闇深きリンバスの城
城址の町リンバスは、その名の通りリンバス城の跡に建てられた町だ。かつては一国の王城だったが横暴な政治が反乱を招き、革命によって君臨する者を失ってしまった。
以来、残った城壁や建物を再利用する形で町が建てられて今に至るという。一部の史跡に当時の面影は残っているけれど、城の詳細な図面は革命の際に焼失したため、その全貌は未だ解明されていない。
「この辺かな」
「ええ、それなりに大きな空洞のようですし範囲内でしょう。ニーコの感覚の正確さは捕獲作戦の際に確認済みですし」
僕らが今立っているのは城の内郭跡。今まで近寄ったことも無かったので知らなかったけど、崩落の危険ありとして役所が先月から立入禁止にしたエリアらしい。役所が立てたのであろう「入るべからず」の立て札を無視して踏み込んでみれば、確かに盾壁がところどころ崩れて内部の様子が伺えるようになっている。
ニーコが発見した地下室は、この下にある。
「でも、ここまで近づいても僕らには地下室があるなんてまったく分からないね……。風の加護を受けて見る世界ってどんな感じなんだろう」
「少なくとも、私たちが見ている景色とはまったく異なるものなのでしょう」
「むー、そんな珍しいもの、ワイバーンくらいしか持ってないかと思ってたッス」
「そのワイバーンを食べてここまで来たレオが言うと全然大したことないものに聞こえるから不思議だね」
風の加護。ニーコが持っているらしい、有翼人種としての特性だ。僕らが女神様から与えられた職能とはまた違う、異能というよりは体質に近いもの、らしい。風を操り、風の流れを読み、風の声を聞く。まさに風と共に生きる種族に相応しい力、らしい。
らしいがやたら多いのは、ニーコの説明が今ひとつ要領を得ないからだ。
「とにかく、風の流れを読んだらここに地下室があるってことでいいのかな」
「そのようです。地下に広い空間があり、隙間から風が漏れるせいで気流が乱れている、といったものがニーコには感知できるようで」
「そんだけ広いなら、誘拐した人を閉じ込めておくくらいは簡単ってことッスね」
「確証は無いけれど、状況を考えれば可能性は高いと思う。とにかく一度入ってみて様子を見よう」
「ほんじゃ、行きますか」
「しかし、入口がどこにあるかまではまだ……」
「下にあるんスよね? なら……」
おもむろに、レオは腰に提げていた大剣を抜き払った。
「【守護者】!」
自身の扱う剣・槍による攻撃の威力を上げる職能が発動し、そして。
レオの剣が、地面を貫き大穴を穿った。
「おー、ホントに地下があるッス!」
「ちょ、ちょっと! 下に人がいたらどうするの!?」
「【護りの光】で周りの人全部の防御上げてたから平気ッスよ、たぶん」
「たぶん、って……」
「この感覚で酒場も破壊したのでしょうね……」
そういえば、レオが酒場を破壊した事件でも第三者のけが人はいなかった。彼女なりに気を遣っていたのだろう。気遣いの方向性が絶対的に間違っているとは思うけども。
「ほら、さっさと降りて探すッスよ」
固まる僕らをよそに、レオは穴へ飛び降りてずんずんと奥へ踏み込んでゆく。頼もしすぎて頭が痛くなるになるのを堪えて降りてみれば、灯りは無く内部は完全な真っ暗闇だった。松明を点けてみても、昼の明るさに慣れた目では視界が利かない。
「うーん、暗すぎて何も見えないね。スズはどう?」
「【蛇の眼】を使ってみていますが、柱や瓦礫が多く視野は限られています。ニーコを連れてこられればよかったのですが」
実は、ニーコは鳥目で夜になるとほとんど見えていないらしい。それでも夜の森を飛び回れるのは風の流れで障害物を把握しているからで、目潰しが効かなかったのもそのせいだ。その力を使えば地下室の中も難なく進めるだろう。
「こればっかりは仕方ないよ。あの羽根と足じゃ、ここに連れてくるまで目立って仕方ないし」
「それはもっともですが……」
何より。これはあくまで人間同士の問題であって、亜人のニーコをあまり巻き込むわけにもいかない。
だからニーコには町の外で待ってもらっている。ここは、僕らの力だけでなんとかする時だ。
「レオー? 悪いけど、【救済の光】で照らしてくれないー?」
夜の森を照らし出したあの強烈な光ならどうかと思い、奥にいるレオに呼びかけてみる。が、返事がない。
「もう声が届かないほど奥へ行ってしまったのでしょうか」
「いくらなんでもそんなことはないと思うけど……」
あの『聖騎士』のことだ。ちょっとやそっとで危機に陥ることは無いはずだ。そうは思いつつも、やはり反応がないと心配になってくる。
松明で奥を照らして探そう。
そう考えて歩を進めた僕の意識が、急に途絶えた。
マール社の『中世ヨーロッパの城塞』という本が当時の城塞について非常に詳しいと聞き、買おうか悩んでいます。資料本の類は集めだすとキリがない……。




