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楽しい転生  作者: ぱにこ
109/122

71話

 魔法科研究室を爆破した(犯人)は、母様に連れられ現場へと舞い戻って来ました。

 個人としては、もう少し現実逃避をしたかったのですけれども……

 母様の有無を言わさぬ迫力に押し負けました。はい。


「まぁまぁ、オホホホ……これはこれは…………盛大に吹き飛ばしたようですわね。オホホ……」


 風通しの良くなった魔法科研究室を前にして、引き攣った笑みを浮かべる母様。


「ええ、まぁ……凄まじい爆発でしたもの」

 

 私は立ち入り禁止のロープを潜り、焦げて散乱した魔法書や魔道具などを拾い集める作業を開始致しました。

 

「ドアも窓も吹き飛んだのですね……はぁ~」


 吹き飛ばされ、無くなった入り口だった部分と窓があった部分は、大きな穴が空いております。

 それを見遣りながら、母様が盛大な溜息を吐かれました。


「でも、母様。ほら、吹き込んでくる風が心地良くはありませんか? それに小鳥のさえずりまで聞こえますのよ」


 耳を澄まさなくても聞こえてくる、小鳥の愛らしいさえずり。

 焦げ臭さを洗い流してくれるかのように吹く風は、まるで草原に訪れたみたいな清涼感ですわ。


「いてっ! 」


 ポカっと小突かれました。


「めっ! 少しは反省してるのかと思いきや、全く反省しておりませんのね。キチンと反省しなさい」


「……は~い、反省はいたします。ですが、見て下さいまし。この被害状況……」


 研究室内は真っ黒こげ。

 一面に散乱した数々の魔道具類に魔法書。

 吹き飛んだドアと窓に、壁……。

 これを1人で修繕するとか無理でしょう。

 せめて、熟練の大工さんを雇ってくださいまし。


 懇願するかの様な瞳で母様を見つめます。

 じ~っ。

(これは1人では無理な任務ですわ)

 じ~っ。

(壁を修復するのは魔法で可能ですが、窓を嵌め込んだり、ドアを設置するような専門知識は、私にありませんわよ)

 じ~っ。

(窓無し、ドア無しの豆腐建築で宜しくて? )

 じ~っ。


「もうっ、もう! ルイーズったら、仕方のない子ね。……でも、そうね……これだけ酷い状況だと1人で修繕するのは無理ですわね。では、幾人かの大工を手配しておきますから、一緒に修繕するのですのよ。くれぐれも魔法でやらかしたりはしないようにね! 」


「はいっ、はい! 母様、ありがとうございます♪ 」


 よし、やりました!

 豆腐建築を回避できたのが嬉しくて、小躍りしちゃいます。


「それより、ルイーズ」


「なんでしょうか♪ 」


「所々にある無傷の輪っかはなんですの? 」


「え? ここの事ですか? 」


「ええ、貴女が足場にして、飛び跳ねている場所の事ですわ」


「ああ。これは、防御結界が発動した場所ですわ。ふふ、私。人が一塊になっていなくても、少しくらい離れた場所に居ても、5人まででしたら、個別に防御結界が張れるようになったのですよ。すごくありませんか? 」


「まぁ! そんなことが出来る様になりましたの? 凄いわ! ん? でも、丸い輪っかは6つ……違いますわね。1つは人型? 」


「ああ、それは私の型ですわ。この研究室に居たのは私を含めて6人。でも、私は5つしか個別防御結界が張れません。ですから、私以外の方の分が丸い輪っかで、このちょっとした事件現場の様な人型が私ですの」


 ふふんと手を腰に当て、自慢気にそう言うと。

 母様はプルプルと震えながら、冷気を漂わせ始めました。

 …………。

 やばい?


