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楽しい転生  作者: ぱにこ
121/122

其の拾参

 この世に未練を残し、天へと還りたくない魂が集まる場所が、魔国とホエール連邦国の中間に位置する海域にある。 

 何故、そこに魂が集まるのか……。

 


「お宝目当ての大海賊が消息を絶った時から、異変が始まったそうじゃ」


 『アルガ村』の村長が、神妙な面持ちで皆の顔を見つめる。


「異変? 」


 難を逃れたフェオドールが村長に聞き返した。


「うむ。異変と言うても悪い事ではないがの。というのもな━━」


 今から数百年前。

 この地の海域は、穏やかであったものの、海に棲まう魔物に脅かされていたという。

 船を出せば、転覆させられ喰われる。

 網を仕掛ければ、食い破られる。

 波打ち際で貝を掘れば、触手に足を取られ海に引きずり込まれる。

 そんな地だったそうだ。


「……でな、わしらの先祖は、長い釣竿を用いて、波打ち際からなるべく離れて釣りをするか、川で小魚を獲って、なんとか生活しておったのじゃ」


 当時の情景を想像し項垂れる一同に、村長はニカッと笑いこう告げた。


「なあに、大昔の話じゃ。気にする必要はないぞ」

 

 と。

 そして、更に話を続ける。


 なんでも、その海賊が消息を絶った後から、魔物の被害がぱったりと止み、比較的穏やかな習性の魔物のみが残って、人々の食が潤い始めたという。

 人々はこの異変に気付き、慎重に調査を開始した。


「まずは、小舟で探索を重ねたんじゃ。一気に沖まで行く勇気も船もなかったからのぅ。そして……大渦と『御柱様』を発見したのは、調査を開始して30数年経った時じゃったそうじゃ」


「『御柱様』? 」


 同じくルイーズと離れた場所に居て難を逃れたカリーヌが聞き返す。


「そうじゃ。余りにも荘厳で大きな体躯であった為、『神』の一柱とわしらの先祖は信じた。現に近付いたわしら先祖に、威厳たっぷりに語りかけて来たそうじゃしな」


 ナギ、フェオドール、ララにカリーヌの喉が鳴ると同時に、海を眺めてばかりいるアベルの喉も鳴る。

 

「『御柱様』はこう仰った━━」


『我はこの海域に生まれ、守護する者である。そして、今! この海域は秘宝を得る事が叶わなかった大海賊の魂が暴れ大渦を発生させており、ありとあらゆる生き物が進行出来ずにいる。我を敬うのなら、比較的穏やかな習性を持ち美味しく食える魔物だけを通して、其方らの糧とする事を許そう』


「とな。そのお言葉を聞いた先祖はこう言ったのじゃ」


『今も比較的穏やかな習性の魔物や魚を得ておりますが、それは貴方様のお力によるものだったのですね』


「と……その問いに『御柱様』はこうお答えになられた」


『? ……うむ、そうである。我は慈悲深いのでな、人々が飢えぬ様取り計らったのだ』


「なんか後付けで嘘くさい……ね? 」


 フェオドールが仲間の顔を見遣り、ボソリと呟いた。

 仲間達はコクコクと頷いている。

 そんな子供達を見て、村長は「確かに」と言って笑う。


「ふぉっふぉっふぉ。話しだけ聞いていれば、嘘くさく感じるのも致し方ないかもしれんのぅ。現に当時は、攻撃的な魔物は『御柱様』を喰らおうと向かったはいいが反撃され、穏やかな習性の魔物だけがこの海域に残ったと考える者も居ったしの。……しかしの。『御柱様』を敬い、祀る事のよって、安定した漁獲量を得る事が出来るようになったのは事実なんじゃ」


 納得したのか、一同は感心した様に頷いた。

 そして、更なる疑問をララが口にする。


「『御柱様』のお力で大海賊の魂を天に還す事はできないのですか? 」


「うむ、尤もな疑問じゃの。だがの、大渦が消えれば、再びこの海域には凶暴な魔物が蔓延ってくるのじゃ。ゆえに、『御柱様』は大渦をそのままにし、わしらの糧となる海の生き物を授けて下さるのじゃよ」


