11話
ルイーズ・ハウンドは、3歳になりました。
この世界、5歳、10歳、15歳の誕生日を盛大に祝う習慣があるそうですが、それ以外の年の誕生日は、家族のみで、簡素に祝うのです。
10歳になると、社交界デビューがあり、貴族のつとめとして、出席せねばならないらしく、3歳になると淑女教育が始まるのです……。
「はぁ~。ゆううつだわ~」
「お嬢様?どうされたのですか」
「だって、しゅくじょきょういくには、だんすがあるのよ。だんすをおどるには、かびな、どれすをきるのよ」
「はあ。それがなぜ、憂鬱なのでしょうか?」
ジルはわかってないわね。
今、着てるドレスは幼子の動きを阻害しないように、緩やかなワンピース仕立てだけど、ダンスで着るドレスは、ガッチガッチの戦闘服の様なものなのよ。
カンフー道着で、楽ばかりしていたから、弊害が出たのね。
「かたくるしいどれすは、にがてなの。きかざるのも、にがてなのに……」
「もったいない……私は、お嬢様付きとして、進言致します。お嬢様は、もう少し着飾るべきです。そ、そんな、愛らしいお姿なのに、普段は『かんふーどうぎ』という服装……レースやフリルの付いたものは、邪魔!と言って、外してしまわれますし……うっ……ぐす……お、お嬢様を、愛らしく、整えさせていただくのが……ぐすっ……楽しみでしたのに……」
話してる最中に、急に泣き出したジル。
「わ~~なかないで~!す、すこしくらいなら、じるのすきなようにしても、よいから、なきやんで、ね?」
普段から、突拍子もない事をしても笑顔でついてきてくれるので、不満などはないと思っていたけれど、私を着飾るのを楽しみにしてたとは……。
確かに、女の子を着飾るのは楽しいもんね、自分が標的だと、逃げたくなるけど。
少しくらいなら、我慢しますか。
泣いていたジルが、顔を上げ、
「本当でございますか?」
「ええ、ほんとうよ。なんなら、いまからでも、じるのすきなようにしてもいいわ!だから、なかないでね?」
「おじょうさ゛ま゛ーーーーー」
また泣き出した、落ち着くまで待ちましょうか……。
◇ ◇ ◇
「ふふ♪お嬢様に着ていただこうと頑張って仕立てました」
上機嫌で、私にドレスを着せるジル。
ベビーピンクの光沢のある生地に、小さな真珠や小花の刺繍がちりばめられ、アンティーク調のレースで縁どられています。愛らしくも上品なドレスに仕上がってますね。
後ろで結んでる大き目のリボンが羽の様にも見えます。
「髪も伸びてきましたし、編み込んで、レースのリボンで飾りましょう♪」
普段は、簡単にツインテールで済ませるので、まな板の鯉の様な気分です。
「ふぅ~完成です♪はあ~なんて愛らしいのでしょう♪こんな幸せな日が来るなんて……さあーお嬢様!ご主人様や奥様に、ご覧になっていただきましょう!」
妙にテンションの上がったジルに促され、父様や母様にお披露目する事になり、階下へとむかいました。
着慣れないドレスを着ているせいか、妙に気恥ずかしくて、モジモジしてしまいます。
「とうさま、かあさま。じるに、きせてもらったのですが、にあってますか?」
「まあ、まあ、なんて素敵なんでしょう~♪とても愛らしくて妖精の様だわ♪」
母様、あまり褒めないでください。
居た堪れない気持ちになります……。
父様はムクリと立ち上がり、駈け寄り私を抱き上げます。
「アデール。我が娘は、妖精だったのか!最愛の妻は、妖精を誕生させたのだな。ああーー!なんて愛らしいんだ。さあ~、父様に、じっくりと見せておくれ」
父様の暴走が激しくなり、泣きそうです……。
ジル、満足気な顔をしていないで助けてください。
この後、行く先々に父様がくっ付いて、離れてくれませんでした。
溺愛してくれるのは嬉しいのですが、愛が濃厚すぎます。
◇ ◇ ◇
我が家の天使ジョゼは、つかまり立ちを覚え、ハイハイで移動する術を得ました。
歩く日も近いでしょう。
今は、家族にしか理解できないようですが、言葉も話せるようになりました。
天才かもしれません。
私が話しかけると「あい!」と返事もしてくれるのです。
ジョゼのお気に入りのぬいぐるみも、私が傍によると「━━ぞ」と言って渡してくれるのです。
なんて優しくて、可愛いのでしょう~♪
私は、ジョゼを守るために武術を習いたいと思いました。
剣術と、護身術を……。
魔法もそうですが、守る手段は多いに越したことはありません。
将来、邪神との戦いもあるかもしれませんし。
「と、いうわけで、とうさま。けんじゅつとごしんじゅつをならいたいとおもっています」
「ルイーズ?なにが、というわけでなんだ?」
「とうさま。わがやのてんしじょぜをまもらねばなりません。まもるしゅだんは、おおいほうがよいとかんがえました。しゅくじょきょういくのあいまに、けんじゅつと、ぶきをもたなくてもあらがえるように、ごしんじゅつなどもならいたいと、おもいました」
「……ルイーズ。君は、我が侯爵家の令嬢なのだよ?蝶よ花よと育って欲しかったが……無理なのだね」
「はい。じゃしんのけんもございますし、しょうらいじょぜのたすけになるのでしたら、いまのうちに、できうるかぎりのことを、やっておきたいとおもいます」
「……決心は固そうだね。では、5歳になったら専門の師を呼ぶとして、それまでは、父様と剣の鍛錬をしよう。護身術は、ジルに教えてもらいなさい。この屋敷に仕える者は、一通り武術に覚えがあるからね」
「はい。よろしくおねがいします」
毎朝、太極拳の後に、父様から剣術を学ぶことになりました。
護身術は、淑女教育の合間に、ジルにお願いしました。
この世界、ゲームの様にレベルの概念がなく、どれだけ鍛錬を積んでも不安は拭いきれません。
近い将来、お会いできるはずの『攻略対象者』の方々にも、強くなっていただくよう、父様に協力いただくとして、モブ扱いの『悪役令嬢』の私が、邪神にどれだけ関われるかもわかりません。
強制力の様なものが働いて、思う様にいかないかも知れないけれど……。
可能な限り抗います!