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楽しい転生  作者: ぱにこ
115/122

74話

 早く父様を追いかけねば!

 けれど、ここは人口密度の高い関所。人の目が多すぎます。

 瞬間移動魔道具『どこからでも・こんにちわ』を使用するには、人気のない場所へ移動する必要があるのです。

 ですが……右を見ても━━ない。

 左を見ても━━ない。

 後ろを見ても━━ないっ! うわぁぁぁーーーーーー!!

 ないよ、ないのよ。どうすればいいのっ。

 頭を抱えたまま、蹲る私。

 もういっそのこと、注目を浴びせさせて見世物として披露しちゃう?! とまで考えた時に。


「嬢ちゃん。さっき対応してくれた騎士のバートさんがさ。お困りですか? って聞いてるぞ」


「もれなくお困りですわっ。こんな人気の多い場所で、魔道具を起動する訳にもまいりませんし。かといって、再び関所を抜け『アルガ村』へ行くわけにも参りませんでしょう?! 」


 そう。出国し、ホエール連保国内にあるアルガ村へ直接移動すると、密入国したことになってしまうのです。

 今、そんな大罪を犯している暇はありません。一刻も早く父様のもとへ参じなければ、何をしでかすやらわかっておりませんもの。

 

「ならさ、軽く事情を説明して人気のない場所へ案内してもらえるか聞いてこようか? 」


「説明? …………そうですわね。ここで唸っていても事態は好転しませんものね。よしっ! 腹をくくりましたわ。騎士さんに事情をご説明し、人気のない場所へ連れて行っていただきましょう」


 私はシモンさんの手を引き、騎士さんのもとへと向かいました。

 とはいっても、通行人の邪魔にならない場所へ移動していただけなので、距離にして3メートル弱。

 数歩で辿り着きました。

 私はシモンさんの袖口を引っ張り、目で合図します。

 察したシモンさんが、騎士さんのお耳を拝借。事情をご説明して下さいました。

 え? 自分で説明しろって?

 いえいえ。こう見えて私、地声が高いのです。まぁ、まだ子供ですしね。

 ゆえに、内緒話にもってこいのお声の持ち主に託した次第でして……。


「嬢ちゃん、いいってよ」

「本当ですか! 」


 喜び舞う私は、シモンさんとハイタッチ。


「いえーいっ」

「いえーい? 」


 そして、了承して下さった騎士さんにお礼申し上げます。


「騎士さん。引き受けて下さり、感謝申し上げます。そして、この御恩は生涯忘れません」


「お嬢様が、魔道具作成に精通している事は存じておりますし、その様に思って下さるだけで光栄に存じます。それで、お嬢様は人気の多い場所で使用するには些か問題がある魔道具を使用なさりたいのですね? 」


 騎士さんの問いかけに、私は憂いを帯びた表情を浮かべ申し上げるのです。


「ええ、そうなんですの。人気が無く、屋根がない場所が好ましいのですが、心当たりはございます? 」


 屋根があると瞬間移動が出来ませんのでね。

 ここは、キチンと伝えておかねばいけません。

 すると、騎士さんは上を指差しました。


「上? 」


「はい、塀の上です。あそこなら、私の同期の者しかおりませんし、見慣れぬ魔道具を見たとしても口外致しませんので、ご安心を」


 塀の上かぁ、と空を見上げると。

 清々しいまでに青い空が広がっております。

 こんな青い空の下で、父様は病んでしまわれているの?

 お可哀想……。

 ほんのり、うるっとした瞳を手拭いで拭い、私は騎士さんに願い出ます。

 

「お願いします。私達を塀の上に案内してくださいまし」


「承知いたしました」

 


 そして、連れて来られた塀の上。

 ホエール連邦国関所の街『ケルプ』が一望できます。

 

「うわぁ~素晴らしい景色だね~」

「海も見えますよ」

「みてみて、ララ。海鳥に交じって魔物も飛んでいますわよ」

「うわぁ、本当だわ。あっ……食べられちゃった……」


 そんな皆の感想を余所に、私は魔道具を取り出します。


「皆、魔道具を起動するので、位置について」


「「「「は~い」」」」 

 

 皆が、範囲内に移動したのを確認し、私は魔道具を起動いたしました。

 そして、『アルガ村』に座標をセット。

 辺りを見渡し、お見送りして下さっている騎士さん達に、全員で敬礼!


