12話
朝日が昇りはじめ、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
これが、朝チュンというやつですね……。
身も心も、クタクタの体。
アンデッドの様な動きしか出来ない幼女ルイーズ満3歳。
拝啓、父様へ。
いつも優しい、父様。
一緒に、魔法の試し打ち♪をしてる時、少年の様な目をしてる、父様。
私を可愛いと、仰ってくれる父様。
私の話を、真剣に聞いてくれて、将来の為、無理なお願いも聞いてくれる父様。
常々、ルイーズは、過保護で、甘々以外の父様を見てみたいと、思っていました。
そう、思っていたのです。
けれど……。
熱血な父様が、こ、こんなにも……。
容赦がないなんて、ルイーズは思ってもいませんでした。
『あいつ、車に(バイクに)乗ると人格が変わるんだよな~』などは、前世でも聞いたことがあります。
当事者からすると、迷惑な事だったのですね……。
剣は、父様にとって、車やバイクの様な物だったのですね。
日課の太極拳が終わった後、訓練所の周囲を走り込む事5周。
これは、許容範囲でした。
木剣での素振り、200回。
私専用の、短めの木剣とはいえ、筋肉も出来上がってない幼女に、スパルタだな~と思ってました。
立っている父様へ、打ち込み稽古。
父様の体に触れるとOKだそうですが……。
打ち込み、反撃され飛ばされる、打ち込み、反撃され飛ばされる。
延々と繰り返し『ルイーズは、まだまだだなあ。父様に、一撃でも入れれば、免許皆伝だ!』
一部始終見ていたジルが、顔を青くして、アワアワして、反撃され飛ばされる事7回目の時、気を失っておりましたよ。
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父様、もう少し、基礎が出来上がってからでは、駄目なのでしょうか?
剣術においては、ド素人なルイーズですが、何か違うと感じるのです。
体で、覚えろというやつでしょうか?
『よし!今日はここまで。初めてにしては、よくやったぞ、ルイーズ!』と爽やかに出ていかれた父様。
ルイーズは、もうしばらく、床とお友達でいたいと思います。
敬具
◇ ◇ ◇
アンデッド仕様のルイーズです。
目を覚ましたジルに、回復魔法を勧められましたが、筋力をつけるのに弊害があるかもしれないので、そのままにしています。
子供だから、回復も早いでしょう。
屋敷に戻ると、母様が声にならない悲鳴をあげ、へたり込まれた後。
怪我の有無を調べる為、道着を毟り取られました。
青痣をチェックされ「女の子なのに~~」と言いながら、ワナワナされています。
安心していただかないと、剣術の稽古をやめさせられるかも知れませんね。
「へいきですよ、かあさま。しょにちですので、つかれましたが、とても、すばらしいけいこでした」
「でも、ルイーズは女の子なのよ」
「たたかえるれいじょうですよ。かっこいいではないですか♪」
「邪神の件さえなければ、許可しないのに。邪神、許すまじですわ……ルイーズ、せめて青痣だけは、回復魔法で治してくれないかしら?見ているだけで、気が遠くなりそうなの……」
「わかりました。あざだけは、かいふくまほうでなおしておきますね」
回復魔法を発動させ、淡い光に包まれ消えていく、痣。
それを見た母様が、安心なさったようで、話を切り出しました。
「そうそう、ルイーズ。先ほど、マスティフ伯爵様から、お手紙が届いたのよ。その中に、はい」
1通の手紙を手渡されました。
フェオドールからの手紙です♪マスティフ伯爵様からのお手紙で、ご家族の様子は聞いておりますが、直接手紙をいただくのは初めてです。
「ふふ、ラブレターかしらね♪ルイーズは、文字が苦手だし、読めなかったら、言ってね♪」
そういって母様は、私室に入って行かれました。
部屋に戻り、お風呂でさっぱりした後、手紙を読むことにしました。
『しんあいなる、るいーずへ。
げんきにしていますか?
