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ロイテル海尉との会談

「さてアルビオンとガリアの艦隊はどう動くのだろうかな」


 バタビア共和国海軍のロイテル海尉は新たな勤務先であるバタビア海軍本部で呟いた。

 海賊討伐の合同艦隊が解散し帰国した後、本部付きに任命され情報収集を担当していた。

 現在の任務は交戦する可能性の高いアルビオン及びガリアの動向に関する情報収集だ。

 中立国だが、交戦国が何時攻めてくるか解らず備えておくにこしたことはない。何時どちらかの国がバタビアを攻めてくるか解らず、相手の実戦能力を知ることは平時においても重要だ。両国が戦うとなれば実戦能力を探る絶好の機会であり逃す訳には行かない。

 そのため多数のスパイを放ったり商船から情報を集めて分析している。

 それらの情報を元にバタビアは行動しなければならない。特にどちらか一方が優位に立つのを避けなければならない。

 どちらか一方が勝って強力になってもバタビアは脅かされる。

 まだ開戦していないが、両国の開戦は時間の問題だろう。

 ならばどういう過程を経て、どのような結末となるかを予想しなければならない。

 小国が中立国を志せば、大国の間を懸命に立ち回って凌ぐしか無く、打つ手は限られている。闇夜の中で無闇に歩けば危険だ。歩くには灯りが必要、その灯りたる情報の収集こそがバタビアの目下の命題でありロイテルの任務だった。


「何とかアルビオンとガリアの内情を知る手がかりが無いかな」


 だが、情報収集の手は限られる。相手国に問い合わせても表向きの話しのみしか話さないだろう。

 かといって非合法な情報収集はバレたときに中立性を損なう。現時点でも多数のスパイを両国に送り込んでいるが大っぴらな活動が出来ず、得られる情報は少ない。

 危険を冒してでもやらせるか、ロイテルは悩んでいた。


「失礼しますロイテル海尉」


 その時、自分の従兵がやって来た。


「どうした?」


 だが従兵は酷く怯えていた。そのためロイテルは落ち着かせるように務めて優しい声で尋ねた。


「はい、海尉に面会したいと……アルビオンの士官服を着たエルフが」


「直ぐに会おう」


 そう言ってロイテルは自分の席を立った。




「お久しぶりですロイテル海尉」


「久しぶりだね。昇進おめでとう」


 そう言ってロイテルは本部玄関にいたカイル・クロフォードを迎えた。

 海賊討伐の時、面識を持っていたし時々手紙のやりとりをしている。彼が昇進したことはアルビオンの駐在武官や新聞から知っていた。


「ありがとうございます」


「ここでは何だ。中に入ってくれ」


 周りの同僚の目、エルフが居るだけで注目を集めてしまう。なのでロイテルは目立たないように応接室に案内した。

 それに極秘の情報を得られるかもしれず、不用意な漏洩は避けたかった。


「で、どうしたんだい?」


「いえ、今回はポート・インペリアル予備艦隊の任務で訪れました」


 そう言ってカイルは用件を話したがロイテルは疑問符を浮かべた。


「どうして予備艦隊がバタビアに来るんだい?」


 予備艦隊の任務はロイテルも解っている。予備艦を保管し有事に現役に戻す艦隊だ。

 艦を独自に動かす任務など無いハズだ。


「実は本国艦隊へ配備する艦の物資が用意できず緊急に調達する必要が出てきまして」


「足りないのですか?」


「備蓄分が少なくなったので」


 先の戦争から十年以上経ち、戦雲が遠のいたため各国海軍は軍縮を行っている。特に保管が大変で無駄になりやすい備蓄物資は艦船のような華やかさが無いため削られやすい。

 出師準備で物資が足りなくなることは充分に考えられた。

 だからバタビアに購入に来た。筋は通っている。


「こちらに司令長官からの要望書も持参してきました」


 そう言ってカイルはロイテルに書簡を渡す。

 アルビオン海軍本部第一海軍卿の連名で要請されている。本物だとロイテルは確信した。

 そしてアルビオンが本気で戦争を覚悟していることも察した。


「ですが、我が国が永世中立である事を理解していらっしゃいますよね。条約にはアルビオンも署名しています」


 エウロパ条約によりバタビアは永世中立、何処の国家も与せず自衛を除き自らは戦争に加わらないことを表明している。

 片方に肩入れすることは厳禁だ。それ故、ロイテルも頷く訳にはいかなかった。


「はい。ですが戦時禁制品ではありません。精々、小麦などの食料品や日常品です。それにまだ宣戦布告は行われておりません。戦時では無いので普通の商取引と考えて下さい。しかし、バタビアの立場を考えて事前に通告と相談を行っている訳です。何しろ量が多いので取引先を見つけなくてはいけません」


 戦争において大砲や小銃、火薬などの物品は戦時禁制品として交戦国との取引は禁止されている。だがそれは戦争状態にある時だけで平時の今は問題無い。

 それに食料などの日用品の取引は戦時であっても許されている。


「なるほど私たちに断りを入れると共に購入先を紹介して欲しいと」


「そうです」


 食えない人間いやエルフだとロイテルは思った。言っていることは至極真っ当、寧ろ礼節を弁えている。だが、裏がありそうで怖い。


「しかも時間がありません。出来れば四月七日までに納品して貰いたいのですが」


「七日?」


 今日は三月三一日、商品を積み込んでアルビオンに運ぶには時間がかかる。そのことを考えると期限があまりにも短すぎるように思えた。


「それは時間的に無理じゃないか」


「全量という訳ではありません。最低限の量、これだけは七日までに欲しいのです。残りはそれ以降でも問題ありません」


「一寸拝見」


 リストを見ると確かに本国艦隊を賄える量だ。しかし予備も考えると充分とは言えない。早急に最低限の物資が欲しいようだ。


「解りました。これだけの物資を用意できるのはヤン・カンパニーだけです。知り合いがいるので紹介しましょう」


 ヤン・カンパニーはバタビアの貿易公社のことで貿易を促進するためにヤン・クーンというバタビア商人が作り上げた。この会社は最初の有限責任株式会社――株主は株を購入する資金だけだしそこから出る利益を得る、損害が出たときは株の購入代金を失うのみで追加の補填費用を出さずに済む会社と言われており、非常に優れた業績を残し他国の貿易公社の手本となった。

 そのため、ヤンに敬意を払い彼の名前を採ってその国の読み方で自国の貿易公社の愛称としている。

 ちなみにアルビオンはジョン・カンパニーだ。

 いずれにしてもバタビア最大の貿易会社であり、カイルが求めた量を得ることが出来るだろう。


「ありがとうございます」


 カイルは深々と頭を下げて礼を言うと、付け加えた。


「それとヤン・カンパニー以外とも交渉する許可を貰えませんか? 万が一必要量が手に入らなかった場合、他の会社からも購入したいので」


「構わないよ」


 ロイテルは感謝と謝罪を込めてヤン・カンパニーの知り合いを紹介し、他の会社からの購入も許すことにした。

 何よりアルビオンに恩を売っておく事が出来るし、ガリア向けの取引の切っ掛けにもなりそうだからだ。

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