下層へ
諸事情でネットに入れずにいました。更新が滞り申し訳ありません。
「ぴぇぇ、でっかいでっかいヘビがいる……」
「スズ、あれが?」
「第七十二層を守る守護獣、ですね」
「討伐されてなかったんだ……」
公称の最深部、第七十二層。そこは先日の腐竜がいた第三層を思い出させる、でもその十倍以上も広く荘厳な大広間だった。
前回の反省を生かして階段通路からこっそり中を覗き込むと、全身を黒い鱗で覆われた蛇型の竜が蠢いている様子が見て取れた。おそらく、いやどう考えたって僕らが正攻法で敵う相手じゃない。
「それにしてもまた竜かい? ここの余波でできたダンジョンのボスも腐竜だったけど、魔王の趣味なのかな」
「死者を運ぶ黒き竜、ニーズヘッグです。おそらく竜と、あと死の概念を司った魔王だったのでしょう」
「神話級の魔物を定期的に出現させるなんて、どれだけの力を持ってたんだろう……」
多くの城塞型ダンジョンは、最深部を含む数カ所に守護獣と呼ばれる強力な魔物が設置されている。『暁光の迷宮』の場合は二十四層ごとに守護獣がいて定期的に再出現を繰り返しており、その間隔が明らかになっているためすぐに討伐される……はずだったのに。
「ヤマトのギルドによれば、あの守護獣が討伐されたのが一ヶ月前、再出現したのは一週間前です。そしてその翌日、六日前には高レベル冒険者のパーティが討伐に名乗りを上げたはずなのですが……」
「もしかして、そのパーティが倒した後にまた復活した?」
「いやー、そのパーティが逆にやられたのかもよ」
「再度復活するには早すぎますし、例え冒険者を返り討ちにしていたとしても無傷は不自然です。何かしらの理由で、討伐隊がまだ来ていないのでしょう」
入口からここまで、二十レベルに至らない僕らでも二日程度の道のりだった。熟練パーティが六日も手こずるとは到底思えない。
となればそれを遅らせた「何かしらの理由」に、勇者ジークが関わっているだろうことは容易に想像できる。やはり彼らはここに向かっているのだ。
「まあその辺の裏事情はさておいて、現実としてあの黒蛇さんは目の前にいるわけだ。どうするリーダー」
クニーさんが尋ねてくるけど、選択は決まっている。
「僕らの目的は第九十六層にある『祝福されし呪針』であって、魔物狩りじゃない。スズ、あのニーズヘッグを倒さないと第七十三層へは行けないの?」
「いえ、仕掛けを起動さえできれば下層への階段は開きます。階段通路に入ってしまえばニーズヘッグも追っては来ないでしょうから、戦闘は避けるのが賢明かと」
「でも、だよキツネさん。それをさせないための守護獣だろう? のんべんだらりと作業させてもらえるとは思えないけど」
クニーさんの言う通り、おそらく階段通路を出た瞬間に猛烈な攻撃が飛んでくるだろう。後衛ばかりの僕らのパーティでそれをしのぎ続けることはできないと思った方がいい。
となると、問題は仕掛けの起動にどれくらい時間がかかるかという点だ。
「仕掛けは壁際に並ぶ石像に施されています。全三十三体の石像のうち、定められた三体に私が触れることで、仕掛けが起動し階段が現れる仕組みです」
そう言って指差す三体は外周をほぼ等間隔に囲んでいる。全て触れるにはこの広間を一周する必要があると、そういうことになる。誰が作ったか知らないけど、なんて面倒なことを。
「それはキツネさんじゃないとダメなのかい? 速さで言えばトリちゃんの方が有利だろう?」
「残念ながら、クゼハラ家を含むいくつかの家系の者のみを認識する術機巧となっています。クニー殿なら職人としての技能で解除することも不可能ではないかもしれませんが……」
「触れるだけで、とまではいかないだろうね。そこはキツネさんに任せるしかないか」
勇者をはじめ、その信頼できる仲間のみを通すための鍵。スズがこの旅に同行すると強情に言い張った理由はこれか。
ここまでを要約すると、スズがこの大広間の外周を一周するまで、残り三人でニーズヘッグを引きつけないといけないということになる。正面から挑めば全員消し炭にされるような話だ。
「……仕方ない、九十六層のために考えてきた作戦をちょっと工夫して対応しよう。ニーコ、昨日教えたことは覚えてる?」
「えっと……。お魚は火の遠くで焼いたほうがおいしい!」
「晩ごはんの方じゃなくてね」
短く作戦確認の時間をとって、僕らは一斉に第七十二層、ニーズヘッグの待つ大広間へと躍り出た。
投稿予約が今日になっているのに気づかず、下書きが投稿されてしまいました。こちらは再投稿になります。
重ね重ね申し訳ありません。