るいーずが、かあさまのやまいをなおしてくれたあと、ぼくは、まほうのべんきょうをはじめました。
はじめのうちは、おもうようにまほうが、はつどうしなかったけど、さいきんでは【ふぁいやーぼーる】がうてるようになりました。【うぃんどかったー】も、うてるようになったんだよ♪
ぼくも、3さいになったし、とうさまが【はうんどこうしゃくけのるいーずじょうに、ちょくせつおれいをいえるように、つれていってやろう】と、おっしゃってくれたんだ。
だから、もうすぐあいにいきます。
あったときも、おれいをいうけど、てがみにもかくね。
かあさまをなおしてくれて、ほんとうにありがとう。
るいーずに、あえるのをたのしみにしています。ふぇおどーるより』
ふふ♪まだ、満足に文字も書けない私が言うのもなんですが、たどたどしい文字が可愛いお手紙です♪
もうすぐって、いつでしょう?
お返事を書くにも、入れ違いになるといけないし、母様に聞いてみましょうか。
部屋を出て、母様の私室に向かいました。
天使が寝てるといけないので、小さな声でうかがいます。
「かあさま、いま、よろしいですか?」
「ええ、ジョゼも起きてるし、大丈夫よ」
その返答に安心して、部屋に入ります。
「かあさま、ふぇおどーるさまのおてがみで、もうすぐ、あいにこられると、かかれてたのですが、いつごろいらっしゃるのか、しってらっしゃいますか?」
「ええ、もうすぐね♪」
「……?」
「もうすぐ、お着きになると思うわ」
「……きょう?」
「ええそうよ、ふふ♪びっくりした?」
……はい、とってもびっくりしました。
母様、悪戯っ子みたいなお顔をされてます。
っが!
「かあさまっ!ゆっくりしているばあいではないです。おもてなしのじゅんびを……」
私の言葉を遮り、母様が「大丈夫よ、おもてなしの準備は出来てるから。ルイーズは、身支度だけ整えてきなさいね。」
……これじゃあだめなんでしょうか?カンフー道着、ピンクのヒラヒラ付き、ジル渾身の作です。
「ルイーズ、不思議そうな顔してるけど『かんふーどうぎ』ではなく、ドレスを着て来てね♪」
母様、怖いです…笑顔で威圧しないでください……。
「はい、かあさま。きがえてきますね」
渋々だが、そう言うしかなかった。
意気揚々なジルに、ゴッテリ着飾られて、ゆっくりフェオドールを待とうかと思ったけれど、フェオドールに『アイスクリーム』を食べさせてあげようと閃いて、調理場へ突撃しました。
「りょうりちょうっ!もうすぐ『ますてぃふはくしゃくさま』がたが、おみえになるそうです。『あいすくりーむ』でおもてなししたいので、つくるのをてつだってほしいのです!」
バンッ!と、突然勢いよく開け放たれたドアと、飛び込んできた幼女に驚いた料理長。
「おっ、お嬢様!勢いよく入ってこられては、危のうございます。それに『あいすくりーむ』は出来上がっておりますよ」
「あっ……ごめんなさい。それと『あいすくりーむ』はできてるの?」
「ええ、お嬢様。先日『れいとうこ』なる魔道具が完成したと、魔法省の方が持ってこられました。それを使い、お嬢様のレシピで『あいすくりーむ』を作ってみたのですが、味見していただけますか?」
凄い!冷凍庫が出来て、我が家に設置されてたなんて♪『アイスクリーム』の作り置きが出来るのなら、『パフェ』も食べられるわ♪
「はい、りょうりちょう。あじみさせていただきますね」
そういうと、真っ白なお皿に『アイスクリーム』と、カットされた季節のフルーツ、赤い果実のソースが回しかけられ、美しく盛り付けられたものが現れた。
「たべるのがもったいないくらいに、きれいだわ♪」
自然に感想が零れ落ちた。
「味見していただかないと、お客様にお出しできませんので、召し上がっていただけますか?」
そういって、笑みを浮かべる料理長。
「そうよね♪」
崩すのが勿体ないけど、いただきます♪
果実のソースとアイスを絡めて、一口……。
