13話
マスティフ伯爵様とフェオドールを、おもてなし中です。
料理長特製『アイスクリーム』プレートは、盛り付けの美しさで目を楽しませ、一口食べた瞬間、頬を緩ませる。
「おいしい~~♪」
「ほう~~。これ程に、美味しいデザートは、初めてだ。確か『あいすくりーむ』と言ったね?ルイーズ嬢が考えたと聞いたのだが、是非、キャロルにも食べさせたいから、レシピを教えてくれまいか?」
レシピを教えるのは簡単だけれど、冷凍庫がないと、魔法で作らないといけないのよね……。
大丈夫かな?
「ますてぃふはくしゃくさま、れしぴは、おつたえできますが『こおりまほう』がひつようになりますし、かなりのてまひまも、ひつようとなります。わがやには『れいとうこ』という、まどうぐが、せっちされていて、つくりおきもできるようになっていますが……あの……もし、おじゃまでは、ないのでしたら、わたしがつくりにいっても、よろしいですか?」
伯爵家の調理場にお邪魔するのは、やり過ぎかな?と思ったけど……。
私も是非、伯爵夫人に召し上がっていただきたいと思ったので、お伺いしてみました。
「おっ!良いのですか?是非、当家にいらして『あいすくりーむ』を作って頂きたい。キャロルも、フェオドールも喜びます」
マスティフ伯爵様は、『そうだろう?』という感じで、フェオドールの顔を見ました。
フェオドールは、頬を膨らませて「もうー。るいーずが、きてくれるのは、うれしいけど……」と、もにょもにょ言っています。
最後の方は、聞き取れませんでした。
さて、おもてなしも済んだことだし、訓練所に行ってフェオドールの魔法を見せていただきましょう。
「ますてぃふはくしゃくさま、かあさま。ふぇおどーると、そとにいってもよろしいですか?」
「ああ、子供は外で遊ぶのが一番。フェオドール、行っておいで」
快く了承してくれる、マスティフ伯爵様。
「ええ、外で遊ぶのは、かまわないけど。ルイーズ?くれぐれも、気を抜かず、加減するのよ」
……母様。
最近、眼光が鋭くなってきています。はい、私のせいですね、気を付けます。
父様に披露するような、魔法は使いませんのでご安心を。
「はい、かあさま。ごあんしんを。ふぇおどーるに、まほうをみせていただくだけです」
そういうと、母様は安心したようです。
「「では、いってまいります」」
二人で手を繋ぎ、訓練所に向かいます。
移動中に手を繋ぐのは、お約束になったようですね。
自分の魔法と、父様のチート気味な魔法以外は、見たことがないので本当に楽しみです。
訓練所に着くと、フェオドールが広さに驚いていました。
うん、うん、わかります。
私も初めて入った時は、広さにびっくりしました。
今では、私も使用させていただいてますが、元々は父様専用でしたし。
「ひろいでしょう?わたしも、さいしょはひろくて、びっくりしたもの」
「ひろいね~~」
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ぽかんとしたまま、数分。
時間は限られてるので、そろそろ披露していただきましょう。
「ふぇおどーる、あそこに、まとがあるから、あれをねらって、まほうをうってみてくれる?」
「うん。いっくよー!『ふぁいやーぼーる』!」
フェオドールが、魔法を発動させると、なんとか形になった様な火の玉が、ふよふよ漂い始めました。
ふよふよ、ほわほわって感じでしょうか?
漂う火の玉が、ぽふっと音をだし、的に当たります。
的に当たったのを見たフェオドールは、最高の笑顔で「あたったね~」と嬉しそうです。
そんな、フェオドールを見ていると、私も嬉しくなって「あたったね~」と微笑みました。
フェオドールの魔法を、少し改善しても怒られないでしょうか?
改善できると決まった訳ではないですが……『攻略対象者』には、強くなって欲しいですし。
…………よし!怒られる覚悟で、改善して見ましょう。
私は、目に魔法をかけ、フェオドールのマナの循環を見ました。
うん、マナの循環は良いですね。子供だからなのか、取り込むマナが少ない様に感じますが……。
オーラの色は、黄色でしょうか?輝いてるので黄金色にも見えますね。
では、取り込むマナを増やす為、太極拳をやってみましょう。
「ね、ふぇおどーる。わたしと、とうさまは、まなをたくさんとりこむために『たいきょくけん』というものをやってるの。ふぇおどーるもやってみない?」
「まなをたくさん?それをすると、どうなるの?」
「まなを、たくさんとりこむことができたら、まほうのいりょくが、たかくなるの」
「いりょくがあがるの?うん、ぼくやってみる!」
「「すうーーー」」
「「はあーーー」」
「るいーず、からだがぽかぽかしてきた。すうーーー」
「まなをたくさんとりこんでいるからね♪すうーー」
「これは、まいにちするほうがいいの?はあーー」
「そうね……まいあさ、おきてからおこなうといいわ。はあー」
「あさだね、わかった。すううー」
「「はあー」」
「はい。おつかれさまでした」
「はい」
太極拳の後の、マナの循環を見てみると、大量のマナが取り込まれ、蓄えられていました。
魔法の威力が、先ほどと違うのか試してもらいましょう。
「ふぇおどーる、まなのじゅんかんがよくなったから、もういちど『ふぁいやーぼーる』を、うってみてくれない?」
「うん!いくよ~『ふぁいや~ぼ~~る』」
凄いっ!ふよふよしてるのは、変わらないんだけれど、先ほどと大きさが違います。
直径50センチほどの火の玉が、ふよふよ漂って、的の方へ向かいました。
ボフッという音ととも消えた火の玉。
「ーーーーーーす、すごーい!!こーんなおおきな『ふぁいやーぼーる』みたことない♪」
「おおきいひのたまだったねえ~。びっくりしちゃった♪」
マナの循環が良くなって、大きな火の玉が出来たんだとしたら、火の玉のイメージを安定させたら、丁度いい大きさで、威力が増したものが出来そうですね。
「じゃあ、つぎは、ひのたまをしっかりつくるれんしゅうをしましょう」
「ひのたま?」
「ええ、まずは、からだのなかのまなが、てのひらに、あつまっているようないめーじを、おもいえがくの」
「おもうの?やってみるね」
フェオドールは、自分の手の平をじっと見つめて、マナを集め出しました。
「なんだか、てのひらが、ぽかぽかしてきたよ」
「まなが、あつまってきてるからね。じゃあ、そのままのじょうたいで、あつーいひのたまをしっかりと、ぞうぞうしてみてね」
「このまま、ひのたまをつくるんだね。よし!」
フェオドールは、しっかりとイメージが出来ないのか、うまくいきません……。
「ああ、うまくいかない」
イメージが難しいのかもしれませんね。
一緒にやったら、成功するかも。
「ふぇおどーる、いっしょに、やってみましょう。まほうは、いめーじがだいじだから、みたことがないものは、むずかしくなるの」
「じゃあ、るいーずのまねするね」
私の手の平に浮かんだ、火の玉。それを参考に、フェオドールも火の玉を作ります。
ーーー成功です!