 ララは村長の説明に納得し、口を閉じた。

 だが、いつまでも続く呑気なやり取りに業を煮やしたナギは声を荒げて問う。


「魚が獲れるようになったのが、『御柱様』のおかげってのは分かったけど、それとルイーズやダリウスが呑まれるのと何の関係があるのっ? 」

 

 ナギは、ルイーズとダリウスが大きな何かに呑まれ姿を消したにもかかわらず、平然としている村長やアベルに対して怒っていたのだ。


「それは、私から話そう」


 そう言ったのは、海を眺めてばかりいたアベル。

 子供達、村長の顔を見遣り、水で喉を潤すと口を開いた。


「あれは、14年前になる。私と私の婚約者であったアデールを含め、当時の王太子殿下である『フレデリック様』に王太子妃候補であった『ブリジット様』、ブライアンにキャロルといった面々で冒険者パーティーを組んでいた」


「父だけでなく母も冒険者?! うわぁ、想像できないや。淑やかで優しい母様が冒険者……」


 一人興奮しているフェオドールの頭を優しく撫で、アベルは話を続けた。


「キャロルは当時から優しかったぞ。良くも悪くもアクの強い私達の纏め役といった所だ」


 フェオドールの目がキラキラと輝いている。

 

「侯爵様続きを早くっ」


 そして急かされた。


「あ、ああ。私達『六聖仮面』は見聞を広める為、この地にやって来た。そして、同じように『御柱様』に呑まれ……ある試練を課せられたのだ……」


 当時の様子が思い起こされたのか、アベルの表情が曇る。

 そして嗚咽を漏らした。

 

「辛い試練だったのですか? 」


 カリーヌが労わる様に声を掛けた。


「いや、試練は辛くはなかった……なかったのだが……呑まれた時の生臭さが今も脳裏を掠めると吐き気が……うっぷ……」


 付き合いの長いフェオドールはアベルの背中を優しく撫で、付き合いは浅いが、今回の旅で親交を深めたナギは空になったグラスに冷たい水を注ぎ足す。

 

「すまんな……」


 アベルは水をゴクゴクと飲み干し、海に視線を向けた。


「で、あるからして。『御柱様』に呼ばれ、呑まれたのならば無事に帰って来るのは確かなのだが……愛娘が生臭くなってしまっているのは必至。私はどうすれば……」


「我慢すればいいのでは? 」


 ララが軽く言う。


「そうだね。ここは愛が試されるところ」


 フェオドールが悪い顔をして言う。


「最愛の父親に抱きとめて貰った瞬間に吐かれたら、いくらルイーズでも傷つくと思う」


 ナギの意見に賛同したのか、村長までも頷いている。


「やはり、私の第二の試練という事か……」


 こうなるのではないかと、愛娘が呑み込まれた瞬間から薄々感じていた。

 アベルは天を仰ぎながら呟いた。

 何故こうも、世界は残酷なのか! と。

 幼子独特の甘い香りと陽だまりの香りを混ぜ合わせた様な愛娘の香りが、酸っぱ生臭くなるのだ。

 アベルの苛立ちや憤りも、推し量れるというもの。


「それでは、ダリウスもルイーズも何か試練を言い渡され、戻って来るという訳ですのね? 」


 カリーヌの問いかけに、ナギが更に質問を重ねた。

 

「試練を乗り切った後って、何か良い事があるの? 」

 

 と。

 

「ふむ。あの試練の後に賜ったアレは…………おや? 」


 アベルは試練の後に賜ったはずの物の行方が思いだせない。

 座ったまま、体を左右に揺らし唸る。


「う~~~~~ん。思い出せない……いや、待てよ……確か━━」


『強き者達よ……世界の調和を図り、良い国づくりをするのであれば、この『宝刀』が役に立つであろう。受け取れ━━』


「と言われ、受け取り、ブライアンに手渡した。それをフレデリックに献上して……フレデリックがブリジットに見せて、『重~い』とかなんとか言った後、アデールとキャロルが手に取り、『本当ですわ! この重さだと使えませんわね』と……ふむ、その後は……床に転がした……で……あれ? 」


