秘密兵器?
『夷を以って夷を制す』
強大な敵が多くいるなら敵同士で争わせてしまえばよいと、古き知の英雄は言った。
「レオ、合図をしたら大きく下がって!」
「いいけどなるはやでお願いしたいッス……!」
光で敵の眼を眩ましながら、スピードで翻弄するレオ。この短時間で有効な戦術を見出すなんてさすがの戦闘センスだ。
でも、レオの【光の一閃】は、光属性の追撃を付与する職能。光の奔流はあらゆる邪を払うとも言われるけれど、あくまで追撃だ。徒手空拳の彼女に多用させていいものじゃない。
やっぱり時間は限られている。必要な手順を最短で踏むには……。
「ニーコ、まだ風は起こせる?」
「むりむりむり! あんなでっかいのむり!」
「ちがうちがう、グランドガーゴイルじゃなくて、リンゴくらいの重さのものが飛ばせれば十分だから」
「それならできる! ……かな?」
「よ、よろしくね?」
ニーコに段取りを説明する。彼女でも覚えられるよう、極力簡単な動きを指示してゆく。
こんな時スズがいれば心強いけど、薬の効きが深いようでまだ目を覚ましていない。たぶん、地下への入口で罠にかかった時、僕を庇って薬を多く吸い込んでしまったんだと思う。この子はそういう子だ。
なら、今度は僕が彼女を守る番だ。比較的安全そうな壁際にスズを寝かせ、僕は大きく深呼吸した。
「せーので行くよ!」
「うん!」
「せーのぉ!」
かけ声と同時に、僕は左へ、ニーコは右へ。グランドガーゴイルの背後にいる敵『薬剤師』が見える位置まで移動した。
「何か策でも思いついたか? 無駄だ無駄!」
挑発を無視し、大きく息を吸い込む。敵の目をキッと睨んで、僕は口を開いた。
「レオ! 下がって!」
「はい!」
グランドガーゴイルの顔を殴りつけ、後ろ向きに大きく跳躍。すかさず、僕は息を継いだ。
「『炎と煙の精霊よ、畏れ多くも汝が僕が奉る』」
「なっ!?」
敵の目が見開かれる。
「『其が名を尊ぶ我に火の恵みを、其が眷属を虐げし愚者に炎の罰を与えたもう』」
「『獣使い』が高位精霊魔術だと? いや、まさか『精霊使い』だったのか!?」
狼狽する相手を無視し、僕は言葉を紡いでゆく。
女神の手足として世界を統べる精霊たち。彼らは正しく己に跪く者には力を貸してくれる。その、いわば手続きを定形化したのが詠唱であり、様々な英雄譚にも登場する。
僕が唱えているのは、その中でも上位にあたるもののひとつだ。祝詞に意識が集中するにつれ五感が遠ざかり、石像が再びレオに突進する轟音すら耳から消えてゆく。
「『いでよ原初の業火。畏怖を以て語られし二つ名は』」
「く、くそっ! 錬金生成、『石壁』!」
構わず続ける僕に気圧されたか、敵が錬金術の職能で石の壁を打ち立てたと同時、僕の詠唱が完成した。
「『炎舞せし天聖、イフリート』!」
「ひぃ!」
ポンッ。
「は?」
「……やっぱり一口サイズかぁ」
僕の手からサクランボくらいの炎が飛び出し、敵の石壁に届きすらせず空中で消えた。
そう、精霊は誰にでも力を貸してくれる。ただし、その人の魔力に応じて。僕の魔力じゃ全部使ってもこんなものなのだ。稀代の精霊術士と呼ばれた英雄フォートランはこの魔法で城を消し炭にしたというから、英雄という存在の規格外さが分かる。
「は、は、ははは! 苦し紛れにしてもお粗末にすぎるぞ! 焚き火でもしようというのかね!?」
大正解。実際、野宿の時には火を起こすのにたまにお世話になってる魔法だ。初めてスズと野営した時の、壮大な詠唱の末にマツボックリに火をつけた僕を見る彼女の目は未だに忘れない。
でも、予定通りだ。
イフリート=炎の精霊 なイメージって最近の後付らしいですね。元は高位の天使だったりで、炎に限らずいろんな力を使えたとかなんとか。
でもこの世界では炎と煙の精霊です。なぜならかっこいいから。




