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ガリア艦隊来航

 ガリア艦隊来航。

 休戦期間中にガリアが送り出してきた増援艦隊が来航してきた。

 接収し現在は臨時司令部となっている元総督府庁舎でサクリング艦長は全艦長と幕僚にしているカイル達レナウンの士官を集めた。


「敵艦隊の構成はわかるか?」


「はい艦長」


 ビーティー海尉が報告した。

 正確には代将なのだが、レナウンの艦長も兼任しているし、今までの慣れからもサクリング海佐のことを代将ではなく艦長と呼んでいた。


「報告では戦列艦一六隻、フリゲート八隻。他に輸送艦など十数隻。急速接近中です」


「こちらの戦力は?」


「連れてきた戦列艦八隻、フリゲート九隻のみです」


 フリゲートはレナウンを含め一三隻あったが、四隻はピク・マルティ占領任務の陸上兵力を運ぶために輸送艦にしている。

 要塞攻略で死傷者は出ていたが、他の部隊に被害は無く海戦に支障はない。


「接収したガリア艦は?」


 ピク・マルティ島に駐留していた戦列艦八隻、フリゲート一二隻の艦隊は接収してアルビオンの物となっていた。それを活用出来ないかとサクリング艦長は尋ねた。


「配属できる水兵が少ない上、慣れるのに時間が掛かります。戦力として組み込もうとすると艦隊全体の戦力が低下します」


 カイルが報告した。

 軍艦は載せる乗組員がいないと動かない。方面艦隊とほぼ同数の駐留艦隊を動かすには乗員を二分する必要があり、その分方面艦隊の戦力が低下する。

 また艦を動かすのは慣れが必要だ。特に人数が多いとチームワークなどを徹底する為の演習と時間が必要だ。

 一日二日でどうにかなるものではない。

 更に占領したピク・マルティ島の占領維持のために人員を割く必要がある。

 以上の事から接収したガリア艦を戦力化するのは難しい。

 無理をすれば戦列艦二隻くらいなら何とかなるかもしれないが、動かすので精一杯。お荷物でしか無い。

 だから艦隊の増強を諦める。


「艦隊を増強するのは難しいか」


「艦長は来航したガリア艦隊を、どのように対処しようと考えているのですか?」


 カイルは艦長に敵艦隊への対応を尋ねた。

 迎撃、時間稼ぎ、港に引きこもって相手が撤退するのを待つ。幾つか選択肢があり、艦長が何を求めているか知る必要があった。


「敵艦隊撃滅」


 カイルの問いかけにサクリング艦長は即答した。


「敵艦隊を完全に殲滅しなければアンティル諸島の安全は守れない」


「確かに」


 サクリング艦長の好戦的な意見にカイルは渋々同意する。

 圧倒的戦力差だが、ガリア艦隊を排除しなければアンティル諸島を守ることは出来ない。艦隊は風さえあれば自由に動くことが出来る。

 アンティル諸島にあるアルビオンの植民地をヒット・アンド・ラン戦法で襲撃して逃げて行くことも出来る。

 そんな事をされたら数的劣勢の新大陸方面艦隊では対応できない。

 そもそも捕捉できるかどうかさえ怪しい。

 大艦隊とはいえ広い海ではごま粒程度に過ぎず、発見するのは難しい。出来る事なら、今のうちに攻撃して撃滅したいのがサクリング艦長の考えであり、妥当な選択だ。

 戦力差が大きく、圧倒的に不利という点で、常識的には選択肢としては除外されるが。


「そうなるとピク・マルティ島の要塞の戦力を追加するしか有りませんね」


 沿岸砲台は軍艦に対して圧倒的に優位だが、それは射程内においてだ。

 沿岸砲台は移動できないため、敵が入り込んでくるのを待つしか無い。

 そしてここピク・マルティ島はガリアから奪い取ったので、向こうの艦隊が要塞の射程内に入る事はないだろう。

 それ以上に軍艦は戦闘において性能差が顕著に勝敗に直結する。

 有利不利が一発で解るので不利と判断したら直ぐに撤退してしまう。

 敵に決戦を強要させるには圧倒的に優位な状況だと錯覚させるか、逃げ出せない状況に追い込むかのいずれかだ。


「出撃したら艦隊決戦に応じるんじゃ無いの? 向こうは数が多いんだし」


 レナが尋ねた。

 確かにガリア艦隊の方が多い。


「艦艇の数はね。けどこっちは陸上砲台があるから不利になれば砲台の射程内に逃げ込める。それに向こうは根拠地が無い」


 艦隊にとって根拠地が無いのは厳しい。整備が出来ないと艦艇の性能を維持できない。

 更に戦闘を行えば損傷が出る。艦内でもある程度修理できるが本格的な修理は工廠で行う必要がある。

 何よりも問題なのは、物資を大量に消費するので補充が必要になることだ。

 その根拠地をカイル達に奪われているため長期的な視点に立てばガリアは攻撃できない。場合によっては撤退を考えるレベルだ。

 カイルなら状況が悪すぎるため撤退する。アンティル諸島の他の島に行き奪回準備を行う。あるいはガリア本国に帰る。


「それは何としても避けたい。今ここで敵艦隊を撃滅したい」


 だがサクリング艦長はあくまで現有戦力での攻撃を狙っている。

 増援が来るかどうか解らないし、敵艦隊を捕捉できる機会があるかどうかも解らない。

 海の上で船同士が出会うことは少ないし、狙った相手と会える可能性はほぼ皆無。

 出会った時に打ち破るのが良い。

 見敵必殺というのは無謀に聞こえるが接触が難しい現実を考えると正しい考え方だ。

 だからこそ撃滅するための方策をサクリングは求めていた。


「まあ、敵艦隊を不利にする方策はある事はありますが」


「何だ?」


「こちらも別の一面では不利になります。成功する保証もありません。場合によっては占領したこのピク・マルティ島が奪回される恐れもあります」


「聞かせろ」


 サクリング艦長は躊躇無く尋ねた。

 何事にも不利な点というものは存在し、多少なりとも考慮するものだ。だがサクリング艦長は敵艦隊撃滅の為にはあらゆるリスクを甘んじて受ける覚悟だった。いや、振り切って進める勢いだ。