「ルイーーーズッ!! 」

「ひっ!!ひっ、 ひゃいっ! 」


 結果。

 むっちゃくちゃ叱られました。

 怪我はないの? から始まり、嫁入り前の娘が、とか。

 無関係な人を優先するのは尤もだけれど、何故逃げなかったの、とか。

 爆発物だけを結界に閉じ込める事も出来たでしょう、とか?

 これは、そうだと思ったね。

 次回から、爆発する危険性がある物は、結界に閉じ込めながら作業しましょう。

 ちなみに、髪と制服が焦げただけで、怪我はありませんでしたよ。

 鍛えてるからね!

 焦げた髪も回復魔法で元通りさ。

 でも、制服はボロボロで修復不可能だったさ。


 ◇ ◇ ◇


「それで、何の魔道具を作っていて、大爆発を起こしましたの? 」


 ただいま、母様と談話室に移動し、お茶を頂いております。

 談話室と言っても、お説教部屋━━もとい、個別指導室なんだけれどね。

 生徒達に邪魔されず、お話が出来るスペースをって事で、学園長に使用許可を頂きました。


「それは……」


「母様に言えない物を作っておりましたの? 」


「そうではありませんが……でも、呆れる事、請け合いですわよ」


「まあっ! 母様が呆れる様な物を作り、爆発させてしまったのね。もう、早く仰いなさい。楽になれますわよ」


「母様……犯人に供述させる様な物言いですわ。確かに、爆破犯は私ですけども……」


「ルイーズ?! 」


「は、はい……実は、転移魔道具を少々……」


「転移魔道具? 宝珠は持っているじゃない。何故、新たに作る必要がありますの? 」


「サクラおばあ様から譲り受けた宝珠の様に対で発動するする物ではでなく。1つの魔道具で行きたい所に何処でも行ける様な物にしたかったのです……」


 拠点がなくても、行きたい場所へピューンと行ける様な転移魔道具を作りたかったのですが。

 透過の概念がちんぷんかんぷん━━勉強不足で、上手く発動いたしませんでした。

 壁や天井にゴツンってなってしまいましたの。

 いくつかの痣やコブを作った後、憎っくき壁や天井を凝視しました。

 天井や壁なんて、無くなってしまえばいいのよ! と、そんな怨嗟を込めて凝視しておりましたの。

 その時、天啓が下ったのです。

 転移じゃなくても、瞬間移動ならいけるんじゃね? ってね。

 私は、瞬間移動ならば可能である事に気付き、『実験版・瞬間移動魔道具』を制作いたしました。

 もちろん、成功です。

 障害物がない状況で実験してみた所、平原なら数キロ先まで転移━━瞬間移動が出来ましたの。

 これには、私も調子付きましたね。ヒャッホーってなりましたわ。

 そして、ホクホクと『実験版・瞬間移動魔道具』を手に持ち、浮足立つ気持ちを押さえもせず、私は研究室に戻りました。

 ええ、完全版を製作するためでございます。

 実験版では小粒の無属性魔石を使用しましたが、完全版には惜しげもなく、これまでクエストの報酬金などをコツコツ貯めて買った大事な大事な()()無属性魔石を使用しましたのよ。

 なのに……欲張って移動できる距離を伸ばす魔法陣を刻み続けていたら……ボンッ! って……。

 まぁ、転写するのを面倒くさがって、直接魔法陣を魔石に刻み込んだ、私の落ち度なんですけれどもね。

 

「……ルイーズ、貴女……父様が『ホエール連邦国』に向かったから、追いかけようと思ったのね」


「えっ?! な、なな、ななななんの、な、なんの事で、しょうか? ……」


 手に持ったカップがカチャカチャと音を立てている。

 これは、完全にバレてますね……。


「その挙動不審な態度がなくともわかります! 私を誰だと思っておりますの? 貴女の母親ですわよ」


 さ、さすが母親。素晴らしい御慧眼です。

 こうなったら、腹を割って話すしかありませんね。

 

