう告げると、少しホッとした様な表情をしました。
やはり、普段から畏まった口調のようね。
「では、ふたりともきいてね。わたしが、けっこんしたいとおもう、りそうをはなすわね。まず、わたしよりつよいひと。けんじゅつでも、まほうでも、どちらでもいいの。そして、じぶんじしんをたいせつにするひと。わたしは、じぶんがぎせいになってもって、かんがえかたはすきじゃないの。のこされたときが、かなしいから(前世の夫が先立った時に思ったのよね)とりあえずは、これくらいかしら」
私の話を聞いて、二人は「ぼく、まほうではルイーズより、つよくなるのはむりだから、、けんじゅつでつよくなる」と、フェオドールが拳に力をこめて宣言しました。
「では、わたしはルイーズより、まほうでつよくなります」と、ダリウスも力強く宣言します。
この後、10歳になったら冒険者になるという事を告げたり、魔法について話したり、将来は、世界中を旅して美味しいものをたくさん食べたいと言ったりと、楽しい時間を過ごしました。
姉妹は……聞いてるだけで、会話に加わってはくれませんでした……。
嫌われてるのかな?
◇ ◇ ◇
誕生日パーティーも終わり、集まって下さった方達が、帰って行かれます。
ダリウスとは、お茶会の約束をしました。
フェオドールと、マスティフ伯爵様は、一泊して帰るそうです。
マスティフ伯爵様と陛下と父様は、お酒を嗜みながらお話をされ、楽しい時を過ごしたようです。
3人集まっての、会話は学園以来だそうです。
濃密な1日だったので、くたびれました。
もう、ぐっすり休みたいです。
明日、起きたら頂いたプレゼントを開封しましょう。
ドレスという戦闘服を脱ぎ、寛ぎ体制になった時……。
思い出したーーーーーーー!!
ナディア・シェパード、レイナルド王子の侍女。
密偵の様な事や、暗殺の様な事までする有能な、影。
戦闘パートで、王子が必殺技を繰り出すときに、出てくるのです……。
私、嫌われてないよね?