72話
漆黒の忍び装束を身に纏った私は、闇に紛れて夜の街を駆けております。
「……急がねばなりませんわね。約束の時間を過ぎてしまいますわっ」
屋根に飛び移り、人気のない場所を目視します。
それなりの実力者の前では、私の拙い隠密行動など無意味。
ですから、なるべく人気のない場所を選び、行動する他ないのです。
飛んで行けばいいじゃないって?
いえいえ、王都内での飛行は、陛下の勅命により禁止されているのでございます。
それは何故かって?
事ある毎に飛んで移動する、私と父様を魔物と間違え、攻撃する輩が後を絶たず。
だからといって、反撃する訳にもいかず。
業を煮やした私達は、陛下へ打診したのでございます。
『陛下。飛んでいる私達への攻撃を禁止する御触れを出して頂けませんでしょうか? 』
『ふむ。飛んで移動すると攻撃されると? 』
『はい』
『ふむ、わかった。では、緊急時以外、王都内の飛行を禁ずる』
『っ!? 陛下っ! ……何故でございます? 』
『空を駆ける人物は、お主ら以外居まい。ならば、我慢すればよかろう。我とて、自由に空を駆けることが出来ぬと言うのに………ズルいではないか……』
とまあ、ズルいという理由だけで飛行禁止が決まったのは、腑に落ちませんが。
陛下が首を縦に振らない以上、納得せざる得ませんでした。
「ふむ。あの裏道を通り、あそこを曲がる……そして、ああ行って。こう行くと着きますわね。よしっ! このルートで参りますかっ」
屋根から、シュタっと飛び下りた私は、記憶した裏道に向かって駆け始めました。
はぁ、はぁ。
あそこを曲がり、くねくねっと道筋を辿ると例の裏道。
ここまでは順調です。しかし、慢心はいけません。
曲がった瞬間、人と出くわす可能性が残っておりますもの。
慎重に行かねば、今までの苦労が水の泡。
私は、そろりと抜き足差し足で移動する事に決めました。
そろ~り、そろ~りと…………。
慎重に且つ、迅速に移動している時。
バンッ! っという音と共に、酒場のドアが開け広げられ……。
「ありがとうございましたっ! 」
「おおっ、ごっそさんっ。うぃ~~っ、ひっくっ。ああ、呑んだ、呑んだ。うぃ~? 」
出て来た酔っぱらい荒くれ冒険者の方と目が合ってしまいました。
…………。
これは、ヤバい状況です。
抜き足差し足の姿を見られては、曲者と叫ばれるやも知れません。
私は、ゴクリと息を呑んで、酔っぱらいを見つめます。
すると。
酔っぱらい荒くれ冒険者の方は、目をぱちくりさせ「うぃ? 」と呟いております。
ふむ、相手は私を幻か何かだと認識していそうですね。
では、適当に誤魔化しておけば、お茶を濁せるはず。
そう思ったのでございます。
「うぃ~ 」
これは、幻ですよ。
「うぃ? 」
えっ? 幻なの? という風に問いかけてくる酔っぱらい荒くれ冒険者の方。
「うぃうぃ」
ええ、幻でございます。
「うぃ~! 」
そうなんだ! という風に、返事をする酔っぱらい荒くれ冒険者の方に、私は手を振り別れのご挨拶をいたします。
「うぃうぃ」
それでは、ごきげんよう~! と走り出した私の耳に、悲鳴とも取れる雄叫びが届きましたが。
今は、気にしている時ではございません。
時間が押しているのです。
私は、後ろ髪を引かれる思いを断ち切り、目的地に向かって疾走したのでございます。
◇ ◇ ◇
目的地である、とある貴族の屋敷に到着した私は、重厚な門には目もくれず、塀から侵入し、真っすぐ裏口へと向かいました。
トントントン、トトトントン、トントトントトン。
合図でもあるノックをすると、小さくドアが開けられました。
隙間からこちらを窺うのは、眼光鋭く、気難し気な表情を浮かべた老人。
その老人は私を見て、開口一番こう言い放ちました。
「ひっ、お化けっ! 」
…………。
「あ、ああ、し、しし、失礼いたしました。あ、合言葉を言え。とんびが? 」
漆黒の忍び装束を身に纏った私は、顔以外の部位が闇に溶け込んでおります。
ですが、お化けは言い過ぎだと思うの。
しかし、今は気にしている場合ではございません。
私は華麗にスルーし、合言葉を告げる事に致しました。
「油揚げをさらう」
「お待ち申し上げておりました。皆様お揃いですので、どうぞ中へ」
すると気難しげな表情が一転、好々爺と化した人物は柔和な笑みを浮かべ、中へ招き入れて下さいました。
「ところで、あ、あの……」
好々爺と化した人物━━この屋敷に勤める筆頭従者『クロヴィス』さんが、おずおずと話しかけて参りました。
ちなみに、クロヴィスさんは従者界の英雄とも呼ばれてるんだって。
なんでも、身一つで王侯貴族を暗殺者から守ったとか。
なんでも、濡らしたハンカチーフ一枚で、盗賊を無力化したとか。
なんでも、無味無臭の毒入り料理を『これは毒が入っておりますね』と言い当てたとか。
凄いでしょう!