「御察しの通りでございます。父様だけ『ホエール連邦国』に行けるなんてズルい。私も現地に赴き、表向きは双子さんの捜索。裏では、マグロやカツオの代わりになる魚の捜索をしたいのです。ついでに昆布とワカメも」


 私は、母様にきっぱりと告げました。

 魔王様の忘れ形見である双子の捜索は、一大事です。

 ゆえに、ルフィーノさんや軟禁されているはずのイルミラさんまで連れて父様は向かわれたのですもの。

 ですが、双子捜索に関して、私は役に立たないでしょう。

 海を目の前にして、ジッとしていられる私では御座いませんもの。

 そのかわりと言ってなんですが、食材を手に入れる事に関してはお任せください。

 必ずや、最高のお魚と海草を手に入れ、皆のほっぺを落として見せますとも。


「そこまでして、『ホエール連邦国』に行きたいのですか? 」


「はい」


 私の純粋な気持ちを知っていただく為に、背を正し、真剣な面持ちを浮かべ答えました。

 すると母様は、本日何度目かの溜息を吐き、こう仰いました。


「…………わかりました。ですが、誰を共にして行くのですか? 」


「1人で参ります」


「母様が、護衛も付けずに貴女を送り出すと思っておりますの? 」


「いえ、思いません。ですが、お友達は勉学が御座いますし……ケンゾーは『ソマリ帝国』に居ますわ。ぴよたろうは、様々なお仕事がありますでしょう? それに、師匠はジョゼの鍛錬と我が家の護衛を担っております。よって、私と『ホエール連邦国』まで供をしてくれる人材がおりません」


「…………そうね。居ませんわね」


 母様は頬に手を当てて、物憂げにこう仰いました。

 暫し沈黙が流れます。


「母様? 私は1人でも平気ですわよ? 魔道具さえ完成すれば、一瞬。いえ……関所は通過しないといけませんし……立ち寄ったのなら、観光もしたい。なら……3日くらいかしら? 母様、3日ほどで『ホエール連邦国』に到着いたしますわ。父様と合流さえすれば、安心できますでしょう? 」


 私の発言を聞き、母様の眉間に皺が寄ります……。

 

「わかりました。行きの観光は諦めて、帰りに致します」


 私に出来る、精一杯の譲歩です。


「ルイーズ? 」


 口元は微笑んでいるのに、目は全く笑っていない母様に呼ばれました。

 

「はい」


 背筋に悪寒が走っております。


「母様が懸念している事が何か、当てられます? 」


「懸念している事ですか? 貴族の娘が1人で行動するのは危ない? は、然程思っておりませんね……あ、ああ! わかりましたわ。十中八九、行く先々で何かをやらかすだろう娘が心配だから、護衛という名の良識のある大人に監視してもらいたいのですね━━いてっ! 」


 ポカっと小突かれました。

 本日、2度目でございます。


「正解です」


「でしたら、母様。ナギに声を━━」

「ナギは、貴女と同類です。一緒になって、何かをやらかしてくるでしょう」


 …………よく、御存じで。

 ちなみに、フェオドール、ダリウスなんかもやらかし要員として、母様に認識されております。

 そう考えたら、ケンゾーって良識人だったんなあ……。

 

「母様。良識のある大人なんて、おりませんよ? 」

「そうなのよね……どういたしましょう……ギルドに護衛依頼を申し込むことも出来ませんし……」


 うん?

 

「冒険者に護衛依頼を出すのが、何故出来ないのですか? 」

「貴女の事は、極秘扱いになっておりますのよ? 知りませんでしたの? 」


 うん?