『ありがとうございました! 』


 全員でお礼を告げたら、いざ出発です。


 ポチっとな━━


 瞬間、景色が変わりました。


「ルイーズ? ここが『アルガ村』なの? 」


 フェオドールは心細そうに辺りを見渡しております。


「座標は間違いなのだけれど……ここは、どうみても森よね? 」


 そうなのです。私達が現在いる場所は、森の中なのです。

 鬱蒼とまではいきませんが、木々に囲まれ……ん?

 

「みんなっ! 足元を見て」


 私が下を指差し促すと、みな足元に視線を向けました。


「これは、海の砂よっ。海が近い証拠だわっ」


「これが海の砂? サラサラしているね~」


 砂を手のひらに乗せて、サラサラっと下に落とすフェオドール。


「不思議ですわ」


 と呟きながら、砂をグサグサ刺しているカリーヌ……。


「カリーヌ? 見ていると狂気を感じるからやめよう」


 そう言って、カリーヌを止めるダリウス。


「うふふ」


 笑みを浮かべて、棒っきれで落書きを始めるララ。

 描いているのは、ブタさんかしらね?

 えっ? 私?!

 …………。


 皆の子供らしい姿を微笑ましく見ていると、シモンさんが上空を指差し、仰いました。


「嬢ちゃん、空を飛んで確認してみないか? 」


「そうですわね。潮を香りから察するに、あちらの方角に海がある事は分かるのですが、村の位置まではわかりませんものね。シモンさんも、共に飛んで確認していただけます? 」


「えっ!? あ、ああ……仕方ないか。よし、わかった」


 ふぅ~はぁ~と息を整え始めたシモンさん。

 ちょっと、高く飛ぶだけですのに、大げさですわね。


「では、皆はここでジッとしていてね。上空に飛んで確認してくるから」


「「「「は~い」」」」


 いいお返事だけれど、本当に分かっているのかしら?

 カリーヌは狂気を感じる行動をやめないし、フェオドールはチョロチョロしてるし、ララは落書きに夢中ですし……。


 私はふぅと溜息を吐き、シモンさんを連れて上空へと飛び立ちました。


「うわぁ~~~~っ! 嬢ちゃんっ! 飛ぶなら飛ぶって、一言告げてくれっ」


「あっ、失念しておりましたわ。飛んでおりますっ」


「遅いっ! 」


 テヘッですわ。

 ジト目を私を見つめるシモンさんはさておき。

 

「この辺りですと、一望できますわね」


「ああ……」


 まだ恨みがましくジト目で見つめてきておりますね。

 うっかりと言えど、これは私の失敗です。

 

「シモンさん、申し訳ございませんでしたわ」


 私はしっかりと謝罪━━空中土下座致しました。


「心の準備も出来ないまま、飛ばすのはこれっきりにしてくれよ」


「はい」


 確かに、心の準備もなく、いきなり飛ばされたら誰でもビックリ仰天しますものね。


「謝罪は受け取ったから、立って? くれないか。その、なんだ。空中でよくわからん動きをされると、危なくないってわかっていても、ヒヤヒヤするんだ」


 ヒヤヒヤですか? じゃあ、こんな空中一回転も駄目?


「うわっ! 」


 ふふ、驚いておりますわね。

 次は、側転ですわ━━

 と、腕を上げた瞬間。


「いひゃいっ! しもんひゃん、いひゃいでふわっ。ひぶっ、ひぶあっふでひゅ」


 むにぃっとほっぺをつねられました。


「本当に、心臓に悪いからやめてくれな? 」


 シモンさんは、激オコのご様子。お言葉にとっても怖い怒気が含まれております。

 私は、コクコクと頷き、

「ひゃい」

 と、申し上げますと、シモンさんは私のほっぺを解放して下さいました。

 おお、痛かった。

 ほっぺがもげるかと思いましたわ。


「ほんとう、嬢ちゃんは、近所の悪戯小僧みたいだな」


 シモンさんの言葉に私は異を唱えます。


「私、小僧ではありませんわよ。悪戯小娘ですわっ」


「ああ、そうだな。悪戯小娘だな」


 シモンさんはそう仰いながら、クスっと笑みを零されました。

 そして、私の頭を撫でてくださいます。


「シモンさん。私、とっても楽しいですわ」

「そうか。俺も楽しいかな?! 」

「疑問形ですの? 」

「ああ。ハラハラが多いせいでな」


 そう言って、ニヤリと笑みを向けるシモンさん。

 旅の醍醐味はハラハラですのよ。わかっておりませんのね。

 私もニヤリとシモンさんに笑みを向けました。

 すると、シモンさんが再びほっぺをつまもうと手を伸ばしてきたので、私は急いで気を反らすべく話を振りました。


「シモンさんっ。あちらの方角に村がありますわっ」


「ん? 本当だ。家が何件か建っているな」


 よし、気を反らすのに成功いたしました。

 