「なんでしょうか? 」
英雄でもあるクロヴィスさんに話しかけられた私は、ニッコリと笑みを浮かべて問い返します。
しかし、何がいけなかったのか。
クロヴィスさんは、一瞬怯み、2歩ほど後退り。
そして、声を絞り出すかのように、こう告げました。
「…………あの、その仮面は? 」
「ん? 仮面って? 」
「えっ? 発光する仮面を着けていらっしゃるのでは? 」
「いえ。発光する仮面なんて着けておりませんよ。発光しているのは、ただの『ライト』。生活魔法ですわ。それと、認識阻害用の魔法を組み込んでおります」
夜道を照らす『ライト』と認識阻害魔法『スケルトン』を併用しているのですが……。
このクロヴィスさんの怯えっぷりは尋常ではありませんね。
気になります。
「えっと……クロヴィスさん? 鏡を見せていただいて宜しいですか? 」
「へっ? そのお姿をご覧になるのですか? 」
「ええ。認識阻害魔法が効いていないとすると。素顔をライトで照らし、夜道を駆けてきたことになりますもの」
そうなると、あの途中で出会った酔っぱらい冒険者━━ガストンさんにバレた事になる。
これは、非常にまずい。
なにせ、無断で学園を抜け出して来た身ですから。
「本当にご覧になるのですね」
クロヴィスさんは、小さな手鏡を胸ポケットから取り出し、私に差し出そうか迷っておられます。
「ええ。見ます。見なければいけません」
そうキッパリ告げると、クロヴィスさんはご武運をと告げ、手鏡を手渡してくれました。
ご武運をって━━
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!! 」
・
・
・
「ル…………ルイ……嬢…………起きて…………ルイーズ嬢……」
「ん……んん? んっ! ここはっ! っ! 誰っ!! 」
ゆさゆさと体を揺さぶられ目を覚ますと、たくさんのおじ様達が輪になって私を見つめておりました。
一瞬、怯えた私は悪くないはず。
はい。
「誰って、呼び出しておいて酷いですよ」
そう答えるのは、近衛騎士団長ことダリウスパパでございます。
「失礼いたしました。目が覚めると、見知っている方、見知らぬ方にジッと眺められていたものですから、つい……」
されど、失礼な物言いをしたのは事実ですので、私はペコリと頭を下げ、謝罪を延べました。
そして、私はダリウスパパの隣に立つ人物を見つめ、ニッコリ微笑みます。
お久しぶりのフェオドールパパ。マスティフ伯爵でございます。
私の視線に気付いたマスティフ伯爵が口を開きました。
「ルイーズ嬢、久しぶりだね。益々、愛らしく……なってる? 」
…………。
「マスティフ伯爵。まだ、認識阻害魔法とライトが掛かっておりますか? 」
「ああ、うん。掛かってるね。いやぁ~髑髏も、愛らしいと言えば愛らしいかな? でも、そろそろ素顔を見せてくれると嬉しいかな? なんて、ハハ、ハハハ……」
そう言って、ハハハと笑みを零すマスティフ伯爵。
相変わらずの爽やかさですね。
「申し訳ございません。この姿は私の落ち度でございます。今、解除いたしますね━━」
私は、皆様に謝罪し、魔法を解除いたしました。
いやぁ、この認識阻害魔法が、髑髏だとは思わなかったよ。
本当、ガストンさんには悪いことしたな……。
シモンさん経由で謝罪は……駄目ですね。
こういった事は、自ら謝罪する事に意味があるのですもの。
だからと言って、自宅へ特攻する訳にも参りませんし。
ギルドで待ち合わせとかがいいかな?