「えっと、母様? 私の何が極秘扱いなんですの? 」

「えっ?! 何がって、貴女の強さや魔法の知識。それと、貴女の持つ魔道具なんかは、極秘扱いになっていますのよ」


「えっ? ええ~~~~~~~っ!!!!! 」


 私は顎が外れんばかりに、驚愕しております。

 私の様子を見た母様も何事かを察して、驚愕しております。


「えっ、ええっ?!? 誰かが、知っているの? 誰が知っているの? 仰い。口止めしなくてはいけませんから、仰いっ」


 母様にゆさゆさと揺さぶられるも、

「ん~んんっ」

 ギュッと口を噤みます。

 ここで白状すれば、シモンさんが亡き者になる可能性がっ。

 

 …………。

 って、訳ないか。

 

「遠征に同行して下さった冒険者の方です」


 母様は私の肩から手を外して「そう……」と呟き、続けてこう問われました。


「その冒険者の方の名はなんと仰いますの? 」


「Bランク冒険者の『シモン』さんと仰る方ですわ。とても良い方ですのよ。素性を隠した父様の威圧や殺気を浴びながらも、私達を守ろうとしてくださったくらい」


「まぁ! 旦那様の威圧や殺気を浴びても、立ち向かったの? 男気のある素晴らしい方ですのね。ふふ、旦那様の威圧や殺気に耐えた人材なら、貴女の護衛を任せても安心ね! そして、この依頼を無事完遂出来れば、我が家専属冒険者になっていただいても良さそうですわね……」


「ええ。ん? 」


 後半は聞き取れませんでしたが。何、この母様の食い付きっぷり……。

 まるで乙女の様な喜びっぷりですわ。

 父様の威圧や殺気に耐えただけで、そこまで有望視されますの?

 でも、まあ。そうですわね。

 父様は一応剣聖ですものね。

 私個人としては、母様の方が恐ろしいのですけれど……。


「では早速、その方に個人依頼を出しておきましょう」


 ……シモンさんと旅かぁ。

 嫌じゃないんだけれど、護衛無し、監視無しが良かったなぁ。

 誰に気兼ねすることなく、自由気ままに、ウロチョロしたかった。

 ですから。


「母様。やはり、1人で行くのは駄目ですか? 」


 駄目元で伺ってみます。


「当然です。この条件が呑めないのでしたら、行くことは叶わないと思いなさいな」


 ちぇっ、ですわ。

 

「承知いたしました……行くことを許して頂き、尚且つ護衛の手配までして下さるんですもの。この条件で手を打ちます」


 不承不承ながらも、条件を呑むことを告げました。

 すると、母様は満足げに微笑んだ後、バッグからとある物を取り出し、私に手渡して下さいました。


「はい。これを使い魔道具を完成なさい」


 とても大粒の無属性魔石です。

 私がコツコツ貯めたお金で手に入れた物より、大粒です。

 これ一粒で、お気に入りのパン屋さんをパン屋ごと買い占められますよ。

 

 私はふるふる震える手で、魔石を持ち。

 パン屋さんを買い占めたい衝動に駆られながらも、母様にお伺いします。

 

