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名もなきダンジョン攻略戦-8

「【教練の賜物】を、ボクにかけてくれ」


 技術者であるクニーさんにとって、それが苦渋の決断だということは僕にも理解できる。


 全ての道具には、その用途や使用者に合わせた強度というものがある。定規を剣代わりに使えばへし折れるし、人間用の剣を巨人が振れば粉々になってしまうだろう。

 いや、剣の場合はまだいい。力の勝る者が使うなら、使い手の方が剣に合わせて力を調節すればいいのだから。それが機械となるとそうもいかない。


「ボクの作った術機巧(パターンド)は全て、今のボクの力量に合わせて強度を決めてある。だからもしそこに強化が入れば、大きすぎる力に耐えきれず破損してしまうだろう。本攻略までには作り直すから、それまで【教練の賜物】は使わないでもらえないか」


 それが、クニーさんが僕と冒険に出るにあたっての決まりごとだった。その縛りを補って余りある活躍をクニーさんはしてくれたけど、作り直しの時間はまだとれていない。今【教練の賜物】を使えば、クニーさんの術機巧(パターンド)は全て破壊する。


「いいかい、五発だ」


「五発?」


「それが強化された状態で撃てる限界の弾数だ。もし五発を撃ちきっても勝負が決まっていなかったら、その時はキツネさんを連れて逃げてくれ。階段通路に飛び込めば時間は稼げるだろう」


 それはクニーさんを囮にして僅かな命をつなぐ選択肢だ。あの魔物を倒せる可能性があるのは彼女ひとりである現状、それしか手がないのは僕だって分かっている。

 でも、リーダーがメンバーを置いて逃げるわけにはいかない。全ては焦ってダンジョンに挑み、退路を断たれた僕の責任なのだから。


「……分かった。でも、僕も最後の一発までクニーさんの隣で強化をかけ続ける。距離が近いほど効果も強いんだ」


「おっと、言ってくれるね」


「ニーコ、スズをお願い。僕が逃げろって言ったらスズを連れて階段通路の上まで飛ぶんだ。歌でも風でも、なんでも試してどうにか地上まで出て欲しい」


「ぴぇ、トッシーさんは?」


「僕はクニーさんといっしょに後から行くから」


「ぴぇ……」


 まだ何か言おうとするニーコの頭を撫でてあげると、泣きそうな顔で黙り込んだ。でもこの言葉に嘘はない。一か八かの戦いには違いないけど、こっちだって負けるつもりは毛頭ない。


「さてリーダー、名残惜しいが時間もない。そろそろ行こう」


「慌てて突っ込んで散発的に撃たれたら逆に危険だ。一般論には反するけど、相手の一斉射を凌いで突っ込む作戦で行こう」


 盾が無い以上、選択肢は避けるか撃ち落とすかだ。でもスズが避けきれないような飛び道具をかわしきる身体能力なんて僕らには無い。相手の一斉射をこちらの一斉射で撃ち落とし、一気に勝負を仕掛けるのが最善策だ。


「合点承知。トリちゃん、追い風を頼めるかな?」


「う、うん」


 しばしの沈黙。腐竜も限界が近いのか、一斉射に賭けているのかもしれない。問題は、どちらの残弾が多いかだ。


「……【教練の賜物】!」


「ッ!」


 骨の動き出しを見切り、散弾で迎撃。爆音とともにより多く、より速く飛んだ鉛の小片が飛来する骨と爪を粉砕し叩き落としてゆく。一発目。


「突貫!!」


「はいよ」


 生まれた空白に身を躍らせ距離を詰める。それを待ち構えた敵の第二射、第三射を、再び散弾で相殺。二発目、三発目。

 だが敵も小さな骨では効果が無いと気づいたか。地面に転がっていた背骨と肋骨の塊が糸を引いて浮き上がった。


「大きいのが来るよ」


「前進は止められない! 正面突破だ!」


「最高だね。【概念付与】を高質量弾式へ」


 質量を上積みされた弾丸が骨の塊に直撃し、砕けはしないもののわずかに軌道がそれる。その隙間をくぐり抜ければ、敵の本体、人間を丸呑みできそうな巨大な頭はもう目前。四発目。


「とどめだ! 【教練の賜物】!!」


「了解」


 広間に轟くひときわ強烈な爆音。

 これで、五発目。


「ダメか……ッ!」


 周囲に目をやる。骨の動きが止まっていない。倒しきれなかった。


「ニーコ! 逃げ」


「まだ早いよ」


 出しかけた合図を飲み込んで視線を前へ向けると、クニーさんが腐竜の頭に肉薄していた。右手には、煙を上げながらも機能を失っていない銃器ゴットハルト。

 そして左手の袖口にのぞく、銀色の鉄杭。


「言ったろう? 鋼も貫く機材を持ってきてある、って」 


「あ……!」


 さっきの爆音は、鉄杭が頭蓋を貫通する音だった。そう理解したと同時、クニーさんがその穴にゴットハルトの銃口を押し込んだ。


「【概念付与】を散弾式へ。ミンチになりなよ」


 発射。

 くぐもった爆音が響き、腐竜の目玉が飛び出す。口から異臭の液体を吐き出して痙攣した巨大な頭部は、数秒もたたず沈黙した。もう、周囲の骨も爪も動く気配はない。

 それを確かめると、クニーさんはいつもどおりの飄々とした様子で腐竜の頭から飛び降りた。


「いやあ、今回ばかりは死ぬかと思ったよ」


「奇遇だね、僕もだよ」


 笑えない冗談を交わして、僕らは手のひらを打ち合わせた。

体調崩して寝てたらこんな時間


クニーさんの【概念付与】で付与できる概念にはいくつか種類がありますが、たぶん【質量増加】が一番チートくさい。増加幅が小さいから存在感は薄めだけど。

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