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蒼海の風~転生エルフ海軍士官奮闘記~ #3 対ガリア戦役編  作者: 葉山宗次郎


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審議

「まったく、なんで頭の硬い人ばかりなのよ」


 今日の分の審議が終わって軍法会議の建物を出てきたレナは大声で叫んだ。

 海軍の基地であるため建物は岸辺に並んでいる。なので目の前の夕日が沈む広い海に向かってレナは叫ぶ。


「あいつら全員海に沈んでしまえ!」


 レナウンでの作業が終わった後、上陸し軍法会議の様子を傍聴していた。だがその内容がサクリング艦長に不利なものだったのでレナの怒りは頂点に達した。


「戦果を上げた艦長が処罰を受けないといけないのよ」


「軍法だから仕方ないのよ」


 引率のクリフォード海尉が言い聞かせるが収まる気配はない。

 傍聴中もレナが何度も騒ごうとしたのを抑えていたためクリフォード海尉は疲れぎみだった。


「五月蠅いよ。周りの目も気にしてよ」


 そんなレナを見てカイルがたしなめる。


「あ、カイル早かったわね」


「目立っていたからね」


 所用で別行動をしていたカイルがレナ達の元に戻って来た。元々合流予定だったが、レナの大声で直ぐに見つける事が出来た。

 そのことをやんわりと注意するがレナは気が付かない。


「一寸カイル聞いてよ。軍法会議の連中、艦長の上げた戦果を無視して下らない規則違反ばかり責め立てるのよ」


 軍法会議でのサクリング艦長は意気消沈すること無く、寧ろ堂々と自分の行動を述べていた。

 五月一日の海戦は艦隊決戦を目的としたものとして前日の旗艦会議から受けた命令も詳細に述べた。そして戦列を構成せよとの命令を受け、戦列に加わっていた事を認めた。

 だが風向きが変わり、双方とも戦列の維持が出来ないと艦長は予測。

 本作戦は敵艦隊の撃滅が目的であり、逃がすことを許せば目的を達成できない。

 敵は既に逃走に入っており、味方が戦列の再構築を行うと敵を取り逃がすと分析。

 戦列を離脱して追撃することが最適と判断し行動した旨を主張した。

 だが法廷は一艦長にそのような権限は無く逸脱行為と判断。

 サクリング艦長も戦列離脱が命令違反である事をハッキリと認識していたと認めた。だがそれでも自分の判断が正しいと今も信じていると言ったため判事役への印象を悪くしている。

 リドリー提督も状況に応じて必要な行動を執るように部下を指導していたと証言し弁護していた。

 だが、司令長官であるライフォード大将の命令が出ていない以上どうしようもなかった。

 また当時後衛戦隊を指揮していたリドリー自身も戦列の再構築に奔走していたこともあり、弁護するための十分な要素を持ち合わせていなかった。

 しかも艦隊決戦は敵を全て沈めるか、味方を全て沈めるかのどちらかであるべきだ、と述べた。

 艦艇を喪失せずに戦果を上げようという、海軍上層部の考えとは相反するサクリング艦長の見解も、判事役の心証を悪くした。

 ただ海軍内にもサクリング艦長を擁護する意見があり、早期の決着を避けているようだ。審理を尽くしてサクリング艦長を有罪とした、という結末に軍法会議は持って行きたいようで繰り返し検察役がサクリング艦長を非難していた。

