15話
身長差を生かし間合いを詰め、木剣を振りかざす。
カンっと音が響き、手に痺れが走る。
動きを読まれ、木剣を弾き返された。
落としそうになった木剣を、再び握りしめ、後ろに大きく跳躍する。
呼吸を整える一瞬の隙を見逃さず、距離を詰められる。
木剣でガードしようと、腰を落とし身構える。
勝負は決したと言わんばかりに、敵は動きを止める。
ガードを解き、後ろに回り込む。
大きく跳躍し、飛びつく。
首に手を回し、降参の有無を問う。
「とうさま、こうさんしますか?」
「ふむ、最後まで諦めない姿勢は称賛するが、剣術としては、まだまだ未熟だな」
「やはり……では……まだ、きょかはいただけませんか?」
「いや、学ぶのは許可しよう。しかし、冒険者になるというのは、父に勝ってからだ」
父様に、冒険者になる許可をいただく話をしたのですが『剣術で勝ったら許可しよう』と、訓練所に連れていかれ、木剣を持たされ、いざ勝負!となった訳です。
父様に剣術を習い始めて、まだ幾日も経っていません。
どんな、ムリゲー?ですか、父様。
でも、最後は父様が、動きを止めてくれたので、後ろに回り込むことが出来ましたけれど。
娘をおんぶしてる状態は、少し嬉しいのか、父様はご機嫌なご様子。
剣術では、完膚なきまでに負けましたが、『愛娘アタック』で、学ぶ許可をもぎ取りました。
イエーイ!!
「ありがとうございます。とうさま、だいすきです」
「……ルイーーーズ!!父様も、大好きだぞーーーーーー!!」
父様は、私をおぶったまま、ハイテンションで訓練所を走り出しました。
と、とうさま………振動で……ギ モ゛チ゛ワ゛ル゛イ゛……デス……。
◇ ◇ ◇
ぐったりした私を、ベットに寝かせた父様が、去り際に仰いました。
「ルイーズ、そろそろ、共に戦える従者をつけようかと思ってるんだが、どうだろう?将来、冒険者になるというのはさて置き、戦うという選択肢は変えまい。よく考えて、結論が出たら、話に来なさい」
従者ですか……。
ルイーズに従者なんて居たかしら?
貴族に従者や侍女が仕えてるのは、普通の事だけれど。
思い出せー!ルイーズのスチルーーー!
…………。
無理ね。
脇役の人間関係なんて、作ってないだろうし。
断罪の時に控えていた侍女がルイーズ付きだったのかもわからないし……。
私が、ゲームの話通りに進めないから、変わったって事にしましょう。
共に戦うとなったら、同じくらいの年頃だといいわね。
父様は、私が冒険者になるって事を、反対してる訳ではないのよね。
危険が付き纏うから、親心で仰っているだけで。
従者の事にしても、安心材料として提案されたようですし。
……、今日はゆっくり休みましょう。
考え事をしていたら、気持ちの悪さがぶり返してきました……。
◇ ◇ ◇
翌朝、父様と剣術の稽古をしつつ、従者の事について話しました。
「とうさま、じゅうしゃのことなんですが」
「心は決まったのかい?」
「はい。わたくしも、ともにたたかってくれる、じゅうしゃがいると、こころづよいです」
「幾人か候補を連れてくるから、自分で選びなさい」
「えっ、わたくしがえらぶんですか?」
「人を見る目を養うのも、必要な事だよ。……まあ、候補の段階で私が選び、最終的にルイーズが決めるという訳だけれど」
そう聞いて、安心しました。
父様が候補にと挙げるのでしたら、素晴らしい人材でしょうし。
従者の話は、一旦置き。
剣術の稽古に、身を入れます。
父様との剣術の稽古は、日に日に厳しくなっていきます。
私は、受け身が上手になりました。
剣で弾き飛ばされ、空を舞う。これは、以前と同じ。
けれど、体をねじり、痛くない着地が出来る様になったのです。(パチパチパチ)拍手!
それによって、青痣が格段と減りました。
「ルイーズは、受け身がうまくなったね。あまり、剣術をしている様には見えないが」
「(むう~)とうさま、ずっと、はじきとばされてるのですよ。けんをかわすより、くうをまってるじかんのほうが、ながいのです」
「なんだろう……ルイーズを見ていると、剣士と言うよりは、暗殺者の様に見えるんだが……」
……アクロバティックな動きだから?