…………。
ふむ、シモンさんにギルドまで呼び出して頂いて、謝罪する事に致しましょう。
「ルイーズ嬢? どこか痛い所でも? 倒れた時に頭でも打ったのかい? 」
「いえいえ、考え事をしていただけで、頭は正常ですわ。マスティフ伯爵、お気遣いありがとうございます」
コブがないか、確かめるように頭を撫でまわすマスティフ伯爵にお礼を申し上げ、初めましての方にご挨拶すべく立ちあがりました。
いつまでも、ソファでごろんとしてる訳にいきませんものね。
「皆様。急な呼び出しにも関わらず、ご出席いただき、ありがとうござます。私、『アベル・ハウンド』が長子『ルイーズ・ハウンド』と申します。どうぞ、よろしくお願い申し上げますね」
「お初にお目にかかります。私『カリーヌ・ローシェン』の父、『ジョフロア・ローシェン』と申します。娘と仲良くして下さり、ありがとうございます」
ダリウスパパとマスティフ伯爵は、顔見知りですので自己紹介は省略。
初めましてのカリーヌパパが、最初にご挨拶してくださいました。
「いえいえ、ローシェン伯爵。仲良くして頂いて楽しんでいるのは、私の方なんですよ。初めて見た時から、カリーヌとお友達になりたくて、あれこれ策を練っていたくらいなんですもの。おほほ」
高笑いをする私を余所に、ローシェン伯爵は一歩下がり、後ろに立つ紳士と交代いたしました。
この方はきっと、ララのパパですね。
「初めまして、ルイーズ嬢。私は『ララ・ウィペット』の父、『ウッツ・ウィペット』と申します。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
ララのパパは、優し気な雰囲気を漂わせた少しぽっちゃり体型のおじ様です。
「初めまして、ウィペット男爵。どうぞ、よろしくお願いいたしますね。それでは、自己紹介も致しましたし、本題へと参りましょうか」
私が皆様にそう告げると、一様に頷かれました。
ですので、本日集まっていただいた訳を切り出しことに致します。
「皆様。こちらをご覧ください」
そう言って取り出したのは、小さな木箱に入れた4つの魔道具。
それぞれを、集まってくださった方の前に差し出しました。
「さぁ、皆様。どうぞお手に取り、御自身の御息女、御子息の分で間違いがないか、無事発動するかをご確認ください」
「失礼、ルイーズ嬢」
「はい、なんでしょうか? ウィペット男爵」
「こちらはどうすれば、発動するのですか? 」
「あ、説明足らずで申し訳ございません。ほんの少し魔力を流すと発動いたしますので試してみていただけますでしょうか? 」
「承知いたしました」
私がそう告げると、ウィペット男爵だけでなく、他の皆様も頷き、魔力を流し始めました。
そして━━━━
◇ ◇ ◇
「いやぁ。本日は大変結構な物を頂き、ありがとうございます。これは家宝に致しますね」
そう言って、私の手をブンブン振り回す、カリーヌパパことローシェン伯爵。
「共に暮らした日も浅く、思い出となる物が少ない私に、この様な物を授けて下さるとは……本当にありがとうございます」
そう言って、ホロリと涙を流す、ララパパことウィペット男爵。
ララとの思い出の品が増えて、良かったですね。
こんな感じの物で良ければ、大量生産致しますよ。
ウィペット男爵は、思いのほか子煩悩な方で、私も安心いたしました。
「ルイーズ嬢。シャルルの分まで頂いて、申し訳なかったね」
「いえいえ。シャルルの愛らしい姿を収めたら、私にも見せて下さいね」
「ああ、もちろんだとも」
ニカっと白い歯を輝かせ、爽やかな笑みを浮かべるマスティフ伯爵。