やはり、見て試すのが一番の近道なのかも知れません。
「せいこうです!ふぇおどーる、すごいです」
「えへへ、できたね~」
少し照れくさそうに、少し誇らしく微笑むフェオドール。
では、この火の玉を使って『ファイヤーボール』をうってみましょう。
「ふぇおどーる、このひのたまを『ふぁいやーぼーる』にしましょう。わたしが、まとへうつので、みててね」
「うん」
『ファイヤーボール』が発動し、的へと向かいます。
ヒューーーーッ、バキッという音とともに、的に穴が開きました……。
加減してるといえ、私の魔法は、まだ、威力が強いようです。
「るいーずっ!すごいよ!あながあいてるよ!じゃあ、ぼくのばんだね。がんばるよ~」
興奮気味なフェオドールは、次は自分の番だ、と気合を入れました。
フェオドールの発動した『ファイヤーボール』は、明らかに変化しています。
炎の大きさも、丁度良く、スピードも出ています。
ヒューーーッ、バシッ!!という音とともに、的が…………。
「わあーーーー!もえてますーーーー!みず、みず」
「わーー!みずーー!」
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・
なんとか『ウォーターボール』で消し止めた的……。
これは、父様にコッテリ叱られる案件かもしれませんね。
自重しなかったことに関して母様に叱られ、危うく火事になりかけた事を父様に叱られる未来が、容易に想像できます。
私の未来は決まったも同然!ならば『ウィンドカッター』も、強化してしまいましょう。
そんな事を考えてると、フェオドールが心配そうに、私の顔を覗き込みました。
「るいーず、ごめんね……あんなにつよい『ふぁいやーぼーる』が、うてるって、おもってなかったから……ぼく、こうしゃくさまと、こうしゃくふじんにあやまってくるね」
私は、今すぐ謝罪に行こうとするフェオドールを、引き留めました。
「あのね、わたしのまほうのいりょくが、つよいのも、ちしきによって、きょうかされるのも、とうさまも、かあさまも、しってらっしゃるの。それで、きをつけるようにって、いわれてたのだけど、きをつけなかったわたしが、わるいの。だから、ふぇおどーるは、わるくないの」
「でも……、ぼくもいっしょに、あやまるよ」
正義感が強くて、優しいフェオドール。本当に、私が自重しなかったせいなんですが……。
父様も母様も、私が悪いとわかっていらっしゃるでしょうし、そばにフェオドールが居てくれると、心強いですね。
「あのね、ふぇおどーる。ひとりで、しかられるのはこわいから、そばにいてくれる?」
と、提案してみました。
「うん。ぼく、るいーずのそばにいる。いっしょにあやまって、しかられよう。いっしょだから、こわくないね」
なんだろう、この幼馴染は……天使かもしれない……可愛すぎる。
この世界には、天使がたくさん居ますね。
「ありがとう、とってもこころづよいわ。……でも、しかられるまえに『うぃんどかったー』も、つよくしちゃいましょう~!」
「『うぃんどかったー』も?」
「さっきとおなじように、てのひらにまなをあつめて~、ふぇおどーるもいっしょにやってみてね」
「あつめて~」
フェオドールは言われるがまま、マナを集め始めました。
「わたしがさきに、はつどうさせるから、みててね。『うぃんどかったーー』」
シューッ!ザッザッ!と、いう音とともに、的が切り刻まれていきました。
自重したイメージ通りに、うまく出来ました。
「うわ~~るいーずじょうずだね~。ぼくもがんばるね。いくよ~『うぃんどかったー』」
フェオドールが発動した魔法は、シュッ、ザシュッ!と、いう音とともに、一瞬で的を切り込み、真っ二つになりました。
「……ふぇおどーる、すごいね」
「……すごかったね」
「びっくりしちゃったよ」
「ぼくも、びっくりした」
「「ハハハハ」」
……人は、驚きすぎると声を失い、後に笑うしかないようです。
フェオドールが発動した『ウィンドカッター』は、私が手本に発動したものより、高威力でした。
『攻略対象者』を、強化するという目標は、一先ず達成でしょうか?
◇ ◇ ◇
日が傾いた後、二人で「「たのしかったね~」」と、ニコニコしながら、訓練所を後にしました。
父様や母様に、コッテリ叱られる未来を、スッポリ忘れて……。