表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/100

黄金の名


「スズちゃんにひどいことしないで」




 風向きが、変わった。


「がふっ」


 スズを抱えていた男が後ろに吹き飛ばされ、ドア向こうの壁に背中から叩きつけられた。スズは巻き込まれることなく、風に支えられてふわふわと空中を漂っている。

 こんなことができるのは、ひとりしかいない。僕が入ってきたドアを器用にくぐって飛んできたのは、緑の羽根を持ち、風の加護を受けた有翼人種(ハルピュイア)


「ニーコ! どうしてここに?」


「スズちゃん元気かなって、風で中の音をきいてたの。そしたら、おにーさんの声がきこえたから」


 僕が叫んだ、スズに触るなだとかスズを解放しろだとかの声を風の加護で受け取ったのか。夜の森を高速で飛び回ったことといい、今まさにスズを空中で支えていることといい、凄まじいまでの精度だ。

 威力の方も侮れない。大の男を軽々と壁に叩きつけ、その男は床で痛みに震えている。


「な、なんだ今の衝撃は……うわ!?」


有翼人種(ハルピュイア)か!?」


 轟音に驚いて戻ってきた研究員たちも、ニーコの風に吹き飛ばされてゆく。狭い地下室でなかったら、それこそ空の彼方まで飛ばされていたかもしれない。彼らにとってはある意味幸運だったろう。


「とりあえず……【教練の賜物】!」


 亜人のニーコにどこまで効くかわからないけど、せめてもの後押しに強化職能(スキル)をかける。どうやら多少なりとも効果はあるようで、抵抗を見せていた敵の戦闘要員――金で雇われた冒険者か何かだろう――の身体も浮き上がった。


「ニーコ、スズをこっちに連れてきて」


「うん!」


 スズの身体がまた浮き上がり、こちらへ向けて飛んでくる。ぐったりとした細い身体を受け止めると、うっすらと花の香りがした。


 これで、形勢は完全に逆転した。あとはこのまま敵を制圧し、救援が来るのを待てば僕らの勝ちだ。


「くく……。何かと思えば『獣使い』(ビーストテイマー)と野生の亜人か。五級職業(ジョブ)と野蛮人が、いい気に、なるな……!」


 最初に吹き飛ばした男が、懐からビンをふたつ取り出した。

 なんだか分からないけど、たぶんあれは危険な何かだ。


「ニーコ! あの男が持ってるビンを吹き飛ば……」


「遅いのだ!」


 ビンの一本は、自分に振りかけた。そしてもう一本を、部屋の隅に群れていたネズミたちの方へ投げる。

 ビンが割れてパッと赤い粉が飛び散ると同時、ネズミたちが痙攣を始めた。


『薬剤師(ファマシスト)』の真髄、見せてくれる!」


『薬剤師(ファマシスト)』。薬の扱いに長けた二級職業(ジョブ)だ。

 アイテムに対する【鑑定】を始め、あらゆるモノの薬効を把握し最大限活かすための職能(スキル)を持つ。彼らが調製した薬は通常では考えられないほどの効果を発揮し、いかな病をも治すと言われている。


「さっき『薬剤師』(ファマシスト)がいるとは言っていたけど、あいつ自身のことだったのか」


「ぴぇ!? ネズミがでっかい!」


 ニーコが指差す先では、痙攣していたネズミが元の何倍、大きいものは何十倍まで膨れ上がっていた。爪も牙も歪に変形し、人間の頭ほどある目には狂気の光しか宿っていない。

 試さなくても分かる。もう、僕の【猛獣調教】が効く範疇じゃない。


「獣化症候群の患者を研究した結果、我々は獣の力を抽出することに成功したのだ! さらに抽出の過程で死んだ女たちの激しい怨嗟をも薬に練り込み、獣に投与すればあの通りよ!」


 待て。今、なんと言った。

 今や魔物と化した獣たちを前に、奴はなんと言った。


「死んだ……?」


「おお、五人の尊い犠牲だ。雇い主からは、いくら殺しても尻は拭うと言われているのでな」


「なんてことを……!」


「さあ、食い殺せ!」


 男の指示に従うのは、先ほど身体に振りかけた薬のせいか。男の声に合わせて魔物たちが僕らに突貫してくる。


「こ、こないで!」


「【教練の賜物】!」


 ニーコが突風で押し返すが、人間とは質量も膂力も別次元の相手だ。僕の職能(スキル)で強化しても、多少歩みが遅くなる程度でしかない。


 どうする。このままじゃ、ギルドの救援までもたせることだってできやしない。逃げるにしても、レオとスズを連れてでは逃げ切れるか分かったものじゃない。でも、他に手はない。


「ニーコ、レオ、ここは退こう! レオは僕が肩を貸すから、ニーコはスズを……」


「逃げ、ない……。逃がさ、ない、ッスよ……!」


「レオ?」


 レオが、立ち上がった。まだ朦朧とした様子だが、それでなお怒涛と迫る魔物たちの足を一瞬止めさせた。

 瞳が、赤く燃えている。


「あのクソ野郎を、逃しちゃ、ダメッス……!」


「ダメだ、そんな状態じゃ」


「クラトスさん、さっきの、もう一回……!!」


 さっきの。

 言われて、ハッとした。


「ニーコはもう少しだけ魔物を押しとどめて! 【教練の賜物】!」


 レオの職能(スキル)、【治癒の波動】。自身と仲間の自然治癒力を高め、回復を促進する効果がある。

 本来なら、立ち上がれないほど傷つき、薬に冒された身体を回復させるにはかなりの時間がかかる。でもレオは僕の近くにいた。ニーコのために【教練の賜物】を使い続けていた僕の近くにいた。

 高められた職能(スキル)の効果が今、レオを急速に回復させている。


「あんな野郎から逃げたりしたら、じいちゃんからゲンコツ百発食らっちゃうッスよ……!」


 レオの膝の震えが止まり、乱れていた呼吸が整う。背筋が伸び、瞳の輝きがいっそう強くなる。


「でもレオ、剣が」


 牢獄で没収されたのだろう、『聖騎士』(パラディン)の象徴とも言える両手剣は、レオの腰にはない。


「あれは、村を出る時にじいちゃんがくれたものッス。せっかくもらったしと思って使ってたんスけど」


 レオが、両の拳をぐっと握った。


「あたしの本領は、(コッチ)ッス」


「もうむりーーー!!」


 凶暴な笑みを浮かべたレオの後ろで、ニーコの風が止む。精一杯の力で押し返していた大小の魔物たちが、猛然と襲い掛かってきた。

 レオはそれに慌てもせずゆっくり振り返り、そして。


「【光の一閃】」


 レオの赤い髪が、黄金色に輝いた。

ネズミが数倍から数十倍に大きくなりました。これは体長で言ってますので、つまり体重は三乗して千倍から百万倍です。普通のドブネズミで体長二十センチ、体重三百グラムとかなので、体長数メートル~十数メートル、体重は余裕のトン単位です。

魔物化してなければ自重でベキベキベキグチャブッシューーです。


あ、タイトルは『オーレリア』がもともとは金って意味の単語だって話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