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定まった目標

「光の、柱?」


 見上げた先では、白く眩い光が雲さえ貫いて天へと立ち上っていた。


「まさか、魔物の攻撃でしょうか?」


「いえ、あれはジークの職能(スキル)です。広範囲を薙ぎ払う技だから大軍に対しては確かに有効だけど、まさかこんな町の近くで使うなんて……!」


「あんなのを、人間が?」


 勇者ジークの職能(スキル)は公表されていないけど、英雄譚に語られる過去の勇者たちを考えれば数だけでも十は軽く超えているだろう。第一級のレオですら七つだった職能(スキル)を、例えば大英雄ヤマト・クゼハラは十八個持っていたとも伝わっている。

 物語でしか読んだことのないそんな『勇者』の力は、まさしく超越者と呼ぶに相応しいものだった。


「しかし、勇者ジーク様は現れてまだ二週間程度のはず。それであれほどの力を持つなどありうるのですか?」


「たしかに、いくらなんでもあれは……」


「言ったでしょ。彼は自分の伝説を派手に演出したいのよ」


「……そういうことか」


 雲が吹き飛ばされた青空を見上げながらそう言ったフィナの顔は苦々しい。

 きっと、(ジーク)は世間に姿を見せるずっと前から『勇者』を受託していたんだ。人目を忍んで段取りを整え、レベルを上げて、準備を万端にして表舞台へ躍り出たのだろう。


 そう考えると、おそらくこの魔物騒動も勇者の仕込みだ。そしてそんなことをする人間が、今この町の近くで戦っている。自分の伝説にドロを塗らないためにも住人に被害を出すことはないだろうけど、はっきり言って不安は尽きない。


「フィナ様、詳しい事情は分かりませんが、急がれた方がよいのでは」


「そうみたいね……。じゃあクラトス、ここはお願い。スズさんも、これが落ち着いたらお茶でもご一緒しましょう」


「フィナも、気をつけて」


「ご武運を」


「ありがとう」


 感謝の言葉を残して、フィナの姿が消えた。目で追うのもやっとの速度でフィナが西へ向かうのを見送り、僕とスズは住民の避難に集中する。根無し草の冒険者にとって町は家そのものであり、それを守らねば死ぬのは自分だと、昔読んだ本に書いてあったことをふと思い出した。


 そこから先は早かった。

 人づてに聞いたところによると、勇者とその仲間たちは圧倒的な力で百を超える魔物を殲滅し、住人にはひとりの犠牲者も出なかったという。おかげでその晩の歓迎会がひときわ豪勢なものになったのは言うまでもない。

 僕はとても楽しむ気にはなれず、宿に戻って呆と夜空を見上げて考え込んでいたけれど。


 結局その後、勇者一行が町を去るまで僕にフィナと会うチャンスは訪れなかった。舗装され直した街道を、勇者たちを載せた馬車が南へ去っていくのを町の人に混ざって見送りながら、僕は胸の中で誓う。


 必ず、もう一度フィナのもとへ行く。今度は待つんじゃなく、僕の足で彼女のもとへ。馬車が坂道の向こうへ消える直前にフィナがこちらを振り返ったように思えたのは、きっと気のせいじゃないのだから。






「……お話は分かりました」


 勇者がリンバスを去って、二日後。夜になるのを待ち、僕はスズとリリィの寝泊まりしている部屋を訪れた。

 女の子ふたりの部屋にはなるべく立ち入らないようにしていたから驚かれたけど、ふたりは快く迎え入れてくれた。高級ではなくとも整理整頓の行き届いた部屋で小さなテーブルを囲み、何気ない話をしたあとで、僕は自分の考えをふたりに打ち明けた。


「突然こんな話をしてごめん。でも、黙って行くわけにはいかないと思ったんだ」


「いえ、お話ししていただけて光栄です。信頼していただけている証ですから」


「そう言ってもらえるとありがたいよ」


 あれから落ち着いて情報を整理してみて、僕はひとつの確信に至っていた。

 先日崩落した、リンバス城址地下にあった実験室。あそこもまた、勇者ジークが作らせたものだ。そしてフィナから届いた乱れた筆跡の手紙は、僕に危機を知らせるためのものだったに違いない、と。 


 自分も追い詰められながら、フィナは僕の身を案じてくれていたんだ。そんな彼女に、僕が手を差し伸べないわけにはいかない。


「クラトスお兄ちゃん、遠くへ行くの?」


「たぶん。どこに向かえばいいのか、場所はこれから調べなきゃいけないんだけどね」


「しかしクラトス殿、それはあまりに無謀です。あえて率直に言いますが、貴方は『獣使い』(ビーストテイマー)にすぎないのですよ?」


 心配そうに僕の手を握ってくれるスズの言うことはもっともだ。でも、だからって黙ってここにいるなんて僕にはできない。


「ありがとうスズ。でも、もう決めたんだ。僕は、勇者たちよりも先にダンジョンを攻略し、獣化症候群の治療法を手に入れる。必ずだ」

なぜそんな結論になったのかは次回。


アニメの演出などで、太いビームが空を貫いて雲を吹き飛ばすというのがあります。本作でもそうして空が晴れ渡りましたが、あれ、実際にやったら逆に太い縦長の雲ができるはずなんですよね。ビームの熱で急激に空気が暖められ、そこがまた冷やされるわけですから。

できれば柳田理科雄先生に計算していただきたいところ。

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