「あそこが『アルガ村』でしょうか? 」


 実を言うと、上空へ辿り着いた瞬間、気が付いていたのですけれどね。

 シモンさんとのやり取りが楽しくて、今になってしまいました。

 

「そうだろうな……下に降りて、あの方角に向かってみるか? 」


「それが宜しいですわね。もし、アルガ村でなくとも、人が居れば尋ねる事も出来ますし」


「だな。じゃあ、下ろしてくれ」


「承知いたしました。では、参ります」


 ・

 ・

 ・


 …………で、下に到着したのはいいのですが。

 なんなのでしょう? この状況……。


 シモンさんが私を背に庇い、叫びます。


「ララ嬢を解放しろっ! 」


 すると、角を生やした人? が、ララの首元に剣を突き立てこう言い放ちました。


「うるさいっ! こんな所まで追って来やがって。無傷で済むと思うなよっ」


 角を生やした人は、苦悶の表情を浮かべております。

 何故だか、とっても切羽詰まった感じがしますね。

 私はララに視線を送りました。ララと私の視線が交差いたします。

 ララはコクンと頷き、口パクで大丈夫と合図を送ってくれました。

 きっと、隙を見つけて逃げるから大丈夫って意味ね。


「くっ! こんな幼気な少女を人質にしやがって。なんて野郎だ」


 シモンさんが悔しさを滲ませ、呟きます。

 

「はっ、幼気な少女だって? たとえ、幼い少女に見えようが、実年齢が少女とは限らないのは承知の上」


 角を生やした人は嘲笑し、ララの首元を剣をグイっと押し当てました。

 ララの首元から、血……は出ませんよ。

 仲間達には、私特製防御魔道具『金剛体』を装備して頂いておりますからね。

 ですから、あの角の生やした人が持つ剣で突き刺されようと、無傷で済みます。


「何を言っているっ?! ララ嬢はまだ10歳の少女だぞ」


 うん、ララもカリーヌも私もフェオドールも10歳よ。

 ダリウスは11歳だけどね。


「ふっ、俺の目を欺けると思っているのかっ! 」


 欺くも何も、この状況自体が訳がわかないのですが……。

 誰が事情を説明して下さらない?

 そう思って、フェオドール達に視線を向けると……。

 皆、角をはやした人とララを交互に見つめておりました。

 ララを奪い返す隙を窺っているみたいです。

 

「金かっ! 金が欲しいのか?! だったら、いくらでも出すから、その子を放してくれ」


 シモンさんが悲痛な声で叫びます。


「はんっ、金などいらん」


 角を生やした人が吐き捨てる様に言いました。

 

「なら、何が望みだっ」


「望むものは一つ。大人しくこの大陸から出ていけ! それだけだ」


 角の生やした人の言葉を聞き、シモンさんは首を傾げております。

 

「それはどういう意味だ? 」


 そうよね~この大陸から出て行けって言われる意味がわからないもの。

 この国から出て行けって言うのなら理解できるのだけど。


「そのままの意味だっ! 出て行かないというのなら━━」


 突如、角の生やした人がララを抱えたまま、距離を詰めて参りました。

 シモンさんは咄嗟に私を抱え、一歩後退し攻撃を躱します。

 寸での所で躱された角の生やした人は、憎々しげにシモンさんを睨め付けます。

 ふむふむ、シモンさんもさすがですわね。

 角の生やした人も良い動きをなさっております。

 ですが、人質や庇護対象を抱えた状態での戦闘では、シモンさんが圧倒的不利なのです。

 

「嬢ちゃん、俺から離れるなよ」


 シモンさんが男前な発言をなさいます。


「え、ええ」


「うん、嬢ちゃんも皆も俺が守ってやるからな━━」


 シモンさんはそう仰って、角を生やした人に私が教えて差し上げた魔法『ウィンドカッター』を放ちました。

 もちろん、ララを傷つけぬよう足元に狙いを定めて。

 

「ちっ! 特技持ちだったか」


 角の生やした人は、苦々しい表情を浮かべてそんな言葉を吐きます。

 特技持ちとはなんでしょう?


「これならどうだっ! 」


 シモンさんは『ウインドカッター』を2発同時に放ちました。

 凄いわ! 2発同時に打ち込めるまで鍛錬したのね!