「母様……宜しいのですか? 」


「ええ。これは、貴女へ渡すようにと、旦那様からお預かりした『無属性魔石』ですもの。好きにお使いなさいな。ただ……」


「ただ? 」


「魔道具が完成した暁には、魔法陣を魔法省へ提出する事が条件だそうです」


 …………この大粒魔石は、先行投資って事ですかい。

 了解いたしましたよ。


 ◇ ◇ ◇


 母様を見送った後、私は主要メンバーを連れて、裏山に来ております。

 そうです。

 キチンと、魔石に転写をしましたので、爆発の危険性は、もうありませんが。

 一応、人の居ない場所で実験をしようかと、赴いたのでございます。


「それで、ルイーズ。本当に、1人で行っちゃうの? 」


 頬を膨らませて、不貞腐れた様に言うフェオドール。

 置いて行かれるのが、本当に、不満なんですね。


「ええ。自由に勉学を休めるのが私だけでしょう? 試験も近いし、今勉学を怠ると、フェオドールも皆もお休み返上で、補習を受ける羽目になりますわよ」


 前世の知識、教養を持ってすれば、試験なんて寝ていても、オールA+なのです。

 しかし、皆はそうはいきません……。

 いや。この子達、優秀だし、いけそうですね……。

 しかし! 私は涙を呑んで、友を置いていくのです。


「でも~行きながらでも勉強できるじゃないかぁ。連れて行ってよぅ~」


 尚も駄々を捏ねるフェオドール。

 追い打ちをかけるように、ダリウスが口を開きます。


「そうですよ、ルイーズ。フェオドールのいう事は尤もです。私達は、それなりに出来る方だと自負しておりますし、何日か勉学を休んだところで、痛くも痒くもないのですよ。それなのに、置いていくと言うのですか? 」


「ぐっ……」


 私も皆で行きたいよ。

 でもね、向こうで待っている? 父様が許すはずがないのよ。

 私1人ならば、『テヘ、来ちゃった♪ 』で済みますが。


 すると、カリーヌが悲し気な面持ちで、更なる追い打ちを。

「皆様、わがままを仰らないで。きっと、ルイーズは色々考えてくれた結果、私達を置いていくのが最善だと判断しましたのよ……う、ううぅ……」


 カリーヌの背中をさすりながら、ララまで涙を浮かべ、またまた追い打ちを……。

 

「カリーヌ……泣かないで。貴女が泣くと、私まで悲しくなってしまう。うわぁ~んっ」


「やめてっ! 」


 乙女の涙なんて見せられたら、ライフがガリガリ削られてしまう。

 だから、本当にやめてっ。

 私は蹲り、耳を塞ぎます。


「で。本当に僕達を置いていく理由は何? 」


 今度は、酷く冷静な声色で、フェオドールがそう問いかけてきます。

 追従して、皆も頷きながら、私の答えを待っています。

 カリーヌ、ララ……貴女達、涙の跡は何処?

 嘘泣きだったの?!

 私を騙しましたのね……。


「……いいでしょう、本当の理由をお話致しますわ。ですが、その前に。ララ、カリーヌ、こっちにいらっしゃい」


 こいこいと手招きするも、ララとカリーヌは、おでこを押さえ首をブンブン振っております。


「いや~デコピンは痛いもの~」

「私も嫌ですわ~凄く痛いって訳ではありませんが、地味に痛いのですもの~」


 悪戯したらデコピンの刑が待っていると察している2人に、

「痛くしませんわよ。ほんの少しだけ、ピンとするだけですわ」

 私は優しく諭しましたが。


「「いや~~~」」


 ララとカリーヌは、全力ダッシュで逃げて行きました。

 もう。本当に、痛くしないのに。

 

「ルイーズ。2人は暫く、帰ってこないと思う。だから、僕達だけに訳を教えて」


 ララとカリーヌを見遣り、諦めた様にそう告げるフェオドール。

 仕方がありませんね、あの子達が帰って来るのを待っていたら、実験が出来ませんもの。

 話してしまいますか。


「では、理由をお話しますわね。まず、現在は爆発して無くなってしまいましたが、用意した魔石の容量を考えると、皆を同時に移動させる事が不可能でしたの。まぁ、この件に関しては、母様からいただいた大粒の魔石で可能になりましたが、違う理由で皆を連れて行くことが出来なくなったのです」


「うん? それはどうして? 」

「そうです。可能になったのなら、私達も行けるはずでは? 」


 だよね。そう思うよね。

 行けるようになったのなら、連れて行くのが当たり前ってね。

 

「その理由は……」

「「その理由は? 」」


「母様にバレてしまったからです。本当は、こそっと抜け出して、人知れず帰ってくるつもりだったのですが、盛大にバレてしまいました。これでは、こそっと行ってくることが出来ませんでしょう? 」


