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獣姫と歩む英雄譚 ~調教スキルで勇者討伐~  作者: 黄波戸井ショウリ
第1章 獣使い、捨て猫幼女をひろう
8/100

虎の威を狩る兎

 相手とスズの堪忍袋が、同時に中身をぶちまけた。

 もう売り言葉に買い言葉で、男とスズの口論がやむ気配はない。


「俺は『剣闘士』、弟は『重戦士』だ。こんな上等な職業(ジョブ)の持ち主、この町にゃ他にいねえ! そんな俺たちが面倒見てやろうってのを断るたァ、さぞかし立派な職業(ジョブ)の持ち主なんだろ? ええ?」


「ぐ……」


『剣闘士』、『重戦士』はともに三級の戦士系職業(ジョブ)だ。魔法がまったく使えない代わりに、剣や斧を扱う職能(スキル)が充実していることが多い。近接戦闘だけなら二級にも劣らない強力な職業(ジョブ)とされている。


 少なくとも、第四級(スカウト)のスズと第五級(ビーストテイマー)の僕らに歯が立つ相手じゃない。


「い、いえ、職業(ジョブ)で全てが決まるわけではありません! 知恵と機転、そして不屈の精神こそ強さの鍵です!」


 それでも気圧されまいと、騎士の家系らしく言い返したスズを男たちはまた笑う。


「聞いたか兄弟、なかなか勇ましいことを言ってるぞ。親の顔が見てみたいもんだねぇ」


「頭がおかしくなるくらい騎士物語が好きな親父なんだろうぜ、兄弟。よしいいだろう、そこまで言うのならこうしよう」


 兄を名乗った方が、壁際に建てられた掲示板へ向かう。木製の簡素な板には、ギルドに持ち込まれた多種多様な依頼が並んでいる。

 その中のひとつ、『推奨:第三級Lv.5以上』と書かれた石版を持って、男は戻ってきた。


「これを達成できたら、お前らに俺らの指導は不要ってことを認めてやろう」


「『三十以上のソルジャーアントを引き連れたアントクイーンが森に出没。全て討伐されたし』……?」


 読み上げたスズの頬を、冷や汗が伝った。


 ソルジャーアントと、アントクイーン。名前の通りアリ型の魔物だ。

 女王の周りを兵隊が守るように隊列を組んで行動するのが特徴。肉を好み、人間を襲うことも多い危険な存在として知られている。


手強い相手だ。もちろん『獣使い』(ビーストテイマー)職能(スキル)で手懐けることもできない。なぜなら虫だから。


「どうなんだ。やるのか、やらないのか」


「く、クラトス殿……」


 それほどの敵だ。さすがに、勢いでやるとは言えないんだろう。スズが申し訳なさそうにこちらを見てくる。

 でも、ここまで来てしまったらもう後には退けない。


「分かりました。もしこれを達成できたら、二度と僕らに「そこまで」」


 男たちの背筋が伸びた。

 僕の背筋も伸びた。

 スズはもともと伸びていた。


 僕らの背後、つまり男たちの正面から声がした。氷水のように冷たく、そして澄んだ女性の声だった。


「あ、アリシアさん……?」


「今日は出張だったんじゃ……?」


「よく知っているな、その通りだ。では、こちらからも質問だ。私の頭に生えているものがなんだか分かるか」


 尋常でない男たちの様子に、振り返って良いものか一瞬ためらう。しかし神聖騎士を目指す男が、女の人の声に怖気づいてよかろうはずもない。

 ゆっくりと振り向くと、そこには三十歳前後とみえる金髪の女性が立っていた。碧い瞳が鮮やかな美人だが、僕の目線はそれより上を向く。


「兎の耳、です……」


「そうだ。だから登り坂を往くがごとく仕事を済ませ、脱兎のごとく帰ってきたのだ」


 得意分野で実力を発揮することを、兎の登り坂と言うんだっけ。

 あまり聞かない慣用句で男たちを威圧する女性の頭からは、茶色い兎の耳が垂れていた。

新キャラのアリシアさん。

雰囲気としては、虎を噛み殺すロップイヤーを想像いただければだいたい合っているかと思います。

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