「おいしい~~~~♪かじつのさんみと『あいすくりーむ』のあまさがちょうわして、とってもおいしいわ♪わたしがつくったものより、おいしくできてるのは、さすがね。りょうりちょう♪」
「お褒め頂きありがとうございます」嬉しそうに、礼をとる料理長。
素人の趣味で培ったお菓子のレシピも、料理長の手にかかると高級レストランの味になるのね。
本当に、凄いわ♪
次は『グラノーラ』を作って貰おう。パフェにも合うし、フルーツと牛乳で食べるのも美味しいし。
そんな事を考えつつ、あっという間に食べ終わった『アイスクリーム』
「ごちそうさまでした。これなら、ますてぃふはくしゃくさまも、ふぇおどーるさまも、だいまんぞくしていただけるわ♪では、おきゃくさまがいらしたら、おねがいしますね」
「畏まりました、お嬢様」
料理長の返事を聞き、おもてなしの憂いもなくなったし、お庭の花でも見ながらフェオドールの到着を待ってようと、調理場を後にする。
◇ ◇ ◇
花の種類には、詳しくないけれど、色彩豊かな花が目を楽しませてくれる。
フェオドールに会ったのは、私が2歳になる前だったから、1年ほど経ってる。
大きくなったのかなぁ~と、考えてると、屋敷の正門の方が騒がしくなった。
「お嬢様、お客様が到着されたようです。お出迎えお願いします」
そうジルに言われ、正門の方へと向かう。
正門へ着くと、我が家の門兵の2人と執事長が居た。
ちなみに、門兵の2人の名前は知らない。
抜け出すと思われているのか、父様から正門の方へは近づくなと言われているのです。
さすがに、もう少し大きくならないと、脱走なんてしないのにね。
執事長の名前は『クレマン・ハリア』男爵家の三男だそうです。
薄茶色の髪に、この世界では一般的な青い目、目線は鋭いですがとっても温和な人なのだそうです。
ジルが万能過ぎて、他の使用人と関わる機会が少ないのです。
普段、執事長は、父様や母様のそばで待機してますので、こういった情報源はジル提供となっております。
◇ ◇ ◇
伯爵家の家紋が施された馬車から、マスティフ伯爵様とフェオドールが降りてこられました。
「ようこそお越しくださいました」と、執事長が恭しく礼を取る。
まだまだ拙いけれど、私も淑女の礼を取り「ますてぃふはくしゃくさま、ふぇおどーるさま、こころより、おまちもうしあげておりました。ちちも、じきにかえってくるかと、おもいますので、なかでゆっくりとおくつろぎください」
マスティフ伯爵様は、以前見た時と同じように、爽やかな笑みを浮かべている。
「お招きいただきありがとう。ルイーズ嬢は、大きくなって、益々愛らしくなったね」
ほっ、ほめても、なにも出ませんよ……料理長特製の『アイスクリーム』は出ますけど。
顔が赤くなるのがわかる。思わずうつむいてしまった。
家族以外から褒められるのが、こんなにも恥ずかしいだなんて、思ってもいなかった……。
「るいーず?」
フェオドールが、どうしたの?と、首をもたげる。
フェオドールは、ぷにぷにした頬がスッキリ引き締まって、男の子らしくなっていた。
そうよね~前は、まだ赤ん坊と言っていい年だったし。
今もお互い小さいんだけどね……。
「フェオドール、貴族としてきちんと礼を取りなさい」
マスティフ伯爵様にそう促されたフェオドールは「ぶらいあん・ますてぃふがちょうし、ふぇおどーるともうします。ほんじつは、おまねきいただきありがとうございます」
そう言いながら、テヘっと笑うフェオドール。
つられて私も笑顔になる。
そんなやり取りをした後、執事長に促され、ともに屋敷に入った。
なぜか、フェオドールと手を繋いで。
友達だから手を繋ぐって……そういうもの?
前世の幼い時を思い出して…………。
って、思い出せるかっ!
まあ、仲良しな感じがするから、いいわ♪
あれから、あった事をたくさん教えてもらいましょう。
魔法も披露してもらうから、訓練所に行くのがいいわね。
楽しみだわ♪