ちなみに、『シャルル』はフェオドールの弟でございます。
我が家のジョゼは地上に舞い降りた天使ですが、シャルルも天使の様に愛らしいのですよ。
はぁ、ジョゼとシャルルに囲まれて、日がな一日を過ごしたい。
よし、決めましたわ。
「マスティフ伯爵。今度、ジョゼと一緒に領地に遊びに参りますわ」
そして、2人を思う存分愛でるのです。
「ああ、待っているよ」
ふふ。言質、確かに取りましたからね。
「ルイーズ嬢……本当に宜しいのですか? 」
そう問いかけてくるのは、ダリウスパパ。
「何がですか? 」
「ダリウスは、これが私の手にある事を知っているのでしょうか? 」
ああ、そういう事。
子供達に無断で、私が手渡したと思っているのですね。
「ダリウスにも他の皆にも、了承は得ておりますよ。その上で、コレを頂いて行くのですから、ご安心を。でも、そうですね。それを手渡すとダリウスに告げた時、かなり狼狽しておりましたから、ダリウスの前では見ない様に注意してくださいね」
ふふっと笑みを零し、そう告げるとダリウスパパは納得してくれた様です。
「ありがとうございます。妻と隠れて楽しむ事に致します」
「ぜひ、そうしてくださいね。それでは、皆様。本日はありがとうございました」
別れのご挨拶をした私は、集まってくださった皆様に見送られながら、再び夜の街を疾走するのでございます。
ちなみに、認識阻害魔法『スケルトン』は封印する事に決めました。
だってね。アンデッドと間違えられて攻撃されたら嫌ですもの。ね?
…………いや待てよ。
認識阻害魔法『スケルトン』の存在は未だ知られておりません。
これは出掛ける前の思い付きだけで完成させた新魔法。
まさに出来立てホッカホカ。
そのホカホカ新魔法をお披露目もせずお蔵入りにして後悔しない?
いえ、絶対後悔する。
ならば、お披露目も兼ねて、仲間達をあの手この手で驚かし、ビックリ仰天する様を映像記録魔道具『見てるんです』に撮り。
それを、本日集まってくださった皆様にお配りすれば……一石二鳥!
そうと決まれば、えっちらおっちら走っている場合ではございません。
私は、全速力で深夜の王都を駆け巡るのでした。
◇ ◇ ◇
翌日。
フェオドールにおぶられながら、シモンさんとの待ち合わせ場所。
冒険者ギルドへとやって参りました。
「ルイーズ、寝ちゃだめだからね! 」
「ん……わかって……る……ぐぅ……」
「ほら、もう。寝ないでったら! 」
私をおぶったまま飛び跳ねて、睡眠の邪魔をするフェオドール。
「寝てないよ……ちょっと瞼を休めてるだけ……すぅ……」
「いや、寝てるからね。すやぁ~ってなってるからね」
「んもう……少し静かにして。寝た子が起きるでしょう」
「いやいやいや。起こしてるんだからね」
「なんだ、嬢ちゃんは睡眠不足か? 」
あら、シモンさんの声が聞えますね……。
すぅ……。
「あ、シモンさん。おはようございます」
「「「おはようございますっ! 」」」
うんうん、皆の元気な挨拶が……ちょっとうるさい……。
「フェオ坊、嬢ちゃんは俺がおぶってやろうか? 」
…………フェオ坊?
「あ、お願いできますか? すぐにぐら~んって後ろに仰け反っちゃうから、おぶりにくくて……」
……フェオ坊?
「おう、任せろ。おっ、軽いな。よしよし、このまま少し眠ってろ」
フェオ坊?!
「シモンさん。護衛依頼を引き受けてくだりありがとうございます」
「おうおう、ダリ坊は他人行儀だな。同じ釜の飯を食った仲じゃないか。もっと、甘えてくれてもいいんだぜ」
……ダリ坊?
「ハハ、十分に甘えておりますよ。旅の間も存分に甘えるつもりでおりますしね」
ダリ坊?!