 こうして軍法会議はサクリング艦長不利のままその日の審議を終えた。

 桟橋に向かいつつ、見ていた審議の内容を貶して喚き散らしながらレナはカイルに説明した。

 所々感情入り交じるレナの説明を理解するのは困難を極めたが、クリフォード海尉の補足もありカイルは何とか現状把握が出来た。


「艦長は自らの行動が命令違反と認識していたか」


 サクリング艦長が処罰を覚悟してまで命じたことに、カイルは罪悪感を感じて黙り込んだ。


「そもそもカイル、この重大なときに何処に行っていたの」


「試験を受けに行っていたんだよ」


「任官試験は明日でしょう」


「別の試験だよ」


「まあそんなものいいから聞いて」


「良くないよ」


「兎に角聞いてよ。サクリング艦長が処罰を受けそうなのよ」


「戦列離脱は重罪だからね」


 不用意に戦列を離れた艦の艦長が処罰を受けて銃殺された事例は多い。


「何とかならない?」


「海尉心得の身分ではね。証人として召喚もされていないし」


 聞き取りはクリフォード海尉やビーティー海尉に対して行われていた上、艦長自ら航海日誌に戦列離脱の記述も行っている。

 明確に記載されていたため命令違反は明らかだった。

 他の艦の艦長の証言もあり、近くにいたカイルもレナも階級が低いためか呼ばれていない。

 回航中漂流してバタビアに流れ着き抑留されたため、聞き取りが出来なかったこともあり、カイル達に証言の機会は無い。


「呼ばれたら全力で弁護できるのに!」


「レナじゃ無理でしょう」


「五月蠅い」


 カイルの言葉をレナは大声で遮った。


「そもそもカイルはどうして艦長の弁護をやらないの」


「それは試験が」


「いつものあなたなら試験ならともかく試験勉強など後回しで弁護の為に奔走すると思うけど」


 図星を指されてカイルは黙り込んだ。理解力は無いが勘だけは鋭いレナの指摘にカイルは焦る。


「何かあったの?」


「……あの時、僕は独断で戦列を離れようとしたんだ。戦列が乱れたあの時が最大のチャンスだったからね。だから面舵を命じようとした。けど、その前に艦長が面舵を命令した。もし艦長が命じていなかったら僕が命じていた。軍法会議に出るべきなのは僕だ」


 そう言うと、カイルは意を決して尚も言葉を続ける。


「やっぱり軍法会議に出て行くよ。僕が艦長に戦列離脱を促したと伝える」


「そのことでカイル、サクリング艦長から伝言よ」


「え?」


 クリフォード海尉からの言葉にカイルは驚いた。クリフォード海尉はカイルにサクリング艦長の言葉を伝えた。


「全て理解した上で、私が決断したことだ。君が悩む必要は無い」


「……どういう事でしょうか?」


「艦長は自ら決断したのよ。そして行動したの。勿論あなたの報告を聞き、考えも知った上でね。だからあなたには何ら非が無いとの事よ。罪悪感を感じる必要など無いわ」


「ですが」


「艦長の決断は艦長のものよ。それとも艦長はミスタ・クロフォードの指揮下にあったというの?」


「いいえ」


「ならば艦長の事で自分に責任があるような事はしないように。艦長は艦において絶対権力者。艦内の全責任を負う立場。あなたも言ったことでしょう」


「……はい」


 艦長は艦に対する全権を有している。その代わりに艦内で起きた全ての責任を問われる立場にある。


「部下のせいにする艦長もいるけどその点サクリング艦長は立派よ。全ての責任を負うと決めているの。それをあなたの自己嫌悪で横から奪い取るのは艦長に対する侮辱よ」


「すみません」


 クリフォード海尉の言葉にカイルは恥じ入るばかりだった。


「よし。その上で艦長から命令よ」


「はい」


 サクリング艦長からの言葉と聞いてまたもカイルは驚いた。クリフォード海尉も今は艦長代理なので艦長と呼ばれる立場にある。しかし、カイルとクリフォード海尉にとっては艦長と言えばサクリング艦長以外に居ない。

 クリフォード海尉も自ら遠慮して代理とか呼ばせていた。

 だから艦長というのはサクリング艦長の事だ。

 カイルは背筋を伸ばして命令を待った。


「明日の海尉任官試験、合格しなさい」


「え?」


 カイルは命令に戸惑った。命令は行動を規定することであり、結果を求めるものではない。

 コイントスではコインを投げることは出来ても、自分自身で表か裏を決めて出すことが出来ないのに、表を出せと言っているのと同じだ。

 だから、結果を規定する命令を出すことは出来ない。


「あなたに出来る事と考えているのよ艦長は。合格できない奴に合格しろなんて命令しないわよ。他の事に気を取られず試験に全力を尽くしなさい」


 サクリング艦長が自分の事をそのように評価してくれていたことにカイルは感激した。

 自分が軍法会議にかけられているにも関わらず気遣ってくれる艦長に、カイルは感謝した。

 戦列離脱を進言したようなものなのに、そのことを責めること無く、むしろ庇ってくれている。


「はい」


 カイルは素直に答えた。

 全力で試験に向かおうと心に決めた。


「試験に合格します」


 カイルはハッキリと断言した。


「そうね。明日の試験頑張りなさい」


 気合いを入れようとカイルの背中をレナが叩いた。


「!」


 咄嗟の事にカイルは避けられず、桟橋から海に落ちてしまった。


「か、カイル!」


 落ちたカイルが桟橋に泳ぎ着くと慌ててクリフォード海尉は彼を桟橋に引き上げた。

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