 そんなアベルを見た村長が、ヤレヤレと肩を竦めて言う。


「あの時の『宝刀』は我が家で保管しておりますじゃ」


「なにっ!! 」


 アベルは驚き、村長を食入る様に見つめた。


「『御柱様』から賜ったと仰っておりましたのに、置きっぱなしで旅立たれてしまったので、我が家の神棚に祀っておりますじゃ」


 詳しく聞くと、アベル一行は誰一人として気に留める様子もなく、忘れて行ったという。

 そんなぞんざいな扱いをされた『宝刀』が不憫で、村長は神棚に置き、祀ったそうだ。


「侯爵様」


 子供達が痛い子を見る様な目つきでアベルを見つめている。  


「なんだ、ナギ」


 極力視線を合わせぬようにしつつ、問い返すアベル。


「『御柱様』も役に立つだろうと思って、授けて下さったんでしょう? 持って帰ってあげたら? 」


「わざわざ、試練を課して授けるって事は、相当な品のはずなのに、ゴミみたいな扱いだもんね」


「御心を無下にされた『御柱様』がお可哀想……」


「うんうん」


 ナギに追従するように、フェオドール、カリーヌ、ララが非難めいた言葉を発する。

 一人の責任ではないのに、この場に居ると言うだけで、子供達に責められるアベル。

 酷く理不尽だ。

 帰ったらフレデリックに愚痴の一つでも零してやろうと目論んでいるアベルは、「あ、ああ」と生返事をした。

 

「では、忘れぬうちに持ってきますじゃ」

 

 善は急げとばかりに村長が家に戻って行く。

 一同が村長の背を見送った。


「さてと、ルイーズもダリウスも無事に帰って来る事がわかったし、何かして遊んでようか」


「「「いいね! (ですわね! )」」」


 フェオドールの提案に、賛同する子供達。

 その様子を見たアベルは、海賊の秘宝について調べてみようと思い立つ。

 ここで悶々とした気持ちのまま、酸っぱ生臭くなって帰って来る愛娘を待つより、建設的だと思ったのである。


(秘宝の在り処が分かれば、ルイーズはきっと称賛してくれるだろうしな。フフフ、ハハハ……)


 否、邪な思いであった。

 アベルはニヤリと笑みを浮かべ、


「皆、ただ遊んで時間を潰すより、海賊の秘宝について、調べてみないか? 」


 秘宝だぞ。金銀財宝ザックザクだぞと、子供達の興味を煽る。


「お宝?! ザックザクなの?! 」


 まず初めに、純真なフェオドールが食い付いた。


「お父さん、喜ぶかな?! 」


 次に親孝行になるかもと考えたララが食い付く。


「ララったら、『お父さん』って呼んでおりますの? 」


 どうでもいい事に食い付いたのは、カリーヌである。


「だって……一緒に住むようになったからといって、急に『お父様』って呼び名を変えるのって、恥ずかしくない? 」


 平民として暮らしてきた年月を考えると、そういうものかも知れないと感じたカリーヌは、


「それもそうですわね。でも、私達以外の者が居る時は、気を付けて下さいましね」

 

 と忠告する。


「は~い」


 人の上げ足を取り、陰口をたたく者も居る。

 そんな者達に、隙を見せるなというカリーヌなりの優しさであった。


「まぁ、万が一。ララが虐められたら、ルイーズと一緒に()()()()しに行きますけれどね。うふふ」


 カリーヌの笑みを見て、戦慄するアベル。

 やはり類は友を呼ぶというのか、と。


「でも、お宝って沖の方なんでしょう? どうやって見つけるの? 」


 とりあえず、食い付きはしたものの、懸念を抱くナギ。


「案ずるではない。お宝がどこに眠っていようが、私は空も飛べるし、深海まで潜れるし、誰よりも強い! 」


 ナギの不安を一掃するほどに、自信たっぷりな発言であった。


「侯爵様がそこまで言うなら、任せるよ」


「では、依存はないという事で話を進めるぞ。まず、私は村長宅で村の記録を調べてくる。数百年前の記録となると古代ホエール語で記されているだろうからな。その間、君たちは村の人々に聞き込みをしてくれるか」


