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憧れの絶望的状況

自分への課題として、千文字でもいいから毎日更新することを目指しています。

小刻みな更新が多くなるかもしれませんが、お付き合いいただければ幸いです。

「うぐ……ここは?」


 痛む頭を抱えて起き上がってみて、僕は自分の置かれた状況を理解した。子供の頃から読み込んだ英雄譚では定番のシーンだったし、冒険者になればいつかこういうこともあるかもしれないとは思っていたけれど、まさかこんなに早く唐突だとは思わなかった。


「地下牢、かな。お城ならあってもおかしくはないけど、どうしよう……」


 どうやら、罠にかかって捕らえられたらしい。壁に取り付けられた壊れかけの術機巧(パターンド)が発っするとぎれとぎれの光に照らされたそこは、石造りの牢獄だった。


「スズとレオは……いないか。ふたりとも僕よりは強いし、そう簡単にやられはしないと思うけど、どこにいるかも分からないんじゃ合流しようもないし……」


「独り言の多いやつだな」


 後ろから突然声が聞こえて飛び上がった。地下牢の先客か。振り返ってよく見れば、声をかけてきた若い男性以外にも数人が床に転がっている。生きてはいるようだけど皆だいぶ衰弱しているらしく、寄ってきたネズミを追い払う様子もない。


「す、すみません、静かすぎて落ち着かなくて」


「まあ分かるけどな。俺はいいけど気の短いやつもいるから気をつけな」


「あ、はい。あの、僕はクラトスといいます。貴方は?」


「俺かい? 俺はヨハン。鍛冶屋やってたけど、もう二週間近く工房に行けてないしクビかもなぁ」


「ヨハン・スチュアートさんですか!?」


 人相書きを取り出し、ぼんやりした灯りにかざしてみる。

 熊の耳。

 茶色のくせ毛。

 彫りが深めの顔で、右手の甲に切り傷の跡。

 間違いない。


「なんだい、俺を知ってるのか」


「貴方のお祖母さん、エレナさんから依頼を受けた冒険者です。貴方を探して欲しい、と」


「ばあちゃんが? でもそんな金どこに……まさか、じいちゃんの遺産を!」


「全財産を差し出すから探し出してくれと言われました」


「そんな……。救心だって安くないのに……」


「ああ、すみません大丈夫です。一万ミルカで引き受けましたから」


「そ、そうなのか? そりゃまたお買い得だな」


「僕の仲間が、お年寄りには親切にするものだって」


「すまん、この恩はいつか返す。……まあ、生きて帰れたらの話だが」


「大丈夫です。僕はそのために来たんですから」


 そう言いながら、改めて地下牢を見渡す。上下左右と後方は石壁に囲われ、当然ながら窓はない。前方の壁には鉄格子の嵌った、これも鉄の分厚そうな扉が立てつけられている。格子窓の位置が高めなのは鍵や針金を手に入れても開けられないようにする工夫だろう。

 そんな、どう考えても脱出不可能な現状を再確認して、僕は不思議なほど落ち着いていた。むしろちょっとワクワクしていた。


「そんなこと言ったって、お前だって捕まってるじゃないか。こんなところどうやって出るんだよ」


「ええ、実は僕は英雄譚が好きでよく読んでいたんですが、その中にこんな話があるんですよ」


 英雄エイスースは卑劣な罠にかけられ、地下牢へ投獄されてしまった。地位も名誉も剣さえ奪われ明日をも知れぬ身となったエイスース。しかし彼は困難の中にあってなお、神への信仰と民への愛を忘れなかった。それに感心した神は一匹のネズミを遣わし、牢の鍵を開けさせてエイスースを逃したのだった。


「おとぎ話じゃないか。まさか、女神が俺たちを助けてくれるとでも言うつもりか?」


「まさか。さすがにそこまで夢想家じゃありません。ただ……」


「ただ?」


「僕にも、同じことができるんですよ」


 隅の方で皿を舐めるネズミを見て、僕は小さく笑った。

アニメと同じ状況に陥ると無駄にテンション上がるよねという話。


ネズミの脱獄といえば、小学校の頃に読んだミス・ビアンカシリーズは実に良かった。

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