そして、全てが動き出す(前)
「あれって術機巧?」
「ええ、王都で一度見たことがあります。音声と映像を遠くまで届けることができるものです」
「おおきい」
「うん、リリィと僕とスズの背丈を合わせたより大きそうだ」
「あの大きさと精巧さだけあって価格も並大抵でないと聞きます。ものの本によれば、あれ一台で王都に屋敷が建つとか」
「屋敷って……。それを国中の町に置いたってこと?」
「それだけ重要な発表ということでしょう」
クニーさんに黒曜石を預けた翌日。快晴の空が広がる中、リンバスの町は騒然としていた。いや、たぶんだけど国中が浮足立っていた。老若男女問わず皆が広場に集まり、口々に噂話をしながら兵士が大型の術機巧を据え付ける様を見物している。
「このタイミングで、国民全員に向けて国からの重大発表。ってことは、やっぱりアレかな」
アレというだけで周囲の人たちが頷く。他の町はどうか知らないけど、ここリンバスでは考えることは皆同じだ。予想が偏りすぎて賭けが成り立たないと泣いている胴元を何人も見かけたくらいだ。
「む、起動しましたね。おそらくもう始まりますよ」
スズがそう言い終わると同時、地上高く据え付けられたぶ厚いガラスが光を放つ。強すぎる白光が収まると、そこには石造りの白い城、本で見たそのままの王城が映し出されていた。
「これが映像を映す術機巧……。こんなことができるんだ」
ギルドでも見かけた文字を映す術機巧に似ているけど、大きさも鮮明さも段違いだ。王都にはこういう高度な術機巧がたくさんあるんだろうかと思うと、そこに住んでいるフィナがまた羨ましくなってくる。
『これより、国王陛下よりのお言葉が下賜される。この放送を聞くことは国民全ての義務であると心得よ』
どこかくぐもったような音声が流れ、直後に地面が揺れるほどのファンファーレ。一糸乱れぬ演奏に迎えられ、赤いローブをまとった初老の男性が現れる。
肖像画でしか見たことが無かった現国王、アルトラトⅡ世陛下がそこにいた。
『我が忠実なる臣下にして、共に繁栄を築く友たる諸君に述べる』
「本で読んだ通りだ……!」
この口上は初代国王が建国時に行った演説を引用したもので、国王が国民に何かを伝えるときは必ずこの言葉で始めると決まっている。いつか読んだ本にそう書いてあったけど、実際に聞いたのは初めてだ。
その後も、決まりどおりに演説が続く。
国の現状。
隣国との友好。
いつか来る脅威への備え。
栄えある未来。
慣例に則った言葉を連ねた国王陛下は一度言葉を切ると、後ろに控えていた女性を隣に招いた。赤いドレスに身を包んだ細身で小柄な女性で、ヴェールを被っていて顔が見えない。
「あれは……リーリエ殿下?」
スズが小さく呟いた。
リーリエ殿下。名前だけは僕も聴いたことがある。
「じゃあ、あれが王女様?」
「ええ、第一王女のリーリエ殿下です。私も直接お姿を見たのは一度きりですが」
あれがリーリエ殿下だとしたら、なぜ顔を隠しているのだろう。典礼や祝祭の折には国民の前に姿を見せてくださる、見目麗しく智に恵まれた才媛と誉れ高い方だったはずなのに。
『これは我が娘である王女リーリエである。王族の娘でありながら先日の謝肉祭では姿を見せず、諸君らを落胆させてしまったことをこの場を借りて謝罪しよう。だが寛容を重んじる我が国民諸君は、この姿を見れば理解してくれるものと私は確信する』
陛下に促され、王女はもう一歩前へ。
少し躊躇うような仕草を見せた後、赤いヴェールを脱いだ。
「……王女殿下もだったんだ」
その頭には、髪と同じ金色の毛に覆われた、獣の耳が生えていた。
前話からの脈絡なく王様が出てきましたが、権力者のすることってだいたい間が悪いしこんなもんだよねっていう。
さて、ヨーロッパにおける王女の役割は国や歴史によって様々ですが、多くの場合は美と才を喧伝するために人前に出ることを求められたようです。そのほうが嫁に出すときの価値が上がるからですかね?
個人的には、DOG DAYSのミルヒ様みたいなアイドル姫とかいたらいいなと。




