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歌う有翼人

前回のあらすじ:


「『君の歌をもっと近くで聴きたいな!!』」

「えっ、ホント!?」

 有翼人種(ハルピュイア)捕獲作戦、名付けて焼き鳥大作戦、無事終了。




「……さて、どう料理したもんスかね、この亜人ちゃんは」


「レオ、処遇をどうするかって意味の慣用句なのは分かるけど生々しいからやめて」


 捕獲というべきか保護というべきか、僕と手をつないだままの鳥少女を囲んで今後のことを話し合っている。が、それが一向に進まないもので弛んだ空気が流れ始めているのが現状だ。


 というのもこの子、何を訊かれても答えないのだ。正確には、答えが答えになっていないのだ。


「もう一回確認させてね? 君の名前は?」


「ニーコ!」


「何歳?」


「わすれた!」


「どこから来たの?」


「わすれた!」


「お父さんとお母さんは?」


「わかんない!」


「なんで、町の人をここにつれてきたの?」


「ニーコなんにもしてないよ?」


「じゃあ、なんで町の人たちはここにいたの?」


「ニーコが歌ってたらね、みんながききに来てくれたの! だからもっとがんばって歌ったら、もっとたくさん来てくれたの!」


「……どうですか、アリシアさん」


「うむ、間違いない。やはり何ひとつ嘘は言っていない」


「レオの時は【鑑定】が効かなくて苦労しましたけど、効いても何もわからないことってあるんですね……」


「この子の頭の中はすごいぞ。普通の人間の頭というのは、将来の不安やら仕事やら恋人やらのことが渦巻く、いわば濁流のような状態なのだ。その流れの底にある情報をいかに掬い取るかが【鑑定】持ちの腕の見せ所なのだが、この子は違う。まるで雪解け水のせせらぎのごとく澄み渡っている。そしてその底の底に至るまで、必要最低限のこと以外は本当に何も収まっていない」


 外見の印象ではリリィより少し年上、十二歳くらいに見えるけど、その割に幼さを感じる言動は記憶のなさが原因なんだろうか。

 ちなみに必要最低限のこととは、自分の名前と簡単な倫理観、あと好きな食べ物のことだそうだ。どんぐりをたっぷりと食べたリスのお肉が好物らしい。


「口を挟んでしまい申し訳ないのですが、アリシア殿の【鑑定】は本人が記憶していないことも読み取れるのではなかったですか? オーレリアは自分の職業(ジョブ)を忘れていたと聞きましたが」


「女神の託宣に関わる部分が読みやすいだけで、他人の記憶を好き勝手に覗けるわけではないのさ。ただ人間という生き物は、一度見聞きことは忘れたと思っても頭のどこかには残っている。それを探し出すのもまた匠の技なのだが……この子の頭にはそれすらほとんど無い」


「なんと……」


 まあ、ニワトリは三歩歩いたら忘れる、なんて言葉があるくらいだし。深く考えずにここまで来て、深く考えずに歌い、観客が来て嬉しかったから、深く考えずにもっと歌った。それだけのことだ。理解が足りなかっただけで悪意はない。


「それだけで何人も操って、アリシアさんまで寝不足にさせたんだから末恐ろしいッスね」


「私の防御職能(スキル)が、子供の亜人に破られたというのはどうも腑に落ちないのだが……まあいい。それより問題はこの後のことだ。こちらとしてもかなりの損害と経費が出ていることだし、何かしらの落とし前をつけてもらわねば引き下がれん」


 アリシアさんの言うとおり、ここまで大騒ぎになってしまったのだから少しでも回収したい。突発的な自然災害と片付けるのは簡単だけど、話が通じるなら互いに努力をすべきだ。


「そんがい? けいひ? おとしまえー?」


「貴方が歌ったせいで、大変な思いをしてしまった人がいるのです。その人たちに、貴方から何かあげられるものはありませんか、ということです」


「ニーコ、歌じょうずだよ! 歌ってあげる!」


「それはダメです」


「ぴぇー……」


 リリィを引き取った時も思ったけれど、スズはいいお母さんになりそうな気がする。育ちもいいし美人だし、未来の旦那さんは幸せ者だろう。僕から言われても反応に困るだけだろうから口には出さないけど。


「他に、何か形のあるものはありませんか?」


「んぴぇー……。あ、じゃあこれあげる!」


「……草?」


 おそらく今の今まで持っていることを忘れていたのであろう、草の束を胸元から取り出した。見た目の幼さの割に胸が大きい、というか翼が腰から生えている割に鳩胸だなと思ったら、そこに内ポケットが付いているらしい。ものを背負うのが難しい有翼人の知恵なのだろう。


「おい、これアパ草じゃないか?」


「ボコン茸が混じってるぞ」


 アパ草は強壮薬、ボコン茸はしびれ薬の材料だ。僕みたいな駆け出しには使えないくらい高い薬で、当然その原料もかなり高値がつく。それ以外の草もデカスギナ、その胞子茎クロツクシ、ケンケン草、クダケの実と、希少な薬草毒草の類が揃っている。


「どうしたの、これ」


「どうしたんだっけ?」


「いや、僕に聞かれても」


「クラトス殿、草にこんな紙が混じっていました」


 束の中から、スズが一枚の紙片を取り出した。草の染みがついているがそれほど古くはなく、両面に何か描かれている。


「表は、薬草の絵だね」


「裏面は手紙のようです。ええと……」


『ニーコと出会った方へ。私はベント。行商人をしています』

鳥の記憶力が低いのは有名な話ですが、ある特定の記憶だけは完璧な鳥もいたりします。


たとえばある渡り鳥は、記憶が一年もたないことが実験でわかっています。でも、一年ぶりに会う配偶者のことは互いに決して忘れず、仮に相手が死んだりして出会えなくなっても別の相手を見つけようとはしません。


大事な人のことだけは決して忘れない性質、実に興味深いと思います。

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