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機術工房パンゴ

【再掲】自分への課題として千字ずつでも毎日更新することにしています。なので小刻みな話もありますが、ご理解いただけると幸いです。

「お茶と、ヤギのでよければミルクがあるよ。どっちがいい?」


「じゃあ、僕はお茶で」


「私も同じもので」


 床には剣に鎧に装飾品の類が積み上げられ、壁にはなんだかよく分からない道具がところ狭しと掛けられている。機術工房パンゴの店内は、まるで錬金術士の工房の薬が工具に置き変わっただけといった印象だ。


「ああ、それと真っ赤にはじけたザクロがあるけど食べるかい?」


 真っ赤にはじけた。


「それは、いいかな……」


「そうかい?」


 クニーさんにそう言われると、違うものが真っ赤にはじけるのを想像して背筋が寒くなる。地下で見せた投石にはそう思わせるだけの威力と殺意があった。


「さて、ひと息ついたところでご用向きを伺おうかな。おおかた、そこに転がしてある布包みが……うっわ」


 最後まで言い終えもせず、妙な声を上げて黒曜石の布包みに飛びついたかと思えば、勝手に中身を取り出していじくりまわしている。どうやら顔よりも手に感情が出るタイプらしい。


「【鑑定】ですか」


「ああ、見るだけでおおよその性能なんかが分かる。ギルドにいるとかいう『司祭』(プリスト)と違ってアイテム限定だけど、布や板を貫通して読み取れるのが自慢だ。とまあ、そんなことはどうでもいい」


 ごとり、とテーブルに黒曜石の塊を載せると、クニーさんはすぐさま紙とペンを取り出した。


「『契約書』?」


「こいつをボクに仕事させてくれ。今ここで契約をしてくれるなら料金は普通の半分でいい。さあ、サインを」


 金額を書き込み、ずい、とペンを差し出してきた。なんだろう、怖い。


「いや、ちょっと」


「嫌なのか。くっ、だがこれは……なら半分の半分でどうだい」


 ガリガリと契約書を書き換え、料金を半分にしている。契約書ってそういうことしていいんだっけ。


「いやいや、そんなことじゃ」


「そんな値下げじゃダメだというのかい。うぅ、じゃあ半分の半分の半分、いや、いっそ半分の半分の半分の半分で……!」


 それでも無料と言わないのは職人の意地なのか、先週リリィに買ってあげた飴玉よりも安くなった契約書を手に訴えてくる。得体の知れない連中に地下牢へ閉じ込められても挫けなかった人の泣きそうな顔を、こんな形で見ることになるとは思わなかった。


「あの、そこまでするほどの素材なのですか?」


「……なんだ、知らずに持ってきたのかい?」


 スズに尋ねられて、さらに金額を書き直そうとしていた手が止まる。……もう紙が真っ黒なんだけど、もし止めなかったらどこに書き足すつもりだったんだろう。


「その価値も含めて、聞こうと思って来たんです」


「なんてことだ……。そうと分かっていればもっと上手いこと言いくるめて安く買い叩くことが……」


「スズ、他の店に行こうか」


「冗談に決まっているじゃないか」


 本当だろうか。


「ともあれ、相当に価値のあるものには違いなさそうですな」


「ああ、魔力の充填された黒曜石というだけでも珍しいのに、これにはさらに未知の力が込められている。こんなもの、何代も前の店主が遺した記録でしか見たことがない」


「未知の力……あの『薬剤師』(ファマシスト)が獣の力って呼んでたもののことかな」


「それに近いものの記録があるというのも妙な話ですが……。それはどのような?」


 奴らの言う獣の力が獣化症候群と関係のあるものなら、それはここ数ヶ月で発見されたものということになる。でも実は見出されていなかっただけで、ずっと古くから存在していたのだろうか。


「まだリンバス城址が……いや、今はリンバス城跡か。とにかくあの瓦礫が王の城だった遠い昔の話だ。ボクのご先祖様、つまり当時の店主のところに、奇妙な力の宿った石が持ち込まれた。その名前がまた奇天烈でね」


「名前?」


「『魔王の玉座』。その石はそう呼ばれていたんだ」

ヤギのミルクって飲んだことないんですけど、美味しいんですかね?

そこんとこ以前から気になっていて、どうせならスイスに行って本場のヤギチーズを食べるのが今の密かな目標です。

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