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邂逅

「ニーコ、クニーさんをお願い!」


「ぴ!」


 暴風が向きを変え、クニーさんを玉座の近くへ運ぶ。そこに置かれた箱の中に僕らが求める魔導具『祝福されし呪針(パドジナミア)』は封印されている。


 作戦の骨子はニーズヘッグの時と同じだ。封印をクニーさんが解いている間、僕らが敵を足止めし、目的のものを手に入れたら即離脱する。一回こっきり、時間との戦いだ。


「クニーさん、どうですか!?」


「物理的にも魔術的にも堅い封印が施されてる。解除できなくはないけど少し時間がかかるよ」


「分かった! スズ、ニーコ、その時間を稼ぐよ! 【教練の賜物】!」


「【疾風怒濤】!」


「ぴぇぇ!!」


 リンドヴルムは超大型竜ニーズヘッグと違い、トカゲのような姿をした体長数メートル程度の中型竜だ。その恐ろしさは単体の強さでなく圧倒的なまでの数にある。ニーコの風に吹き飛ばされ、スズの刃に斬り伏せられながら、それでも壁の向こうから床の下から天井の隙間から石像の影から柱の上から無限に湧き出してきて終わりが見えない。


「クラトス殿! 伝承にあった以上の数です!」


「単体だって決して弱くないのに……!」


 これじゃ長時間は抑えきれない。

 一時撤退しようにも大扉は無数の竜たちに埋め尽くされている。ドア前への奇襲がこれを狙っていたのだとすれば、知能も相当に高く統率がとれているということだ。これまで戦ってきた魔物とは何もかもが明らかに違う。


「こないで! こーなーいーでーー!!」


「ニーコ落ち着いて! 上から来る奴らを風で下に叩きつけるんだ!」


 高い天井を活かしてニーコも飛び回っているが、降り注ぐリンドヴルムの爪は何度も緑色の翼を掠めている。下に吹き付ける風を起こしたことで天井からの竜と床上の竜をぶつけて倒せるようにはなったけど、莫大な数を前には焼け石に水だ。


 僕らの後ろではクニーさんが懸命に解錠しようとしてるようだけど、まだ箱は開いていない。あの箱さえ開けば、中身は人間に様々な力を付与できる伝説の魔導具『祝福されし呪針(パドジナミア)』。力で押し切って扉まで行ける希望がある。それまで踏ん張れるかが勝負の境目だ。


 でも、状況は厳しいと言わざるを得ないらしい。


「ぐっ」


「スズ!」


「申し訳ありません! 力で押されるととても……!」


「無理せず少しずつ後退して! 囲まれちゃダメだ!」


 じりじりと、しかし確実に前線は迫ってきている。傷だらけになりながら戦ってくれているスズとニーコの体力だって限界がある。どうする。


「クニーさん、封印は!?」


「話しかけないでくれ! でもあと一分足らずで解ける!」


 珍しく声を荒げたクニーさんが提示した時間は一分。たぶん驚異的な早さなんだろうけどこの状況では長すぎる。スズとニーコに頑張ってもらっても、たぶん少しだけ間に合わない。

 何か別の手を打たなくては。でも一体僕に何ができる。


「クラトス殿!」


「トッシーさん!」


 ふたりが指示を待っている。何が、何ができる。どうすれば勝てる。みんなが生きて帰れる。

 クニーさんに一秒でも時間を与えるために、僕にできることは。


「ニーコ! 僕を扉近くへ飛ばして!」


「ぴぇ!?」


「クラトス殿、何を!?」


 自ら囮になり、ブラックボアたちを誘導したのと同じ要領でリンドヴルムをクニーさんから引き離す。それが僕にできる唯一の時間稼ぎだ。

 もともと差し出すつもりで持ってきた命、ここで使わないでどうする。そう自分を奮い立たせて、僕はニーコに再度叫ぶ。


「ニーコ、早く!」


「で、でも……」


「やるんだ!」


「ぴ、ぴぇぇぇ!!」


 僕の身体が宙に舞う。放物線を描き、向かうは大扉の前。


「【猛獣調教】を以って命ずる! (えもの)はこっちだ、向かってこい!!」


 リンドヴルムは完全なる獣ではないけど、そも竜というのは鳥や蛇、その他あらゆる生物の要素が組み合わさった神秘の生物。言うまでもなく向かってくるところに、職能(スキル)で少しくらいは上乗せできるだろう。


「クラトス殿!」


 スズの声が遠のく。床が、その上に重なるように群れる竜の群れが、ゆっくりと僕に近づいてくる。


 この隙にクニーさんが封印を解いてくれるはずだ。そうすれば、あとは三人でこの包囲を突破して地上まで帰ってくれるだろう。

 そう覚悟を決めて飛んではきたけど、いざ死に直面してみると思った以上に怖い。思わずギュッと目を閉じて、僕は吸い込まれるように落下した。


「おっと」


「……え?」


 噛みつかれ食い散らされる感覚の代わりに、何か柔らかいものに抱きとめられた。

 恐る恐る目を開けると、周りには大扉だったであろう破片と、ピクピクと痙攣する無数の竜。そして。


「クラトスさん、なんで飛んできたんスか……?」


「レオ!?」


 大扉を破って突入してきたレオにちょうど受け止められていた。こんな幸運があっていいのか。

 女神の導きとしか思えない奇跡を喜びかけて、しかし僕の背筋が凍りついた。レオが、『聖騎士』(パラディン)がここにいるということは。


「おや『聖騎士』(パラディン)、どうしましたか?」


「勇者、ジーク……!!」


 この顔は忘れもしない。豪奢な銀の鎧に身を包んだ、勇者ジークがそこに立っていた。

パレードを除けば、勇者ジークと獣使いクラトスが顔を合わせるのはこれが初めてになります。


書いてから思いましたが、自分より小さい女の子にお姫様抱っこされながら「勇者、ジーク……!」とか言っちゃう主人公ってどうなんですかね。

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