「お宝の在り処を聞けばいいの? それで何かが分かるとは思えないけど……」


 訊ねて分かるくらいなら、お宝はすでに手に入れられてるはずでは? と聞き返すナギ。

 徒労に終わる事を憂いているようだ。

 

「海賊についてならなんでもいい。おとぎ話や訓話は実在の出来事の脚色であることも多い。本来とは違った姿でお宝の在り処や正体が伝えられているかもしれない。村の記録に無く口伝によってのみ伝えられている物語もきっとあるはずだ。頼りにしているぞ」


 子供達は密談を始めた。

 身振り手振りと時折聞こえる声から察するに、各々の持ち場を決めているようだ。

 そして、シュタッと立ち上がり、

 

「「「「サー、イエッサー!! 」」」」


 と、見事な敬礼を披露し、散開していった。

 アベルは思った。

 家の愛娘は、子供達に何を教えているんだ? と……。



 ◇ ◇ ◇



「村長ー! 村長---っ!! 」


 村長宅を激しくノックするアベル。

 いくら侯爵とはいえ、どうぞの返事なく戸を開ける事はかなわない。

 ゆえに、執拗に呼び掛けノックをするが。


「…………」


 どういう訳か、一向に返事がない。

  

「……留守な訳はない……自宅に入っていく姿はこの目で確認……っ! もしやっ━━」


 ある情景━━村長が亡き者にされ、倒れている姿が、脳裏を掠める。

 次の瞬間。


 ━━ドンッ!!


 盛大にドアを蹴破り、村長宅に飛び込んだ。

 

「村長! 無事かっ! 」


「━━ここ……ここですじゃ……たすけ……くださ……れ……」


 蚊の鳴く様な弱々しい声がアベルの耳に届く。

 アベルは一気に声のする方に駆け出した。


「村長っ! 」


 そして目にする。

 村長が宝刀を胸に抱えて、仰向け気に寝ている姿を……。


「…………村長? 何をされていらっしゃるのです? 」


 首を傾げ、そう問うアベルは悪くない。

 どうみても、助けを請う姿ではないのだから。

 

「こ、こう、こ、侯爵様……」


 プルプルと震える声で、村長はアベルを呼ぶ。

 その姿を見て、アベルはそっと上着を脱ぎ村長に掛けた。

 

「さむい…………せん。たす……て」


「まだ、寒いのですか? 」


 そう聞えたアベルは、部屋の温度を上げる魔法を発動することにした。


「『湯豆腐(ポッカ・ポッカ)』」


 ちなみにこの魔法は例の如く、愛娘ルイーズが発案したものであり、命名センスは言わずもがな……である。

 部屋がポカポカと温まってきた。

 アベルは村長の傍に寄り、


「休むのでしたら、『宝刀』は受け取っておきますね」


 と告げ、宝刀をアイテムバッグに入れた。

 次の瞬間━━


「っ、すぅううううーーーーーっ」


 村長が大きく深呼吸をした。

 そしてガバッと起き上がり、「助かったのじゃーーー」と、叫んだ。

 

「? 」


 アベルは首を傾げたまま、村長を見つめる。

 

「…………」


「…………」




 暫しの静寂が訪れた。

 

 が。

 

「……実はの」


 そう言って、静寂を破ったのは村長である。


「宝刀が思いのほか重くて、身動き一つ出来んかったのじゃ」


「? 重い? 宝刀が? 」


 アベルはアイテムバッグから宝刀を取り出して、これが重い? と村長に確認する。

 村長は、そうじゃっ! と大仰に頷いて続けてこう言った。


「そのままでは、重くない。しかし、少しでも鞘から抜くと途端に身動き一つ出来ん程に重くなるのじゃ。侯爵様、地面に縫い付けられたくなかったら、抜かない方が身の為じゃ」