「うん? なぜ、バレたら行けないの? 」


「フェオドール……本当にわかりませんの? 」


 そう問うと、フェオドールは本当に理解できていないようで、頭を振りました。


「ダリウスも、わかりませんか? 」


「いえ。バレてしまった現在、行くとなると親の許可が必要になります……その許可を取れるかどうかで判断したのでしょう? 」


「そう。親の許可、頂いて来れますか? 」


 すると、フェオドールもダリウスも、頭を振った。

 遠くに佇んでいるララとカリーヌまで、頭を振っておりますね。

 その距離に居ても、聞こえますのね。


「でしょう? 私は母様に許可を頂きましたし、父様と合流しても『テヘ、来ちゃった♪ 』で丸く収まりますもの」


 私がそう告げると、フェオドールが何かを思いついたように手を打ちました。


「どうしたの? フェオドール。何か、良い案でも浮かんだの? 」


 するとフェオドールは、ニコニコしたままこう言いました。


「親の許可がなくても、行ったあとで、侯爵様に許可を頂いたら、丸く収まるんじゃない? 」


「…………確かに。侯爵様から、一言、お口添えを頂ければ、丸く収まりますね」


 どう? 名案でしょうって顔でこっちを見ないで。


「いいわよ。父様の許可を頂くには、私の様に『テヘ、来ちゃった♪ 』をしていただきますよ。それでも宜しいですか? 」


「うっ」

「うぐっ」

 

 フェオドールもダリウスも我が父様の前で、『テヘ、来ちゃった♪ 』をするのは、年齢的にも羞恥心が邪魔して無理でしょう。

 ですから、大人しくお留守番をしていてくださいな。

 そう思っていたのに。

 フェオドールが、一大決心をした(おとこ)の顔を浮かべております。

 やる気か?


「よし! わかった。やるよ。僕はやるよ」


 やる気の様です。


「本当に出来るの? 首を傾げながら、笑みを浮かべて『テヘ、来ちゃった♪ 』ですわよ? 」


「ああ、出来るよ。それくらいできないと、ルイーズと遊べないじゃないか」


 なんですか、その返答は。

 まるで、私と遊ぶ事が恥ずかしいって言ってるみたいじゃない。


「フェオドール。その言い方だとルイーズが誤解しますよ」


 ダリウスにそう言われ、フェオドールが訂正の言葉を告げました。


「ああ、ごめんね。ルイーズと遊ぶのが恥ずかしいとかじゃなくて、楽しい事に置いてけぼりされちゃうのは嫌だから、それくらいなら出来るよって意味で言ったの」


「そういう意味ね。承知しましたわ。では、フェオドールは行くのね? 」


「うんっ」


「それじゃあ、ダリウスはどうします? 」


「ぐっ……や…………ます……」


 蚊の鳴く様な声で『やります』と告げるダリウス……。

 貴方の性格上、フェオドールより難易度が高いって理解してますか?

 しかしながら、やるって言った以上、やってもらいますがね。


「それで! 逃亡中の2人はどういたしますの? 」


 未だ距離を取っているララとカリーヌにそう問いかけると。

 手を取り合ったまま、ピョコピョコ飛び跳ねております。

 それは、行くの行かないのどっち?

 首を傾げておりますと、今度は、大きく手で丸を作りました。

 行くのね。


「では。皆で一緒に行くで、宜しいのですね」

「「「「は~い」」」」


 いいお返事だこと。


「では。私は実験を致しますから、皆は『テヘ、来ちゃった♪ 』を完璧にマスターしておいてください。目標は、一糸乱れぬ『テヘ、来ちゃった♪ 』を披露する事ですよ。私も、実験が終わり次第、練習に参加しますから、それまで頑張ってください」


「「「「は~い」」」」



 こうして、皆と『ホエール連邦国』に行くことが決まったのでした。

 …………皆の『テヘ、来ちゃった♪ 』かぁ……。

 こりゃあ、急いでムービーが撮れる魔道具を開発しないといけませんね。

  

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