 師匠として、鼻が高いわ。

 

「くっ」


 ザシュッという肉を裂く音と共に、角の生やした人の足先から鮮血が。

 そして、バランスを崩した時。ララは、フェオドールたちの元へ逃げたのです。

 

「ちっ! 皆、生きて帰れると思うなよっ」


 角を生やした人は怒りに満ちた双眸でシモンさんを睨めつけ、剣を大きく振り被ました。

 

「嬢ちゃんは離れてろっ━━」


 シモンさんも私を庇いながらだと、分が悪いと感じたのでしょう。

 私をフェオドール達の所まで投げ飛ばしました。

 緊急事態といえど、結構雑な扱いをされてしまいましたね。

 まあ、どれだけ飛ばされようが無傷な私なのですが。

 私から開放されたシモンさんは、ようやく剣を抜き、角を生やした人の攻撃を受け流しました。

 刹那、私達の元で爆発が起きます。

 

「なっ! 」


「大丈夫ですわよ。防御壁が作動しているので」


 私はシモンさんを安心させるため、大きな声でお伝えいたしました。

 防御壁で囲まれていない部分は大きく抉れているものの、私達は無傷です。

 シモンさんは相手に向き直り、喉が震えるほどの大声で叫びます。


「もう、許さねぇからなっ! 覚悟しやがれっ!! 」


 う、うぉ!

 かっこいいです。

 鳥肌が立ちましたわ。


 剣と剣がぶつかり合う音や魔法を放つ音は致しますが、前が見えません。

 先程の爆発で砂が巻き上がり、防御壁を覆ってしまっているのです。

 時折、肉が裂ける音もします。

 シモンさんは大丈夫なのでしょうか?

 心配です。


「それで、なんでこういう状況になったの? 」


 ララが人質にされる前から見ている仲間達に、私は問います。


「急に上からドサっと落ちて来たかと思うと、ララの首元に剣を突き立てて大人しくしろって言われたんだ」


「それで、大人しく見ていたの? 」 


「下手に動いて、ララが傷つくと困るし」


 フェオドールの言い分は理解できます。

 けれど、防御壁が発動する剣も、魔道具『金剛体』も装備しているのに何も出来なかったなんて。

 いえいえ、子供に無茶をさせてはいけませんわね。

 

「あの角を生やした人は誰なんでしょうね? 」


「さぁ? でも、殺気を消して近づいてきたから、結構強いと思うよ」


 シモンさんの安否が気になるところですが、怒声や金属音は聞こえておりますので。

 負けてはいないのでしょう。

 

「…………まぁ、いいわ。きっと、本当の強者だとわかったら、あなた達もこんな悠長にしていないでしょうしね」


「当たり前だよ。身の危険を感じたら、皆を連れて逃げる。逃げきれないと悟ったら、剣に付与されている防御壁を起動するし、安心してルイーズ」


「フェオドール……わかっていてくれたのね」


「もちろんっ! 」


 ニカっと白い歯を見せて笑う姿は、本当、マスティフ伯爵にそっくりで爽やかね。


 その時、突如。防御壁に何かが叩きつけられる音が響きました。

 あまりの轟音に、たまらず耳を押さえます。


「なっ、なんなの?! 」


 防御壁の外に目をやると、シモンさんが剣を相手の喉元に突きつけているところでした。


「侯爵家からの大事な大事な預かりものを傷つけた罪は重いぞ。きっちり償えっ! 」


 シモンさんは、底冷えのするような声でそう言い放ち、とどめを刺そうと剣を軽く持ち上げました。

 あっ、怖いっ。

 人が死ぬのなんて見たくない。

 私は蹲り目をぎゅっと閉じました。


「まっ! 待ってくれっ! 」


「今更、命乞いなど無意味」


「勘違いなんだっ! まさかハウンド侯爵様のご令嬢だとは知らなかったんだ」


「知らなかったら、許されるのか? 幼気な少女や少年を人質にとり、危害を加えたのは事実なんだぞ」


「本当に知らなかったんだ。イルミラが追手が来ると言っていたから、てっきり魔族かと……」


「魔族? どうみても人間だろうが! 」


 シモンさんの剣が、角を生やした人の足元を掠めて地面に突き刺さりました。

 話の流れを聞いて、一つ分かったことがあります。

 私は防御壁を解除して、シモンさんと角を生やした人の傍に向かい、問いかけました。


「もしかして、父様たちをご存知で? 」


「申し訳ございませんでしたっ! 」


 角を生やした人は、流れるような動作で、私達に謝罪されます。

 

「えっ? どういう事? 」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした私は、角を生やした人にお尋ねいたします。