「おっ、そうか! それは嬉しいぜ」
「シモンさん。眠っているルイーズに代わりご挨拶いたしますわね。『ホエール連邦国』までの護衛依頼を引き受けて下さり、ありがとうございます。道中、何かとお騒がせするやも知れませんが、宜しくお願い致します」
「お願い致します」
カリーヌとララの声がする……。
「おう! 任せておけ。それより、カリーヌ嬢とララ嬢がやってる仕草はなんだ? 」
あっ、カリーヌとララの呼び名は普通なんだね……。
「これは、ルイーズに教えていただいた『敬礼』と言うものですわ。相手に敬意を表す時に行う礼ですの」
「うんうん。それと、敬礼は利き手を上げる事によって、敵意がない事を相手に伝える意味もあるんだそうですよ」
ララ、カリーヌ。貴女達、敬礼でご挨拶したの?
「へぇ。一糸乱れぬその動き、見事なもんだ。かなり練習したんだろう? 」
「そうですわね……ルイーズに合格を頂けるまで……1週間くらいだったかしら? 」
「うん、1週間くらいだったわ」
そうね、1週間くらいだったわね。
「もう1回見せて貰ってもいいか? 」
「「イエッサー! 」」
「素晴らしい。見事なもんだ! 」
シモンさんは、ララとカリーヌに盛大な拍手を送っているようです。
でもって、揺れが……激しい……。
うっぷ……。
「「「「ああ~~~っ!! ルイーズがっ!! 」」」」
「へっ? あっ、嬢ちゃんしっかりっ! 」
◇ ◇ ◇
吐き気と共に流された睡眠欲。
お陰様で現在、ぱっちりおめめのルイーズと相成りました。
「それでは皆さん、お静粛に」
「「「「は~い」」」」
「おう」
「これより、ホエール連邦国に行ったら何をして遊ぶかを決めたいと思います。意見がある方は挙手をして発言してください」
「は~い」
最初に手を挙げたのはフェオドール。
「はい、フェオ坊」
「むぅ。ルイーズにフェオ坊って言われるの、なんか嫌だ……子供扱いされてるみたい」
フェオドールは、ぷく~っと頬を膨らませて不貞腐れております。
「じゃあ、ダリ坊も駄目? 」
そう言って、ダリウスに視線を向けると。
「…………」
プイっとそっぽを向かれてしまいました。
「じゃあ、もう言いませんわ。だから、機嫌を直して、何をして遊びたいか教えてくれる? 」
そう告げると、フェオドールもダリウスも笑みを浮かべて再び挙手を致しました。
「はい、フェオドール」
「街の武器屋を見たい」
武器屋か……。
『ソマリ帝国』にジョゼの武器があったくらいだし、『ホエール連邦国』でも、何か見つかるかもしれないわね。
「許可します。では、次。ダリウスね」
「はい。魔道具店に立ち寄ってみたいです」
武器屋に続き魔道具店ですか。
うん、全く問題ないわね。
「はい。許可します。他に案はありませんか? 」
「は~い」
「はい、ララ」
「私は市場を探索してみたいです」
「はい、許可します。というか、この旅の本来の目的が食材だからね。一も二もなく賛成です。では、次はカリーヌね。何処かに行きたいとか、何かをして遊びたいとかあります? 」
「いえ、皆の希望が私の希望。私は十分に満足しております」
「「「「?! 」」」」
カリーヌの発言で皆が驚き固まってしまいました。
あらら。
仕方がないので、私がカリーヌの言葉をわかりやすく説明する事に致しました。
「カリーヌ? 要は、皆の行きたい所がカリーヌの行きたい所と合致したって事でいいのね? 」
「ええ。そう申し上げておりますわ」
カリーヌは自信満々にそう言いながら、したり顔を浮かべている。
ふふ、カリーヌったら。
「それでは、最後にシモンさん。何か案はございますか? 」
「いや、俺は護衛だからな。嬢ちゃん達の後を付いて行くだけだ」
「確かに、日中は護衛をお願い致しますけれど、夜は自由行動でも宜しいのですよ? ほら、酒場に赴くとか…………あっ! 忘れておりました。シモンさん、シモンさん」
