嵐の前の
「……ふー」
草地に腰掛けてひと息つく。昼下がりの穏やかな日差しの下、草を食む羊たちの姿に心が休まるのを感じる。
冒険者と羊飼いの両立も楽じゃないけど、それでもこの子たちを放っておくわけにはいかない。リンバスに来てからこの一ヶ月というもの、アントクイーンの件やレオとの件であまり面倒を見てあげられずにいたし、たまにはしっかり腰を据えて面倒を見てあげようと思いこうして連れて歩いている。
「でも、このままじゃダメだよね」
本当なら羊飼いが昼も夜もいっしょにいてやらないといけない生き物なのだ、羊というのは。『獣使い』の職能を活用すれば多少目を離しても大丈夫だけど、だからって今のように冒険者として出かける度に……というのは褒められたことじゃない。それに今はやるべきこともできてしまった。
もう、腹を決めないといけない頃合いか。
「ん、町が騒がしいな……。予定より早いけど、そろそろ来たのかな?」
立ち上がり、羊たちを率いて町への坂を下ってゆく。
レオと別れてからニ週間ほど経つけど、その間にもたくさんの出来事があった。僕個人の問題で言えば、フィナから久しぶりに手紙が来たり、行方不明事件解決の報酬をどう使おうかスズと夜通し話し合ったり、ほかにもいろいろだ。
でも、世間的にはもっと大きなニュースがあった。
勇者が現れた。
数百年に一度、魔王復活に合わせて女神から任命される光の戦士、勇者。それがついに表舞台に躍り出たという報せはすでに国中の関心事だ。
今日はそんな勇者が旅の途中でリンバスに立ち寄る日。『賢者』として勇者に従っているフィナに、会わせてもらえるかは分からないけどせめて元気な姿だけでも見ようと思いこうして町へ急いでいる。
やがて歓迎の花火が上がると、町から大きな大きな歓声が聞こえた。
羊飼いにまつわる文化にも地域差がありますが、普通は文字通り羊と寝食をともにする仕事です。クラトスのように二足のわらじでやっていこうとすること自体が異常で、かなりしんどい生活だったりします。
ということで新章開始です。
勇者と獣使い、最強と最弱がぶつかるひとつの山場になります。お付き合いいただければ幸いです。