 カイルは勢いに押されて作戦案を示した。




「ピク・マルティが占領されたか」


 アルビオンに占領されたとの報告にガリア艦隊司令長官コンフラン中将は旗艦ソレイユ・ロワイヤルの後甲板で苦虫をかみつぶした。

 ピク・マルティ島を根拠地にアルビオンの植民地を襲撃する作戦だったがアルビオンに占領されたことで御破算だ。

 途中艦隊が無風帯に遭遇したり嵐に遭ったため航海計画が狂い遅れたことも誤算だった。

 本来なら休戦期間中に入港したかったが、既に戦争は再開している。

 アルビオン艦隊を攻撃するべきか。

 それともポルトー・ガリアに行き態勢を立て直すか、本国に帰るべきか。

 コンフラン中将は悩んだ。

 弟が海賊討伐でヘマをしてコンフラン家の名に傷が付いている。兄である自分も失態をやらかせば家の名は地に落ちてしまう。引き返すなど出来ない。


「長官、アルビオンから休戦旗を掲げた使者がやって来ています」


 その時、サクリング艦長からの使者が訪れた。コンフランは使者を受け入れると親書を読んで尋ねた。


「捕虜の返還だと」


 サクリング艦長が提案してきたのはピク・マルティ島で抑留しているガリア側の捕虜を引き渡すという事だった。


「既に艦隊が来航して解放を交渉中と伝えております」


 クリフォード海尉と名乗った使者は淡々とコンフラン中将に伝えた。

 それを聞いてコンフランは頭を抱えた。


「条件は?」


「無条件です。そちらへ捕虜をそのまま送ります」


「こちらは受け入れ態勢が整っていない。人道上の配慮から輸送用の船舶と食料物資の提供を求める」


「そちらは戦列艦一六隻を有する艦隊です。余剰空間は十分にあると思いますが。それに食料物資も十分な余裕があるはずです。出来ないとあれば交渉は決裂という事で」


 使者の正論にコンフランは頭を抱えたくなった。


「少人数の受け入れなら」


「いいえ、解放希望者全員の受け入れを求めます。捕虜となっている彼らの意見を最大限に尊重したいとアルビオンは考えています」


 暫し考えてからコンフランは答えた。


「解った。全員の即時受け入れを了承しよう。ただ、こちらも収容できる人数が少ない。民間人だけでも商船の一部で送って欲しいのだが」


「わかりました。それは了承しましょう」


「ところでソントナ総督の扱いは?」


「ソントナ総督は捕虜解放を拒否しアルビオンへの亡命、恭順を希望しております。なので対象から外します。亡命希望者は受け入れる事にしています」


 策略とは言え、ピク・マルティ島と艦隊を奪われたソントナがガリアへ帰還しても軍法会議にかけられ即時銃殺以外の運命は無い。

 だからアルビオンに降り恭順していくしか生きる道は無く、ここピク・マルティ島に留まり占領行政に協力する道を選んだ。


「わかった。その方向で了承しよう」




「捕虜全員を帰還させるって本当?」


「そうだよ」


 レナの質問にカイルは答えた。

 既に捕虜の移送は始まっており、一部はボートで送り込んでいる。軍人の家族や民間人は商船を指定して乗船作業を始めていた。


「折角捕まえたのに身代金も取らないの?」


「そのために抑留期間が長くなり費用も嵩むからね」


 捕虜の監視や食料などを与えるために人員を割く必要がある。現状は人手不足の中、その負担は大きい。

 更に与える食料も有限では無い。捕虜に渡す食料は減らしたい。

 監視対象となる住人も減らしておきたいのが本心だ。

 交渉開始時点では商船での捕虜・住民移送を突っぱねこそしたが、それを許したのは交渉を妥結させるための必要な譲歩だと考えている。ガリアの正規軍人を商船へ乗せずに済み、民間人移送に使った以外の商船がこちらに残った事を良しとしたい。


「でも大丈夫なの? 相手に戦力を渡すようなものよ」


 駐留艦隊は戦列艦八隻を含む十数隻。その乗員は数千人。更に海軍工廠や補給倉庫の人員、要塞の守備隊など数千人。総計約一万人もいる。

 それが、ガリア側に渡されるのだから増援艦隊の戦力アップになる。


「あたしならこのままこのピク・マルティ島へ上陸して奪回作戦を敢行するわ」


「それが狙いさ」


 呟いたカイルを見てレナは一歩後ろに退いた。

 口元を愉しげに曲げて昏い笑顔を浮かべる様はまるで悪魔のようだったからだ。

 そして、ガリア艦隊が捕虜を受け入れてから西に向かって出帆した、という報告が入ってきた。

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