手招きしてシモンさんを呼び寄せます。
「なんだ、嬢ちゃん。内緒話か? 」
「ええ、ええ。内緒話ですわ。実は昨夜━━」
私が昨夜の件を話し終えると、シモンさんは神妙な面持ちを浮かべ、こう仰いました。
「嬢ちゃん。男には男の矜持ってものがある」
「シモンさん……それは、遠回しに詫びる必要はないと仰っているのですか? 」
「ああ、そうだ。それなりに名を馳せたBランク冒険者が、髑髏を見て悲鳴をあげたなんて知られてみろ。良くて笑い者、悪かったら……冒険者引退だ」
「……でも、私自身も卒倒するくらい、怖い顔でしたのよ。だから、ガストンさんが悲鳴をあげるのも、致し方がなかったと思うのです……」
「それでも! アニキには何も告げてくれるな。だからと言って、嬢ちゃんが詫びたいって気持ちを蔑ろにするわけにもいかねぇし……そうだな……何か美味い物でも作ってやってくれるか? 」
「ええ、ええ。そう仰ると思い、お詫びの品として菓子折りを持参していますのよ。これをガストンさんへお渡し願えますか? 」
ポケットに突っ込んだ菓子折りを素早く取り出し、シモンさんに手渡すと、
「いや。今、渡されても困る」
と、拒否されました。
「えっ!? 」
潤んだ瞳でシモンさんを見つめます。
いえ、欠伸を噛みしめた拍子に涙が出ただけなんですけどね。
「嬢ちゃん……すまねぇ。けどな、俺のアイテムバッグには、こんなでかい箱を入れる容量がないんだ……」
それは十分に存じております。
ですから。
「じゃじゃーん! シモンさん専用アイテムバッグ~~~~っ! 」
徐に取り出したるは、シモンさん専用アイテムバッグ。
「えっ、俺の? 」
「ええ、遠征中にお約束いたしましたでしょう? 」
「いや、でも。無属性魔石と交換じゃなかったか? 」
「ふふ。本来はそういうお約束でしたが、このアイテムバッグは今回の護衛依頼の報酬の一部でもあるんですのよ」
「報酬は十分すぎるくらい提示されていたが? 」
「…………シモンさん。何故、侯爵家から個人依頼が届いたとお思いですか? 」
「さぁ? 」
「私が、母様に……ついうっかり、ポロリとシモンさんの名や為人を話してしまったせいなのです。ですから、お詫びを兼ねて製作いたしましたので、どうかお受け取り下さい」
背筋を正し、真摯な態度でアイテムバッグを差し出します。
するとシモンさんは、ポリポリっと頬を掻きながらこう仰いました。
「このアイテムバッグは、嬢ちゃんの誠意の証なんだな? 」
「はい」
「じゃあ、受け取らない訳にもいかないな。ありがとよ……で、このアイテムバッグだと、このくそデカい菓子折りが入るんだな? 」
「ええ、スポッと入りますわ。容量は私の物よりほんの少し小さめですが、家財道具一式くらいは綺麗に収まります」
そう説明するとシモンさんは菓子折りをうんしょと持ち上げ、アイテムバッグに詰め込みました。
「…………おっ、入った」
でしょう。お詫びの気持ちを込めてせっせと作ったのはいいけれど。
作り過ぎて、大きくなりすぎた菓子折り。
その菓子折りを収める為に、急遽制作に取り掛かったアイテムバッグですもの、入るのは当然です。
「しかし、これだけの菓子をアニキ達だけで消費できるんだろうか……」
ぽんぽんとアイテムバッグを叩きながら要らぬ心配をするシモンさん。
「心配ご無用ですわ。アイテムバッグ内は、時間経過がほとんどありませんし、ゆっくり味わってください」
「そうか、時間経過を気にしなくていいんだな?! 」
「はい。それと、小さなお子様用の分も分けて詰め込んでおりますので、ご家族でお召し上がりくださいとお伝えくださいね」
「ああ、わかった。ありがとうな」
さてさて、ガストンさんの件も落着致しましたし。
そろそろ、出発といたしましょうか。
「さぁ、皆。出発ですよー! 」
「「「「「おー! 」」」」」