意地と意地
【再掲】
毎日更新を課題としております。文字数の少ない話が増えるかもしれませんが、何卒ご容赦ください。
「勇者ジークは、自分の名声のために周りの全てを利用してる。国王陛下も、仲間も、人命さえも。そんなやつが人に病気を植え付けるような魔導具を手に入れたら、今度こそ取り返しのつかないことになりかねないんだ」
「クラトス殿を疑うわけではありませんが、勇者様がそのような方とはやはり信じられません。確かな情報なのですか?」
「フィナの言ってたことだ。間違いない」
「フィナ様が……」
『賢者』の名前を出したのが効いたか、スズも黙り込む。説き伏せるようになってしまって申し訳ないけど、もとより何事もなく出ていけるとは思っていない。
それでも話したのは、リリィがいるからだ。
「だから僕は行かないといけないけど、スズはここに残ってリリィと暮らしてほしいんだ」
「薄々そう言われるのではと思っていました。お断りします」
「競争の相手は、自分のためになら人体実験も平気でさせるような男だ。どう考えたって良家のお嬢様を巻き込んでいい戦いじゃない。それにもし僕らが揃ってどうかなったりしたら、リリィはまた行き場を失うんだよ?」
「しかし!」
「……前に、アリシアさんがいってた」
黙って聞いていたリリィが、口を挟んだ。
「『冒険者の中には、絶対に譲れないものを持っている者がたまにいる。彼らはそれのためならどこにでも行くし何でもするし、それは誰にも止められない』。お兄ちゃんとお姉ちゃんは、そういう冒険者だって」
「アリシアさんがそんなことを?」
「もしそうなったら帰ってくるまでウチに来い、っていわれた」
暗唱する言葉はたどたどしいけれど、伸びた背筋で、しっかりと僕とスズの目を見つめるリリィは、少なくともその本質を掴んでいるはずだ。いつかこういう日が来ることをアリシアさんもリリィも予見していたのか。
「クラトス殿、もしフィナ様の言うことが全て本当なら、表沙汰にはできずともこれは世界の一大事。アリシア殿のお言葉に甘えるべきです」
「それはそうかもしれないけど……。でも、やっぱりスズは連れていけない」
スズの実家は名家クゼハラ家。そこの娘を巻き込んで失敗すれば、それこそどこまで影響が広がるか分からない。とてもじゃないけどいち冒険者に背負える大きさの責任じゃなくなってしまう。
「まだそのようなことを言うのですか! 失礼ながら、貴方は探すべき物の場所も名前すらも知らない。ここでひとり旅立っても、勇者との競争に参加することすらできず終わるのが関の山です!」
気迫の篭った正論に、思わずたじろいだ。
勇者たちの行程は一部公開されているが、混乱を避けるためという理由で終着点であるダンジョンの名前と場所までは明かされていない。勇者たちに先んじてそこを攻略するためには、まずその場所を知るところから始めなくてはならないのが僕の現状だ。
「で、でも、それはスズが一緒に来ても同じじゃないか」
「いいえ、違います。私は件の魔導具の場所を心得ています」
「なっ」
「クゼハラ家は古くからの騎士と戦士の家。これまでに攻略したダンジョンは数知れず、そこで得た情報を綴った書物には門外不出の秘伝がいくつも記されています。もちろん魔導具についても、です」
そこで、該当する魔導具を見たのだろう。図らずもクゼハラ家という十分に信頼しうる情報源がすぐ近くにあったことは幸いだけど、問題はここからだ。
「それを教えては……くれないんだよね?」
「私を同行させていただけるのであれば、ご案内しましょう」
「それは……」
はっきり言って、今から情報を集め、装備を集め、戦力を集めていたら勇者に勝てるわけがない。真剣な目で訴えるスズの情報は、スタートラインに立つために最低限必要とも言える希望だ。
唸る僕からは目を離さないまま、スズはイスにかけ直して姿勢を正した。
「クラトス殿、さらにクゼハラ家の娘という視点から、ひとつ見解を述べさせていただきます」
「……うん」
まだ、何か切り札があるのか。
「クラトス殿は、ジークが手に入れた魔導具を悪用することを恐れている様子。しかしその程度の見立てでは甘いと言わざるを得ません」
「どういうこと?」
「獣化症候群を治療可能な魔導具。それが彼の手に渡った時点で、この国の全ては彼の手中に収まったも同然と私は考えています」
座りっぱなしの説明回になってしまいました。
次回、人間はまだ座りっぱなしですが話は少し動きます。