「貴女様は、アベル・ハウンド侯爵様の御令嬢、ルイーズ様で間違いありませんか? 」


「え、ええ。そうですけど? 貴方は? 」


「私は、アガーテ様とダミアン様と共に、この大陸に来ました『リヒャルト』と申します」


 ダミアン……って666のってなわけないわね。


「ルイーズ。双子の事じゃない? 」


 フェオドールが耳打ちする様に教えてくれる。

 まぁ、話の流れ的に私もそうじゃないかなと思ってはいるけれど。

 一応、伺ってみましょうか。


「えっと、前魔王様の忘れ形見である双子の姉弟とお付の人で間違いありませんね? 」


「はい。間違いございません」


 角を生やした人、訂正してリヒャルトさんは、大きく頷き断言なさいました。


「まぁ、立ち話もなんですし、お座りになって。今、お茶をお出ししますわね」


 私の言葉に促されたシモンさんは剣を鞘に納めて、切り株に腰掛けられました。

 リヒャルトさんは……。

 えっ? と呟き、戸惑っておられます。


「いいから、お座りになって」


 強めの口調で申し上げると、ようやくリヒャルトさんが座ってくださいました。


「それで、何故。私達はあの様な目に遭ったのです? 」


「申し訳ございません。実は━━」


 そして、ぽつりぽつりと訳を話して下さいました。

 昨日、イルミラさんを追手と勘違いをして攻撃を仕掛けたら、家の父様がひょこり現れた。

 というか、イルミラさんはなぜ単独行動していたのかしらね?

 ルフィーノさんと一緒に居たら、そんな勘違いをされずに済んだはずなのに。

 しかも、運悪く。父様も追手の一味だと勘違いをし、攻撃しちゃったらしい。

 

「お怪我はありませんでしたの? 」


「はい。もう、為す術なく地に突っ伏しておりましたので……」


「そう……では、お話の続きをお願いしますわ」


「はい。その時、イルミラが━━」


『私は、子供と愛する者のために魔族を裏切ったの。私が裏切り者だという事は、じきに知れ渡るわ。そして、今度差し向けられる追手は、私以上の強者。もしくは、大人数を寄こしてくるかも知れない。今の内に、侯爵様の庇護下に入る決心をしなさい』


「そのイルミラさんの話を聞いて、決心なさいましたの? 」


「決心致しました。イルミラとの戦闘ですら、危うかったのです。この体たらくではダミアン様もアガーテ様もお守りすることが叶いません。私はいずれ訪れる追手を退けるくらいの力が欲しいのです」


「ん? ということは、父様に鍛えていただくの? 」


「はい。まだ、了承は得ておりませんが、願い出るつもりでおります」


「……父様は国の宰相ですわよ。机に向かい、書類仕事をなさっている時間のほうが長いと思いますの。それでもよろしくて? 」


「はい」


 ……とても、真剣な表情をなさっております。


「リヒャルトさんがそこまで仰るのなら、私からもお願いしてみますわね」


「ありがとうございます」


 で、私達が狙われた理由を聞いてみると。

 空を飛んでいるのを見たからなんだって。

 空を飛ぶのって、魔族だけだと思っているのかしらね?


「リヒャルトさん? 私の父様も飛べますわよ」


「えっ!? 侯爵様も飛べるのですか? 」


 と、驚きの声をあげた。


「ええ。あっ! そういう勘違いをなさるって事は、イルミラさんが空を飛んでいる時に遭遇したのですね? 」


「はい。私達の顔を見知っているイルミラが先行して探していたのだそうです」


「なるほどね……」


 ならば、納得です。

 ん?


「空を飛んでいるイルミラさんをどうやって、攻撃なさったの? 」


 とっても素朴な疑問が湧きましたので伺います。


「いえ、あの……石を投げつけたら、イルミラが怒り、降りて来たのです」


「そう……」


 まぁ、いきなり石を投げられたら怒るのも当然ね。

 それで、誤解が生じ、戦闘になったって流れなのね……。


「リヒャルトさん。私の父様は、現在どうなさっておりますの? 」


「どうとは? どういった意味でしょう? 」


「お元気ですの? 」


「お元気かどうかは分かりかねます。今朝も海を眺めてぼぅっとしておいででしたし」


 海を眺めてぼぅっとね……。

 っ! 重症じゃないっ。

 のんびり茶を啜ってる場合じゃないわっ。


「リヒャルトさんっ! 父様の元へ案内してくださいましっ」


「はっ、はいーっ! 」 


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