私は、サーカスの曲芸師の様に感じていますけれど。
「この、へんそくてきなうごきで、とうさまをほんろうしてさしあげます」
そう言って、私はバク転をし、父様に近づきます。
この体、凄いんだよ~前世では運動音痴で出来なかった、バク転や、側転、前方宙返りなんかも出来るの。
「いくら変則的な動きと言っても、まだまだ未熟っ!」
「くっ!」
またもや、空を舞うルイーズです。
綺麗に着地はしました。
「つねづねおもっていたのですけれど、とうさまのけんじゅつの、うでは、せけんいっぱんで、どのあたりになるのですか?」
「う~ん。最近は、自己鍛錬ばかりだから、腕が鈍っていそうだけど、昔は剣聖の再来かと、言われたことがあるね」
「…………」
ポッカーンですよ!
イケメン宰相、魔法チート、剣術チート。モテ要素満載ですか!
父様が、主人公で良くない?
「とうさま。じゃしんは、とうさまがたおせるのではと、おもえてきました」
「ハッハッハ、いくら、父様でも邪神は倒せないよ。たぶん……」
まあ、邪神はかなり手強いですから、父様一人では無理でしょう。
巫女に穢れを祓ってもらって、弱体化した邪神なら、倒せるかも知れませんが。
◇ ◇ ◇
父様と鍛錬が終わった後、私は調理場に突撃しています。
無性に!揚げ物が食べたくなったのです。
から揚げも食べたいけど、今はカツサンドの気分なのよね。
「りょうりちょう!『かつさんど』がたべたいので、つくってください」
3歳児の体で、器用に揚げ物が出来ると思わないので、料理長にお願いします。
「お嬢様、『かつさんど』とは、どういったものですか?」
あれ?
この世界『カツサンド』はないの?
カツレツがあるので、てっきり『カツサンド』もあると思っていました。
「かつれつは、あるでしょう?それを、そーすにつけて、やさいといっしょに、ぱんではさんで、さんどいっちにするの」
「カツレツをサンドイッチにですか……承知いたしました。お作りして、お持ちします」
「みていては、だめかしら?りょうりができあがる、かていを、みるのがすきなの」
前世から、何かを作り上げる過程を、見てるのが好きだったのよね。
工場見学とかも楽しかったし。
「構いませんが、油を使う為、危のうございますので、離れていてくださいね」
料理長の許可をもらい、カツサンドが出来るのを待ちます。
料理長の名前は『ブリュノ』と言うそうです。年は30歳。
ジルに聞いた情報です。
グレーの瞳が優しげで、すこし長めの茶色い髪は、後ろで軽く束ねています。
この世界、濃い顔ばかりですが、料理長は日本人っぽい顔をしてるのです。
なんだか、安心感があるのよね。
海外旅行先で、日本人に会うと、ほっとするみたいな感じでしょうか。
そんな事を考えてると、カツが揚がりました。
美味しそう~~
醤油もあるし、今度は『かつ丼』をお願いしようかしら。
「お嬢様、カツレツのソースはどれに致しますか?」
この世界に、トンカツソースは無いから、拘りはないのよね。
「どれでもいいわ。すこし、こいめのあじつけのそーすに、やさいとぱんにあうようにおねがいします」
料理長はプロだからね。
お任せした方が、美味しいものが食べられそうです。
「承知いたしました。では、このブラウンソースと、野菜を刻んだものを挟みましょう」
うんうん、料理長お手製のソースは最高ですから、美味しいの間違いなし。
「さあ、お嬢様。出来上がりましたよ」
この世界で食べる初『カツサンド』の完成です!
「あつあつを、いただきたいので、ここで、たべてもいいかしら?」
「構いませんよ。お茶をご用意をいたしますね」
そう言って料理長は、お茶を淹れてくれました。
「いただきます」
はむっ、美味しい~~~お肉の脂がほんのり甘くて、肉汁も溢れてます。
ブラウンソースのしっかりした味付けに、みずみずしい野菜。
後引く美味しさです。
「おいしいです♪りょうりちょうのつくるりょうりは、どれもさいこうです」
「お嬢様は、どれも美味しそうに召し上がって下さるので、作り甲斐がございます」
邪神の事も心配だけれど、料理長の料理を食べられなくなる方が不安に感じるのよ。
食いしん坊は、生まれ変わっても直らないのね。
念願のカツサンドを食べた後、カツ丼のレシピを料理長に伝えました。
食卓に、カツ丼が登場する日も近いでしょう。
あ、父様も、母様も、お箸を使えないわ。
ナイフとフォークで食べるカツ丼って……。
自分用のお箸もないし、カツ丼を食べる前に、お箸の用意をして貰わなくては……。