 村長はそう言いつつも、鞘を抜いて欲しそうにアベルの手元を見ている。


「村長がそこまで仰るのでしたら、これは抜かずにしまい込んだ方が宜しいでしょうな」


 空気の読めるアベルは宝刀をアイテムバッグの口に持って行きつつ、村長を見遣った。

 挑発には乗らんぞという、強い意思がもって。


「やはり、侯爵様ほどの御方でも、扱えない得物があるのですじゃな? ふぉっふぉっふぉ」


 村長が安い挑発をする。

 剣聖と謳われている者が、宝刀一本扱えないのかと。


「いやいや、私はまだまだ未熟者ですからな。ハッハッハ」


 一見謙遜している風を装うアベル。

 そんなアベルを見て諦めたのか、村長はしょんぼりと肩を落とした。


「…………なんじゃ、抜かんのか……」


「抜いて欲しいのですか? 」


「…………わし、海で漁業を生業として生きて来たじゃろ?! 」


「そうですね」


「この年なっても、若い者には負けんくらい力自慢じゃったのじゃ……」


「…………そうですか」


「それなのに……刀一振りが持ち上がらず、呼吸もままならんかったのじゃぞ……」


「…………お辛い思いをなさいましたね……」


「そうじゃ、お辛い思いをしたのじゃ」


「それで。抜いて欲しいのですか? 」


「…………床にへばりつく姿、娘に見せるか、わしに見せるか」


「良い性格をなさっておいでだ」


 アベルは半眼で村長を見遣った。

 村長はフッと視線を逸らすが、パッと向き直り叫んだ。


「抜け、抜いてみるじゃっ! 」


 そんな村長の姿が微笑ましかったのか、アベルは一笑し、宝刀を握った。

 過去に抜いたことがあり、重さも十分承知してるがゆえに抜く事に躊躇いはない。


「抜きますよ。━━━━っと。……ん? ほう……これはこれは……」


 繁々と刀身を眺めているアベルの姿に、村長は慄く。


「おっ、重くないのかっ! 」


 更に、倒れてもいいんじゃぞと、いった風に床をバンバン叩いている。

 

「倒れる程ではありませんよ。ですが、重いのは確かです」


 とサラリと事無げもなく言うアベル。


「全く重そうには見えんのじゃが……? 」


「いや、事実です。ただ、この宝刀の扱い方が理解できた為に自在に操れるようになったと言うべきですかね……ふむ、そうであったか━━」


 アベルはそう呟き、刀を鞘に収めた。

 十数年前にはわからなかった宝刀の秘密が、納得のいくものだったのだろう。

 喜色に溢れている。


「なんじゃ、つまらんのう……さて、お茶でも飲んで、一息入れますかの」


 つまらないと愚痴を零しながらも、アベルにお茶を勧める村長。

 宝刀に関する攻防は終結を迎えた様だ。

 アベルは頂きますと告げ、ズズっとお茶を啜った。


「おっ、おや……美味い、美味いが……これは、お茶ではありませんね」


 その言葉を聞き、村長はニタリと微笑む。


「ふぉっふぉっふぉ。これは紛うことなく()()ですじゃよ」


「お茶? しかし、ほんのり感じる塩っ気が……」


 アベルはお茶と言われる物を、再度口に含んで確かめる。

 ほんのり感じる塩っ気と旨味は、お茶というよりスープ。

 しかも、愛娘が握ってくれた『おにぎり』と抜群の相性であろうと予想される。

 ゆえに、お茶と言われ納得できるかというと、否。

 そこで、したり顔を浮かべた村長が、ネタばらしを始めた。


「これはの。サクラ公国から依頼され、ここで作られている『コブチャ』というものなんですじゃ。侯爵様ほどの御方でも知らんかったようで。ふぉっふぉっふぉ」


 村長の満足げな顔が、ほんの少し腹立たしく感じるも、愛娘が喜びそうな物に出会えた事に満足するアベル。

 

「この『コブチャ』を是非、分けて貰えないでしょうかっ? 」


 と、剣聖の覇気を纏い、アベルは村長に詰め寄ったのであった。


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