焼き鳥大作戦 ※焼きません
なんの目的か知らないけど、町の人を拐い、僕らのリリィまでこんな目にあわせたんだ。無事に帰ってきましたハイおしまい、で済ませていいはずがない。
「ここは、きっちりと筋を通させましょう」
「そうしよう」
午後の太陽の下、僕らの作戦会議が始まった。
そして日は沈み星は瞬き、満月が中天へと昇った頃。
森の奥から、大きくも軽やかな羽ばたきが聞こえてきた。
「こーんばーんはー! みんなの歌姫ニーコだよー!!」
満月を背に現れたのは、昼間と同じ緑色の有翼人種。ニーコというのが彼女の名前だろう。
その眼下、観客席である枯池では、昼間より多い二十人ほどが歓声を上げている。
「じゃあ一曲目いっくよー!」
「いかせんよ!」
二十人の目つきが、観客から冒険者のそれへと一斉に変わった。
そう。今この枯池にいる二十人は、有翼人種の声に惑わされた観客ではない。僕とスズ、レオ、そしてギルドから呼び寄せた冒険者たちだ。
「ぴぇ!?」
「オーレリア君、ゆくぞ」
「かましてやるッスよアリシアさん!」
「【救済の光】!!」
地上の人間たちが目を閉じたと同時に、激しい光が枯池を包んだ。不死者を浄化する職能【救済の光】は、発動時に強い光を放つ。生者に直接の影響は無いが、夜に慣れた目でまともに食らえば視覚は完全に奪われる。
「有翼人種捕獲作戦、名付けて焼き鳥大作戦! 大成功だぜ!」
「おうおう、聞いたときゃマユツバだったが、本物の有翼人種だぜありゃあ!」
「よくも俺の相棒を拐ってくれたな……! 叩き落としてローストチキンにしてやるから!!」
この急な招集に応じてくれた冒険者には、当然ながら行方不明者の縁者や友人が多かった。仲間のお礼参りだとばかりに鼻息を荒くしている者、据わった目で槍を構えている者、網を手に上を見上げている者などなど一様に穏やかでない。肉切り包丁まで持ってきている人がいるが、作戦名といいまさか本当に食べる気なのか。
そんな冒険者たちの様子に、アリシアさんも視線を上に向けつつ呆れた顔をしている。
「少しは落ち着け。相手が下手人だろうと、私たちの目的はあくまで捕獲と取り調べだ。視覚を奪った以上はすぐ落ちてくると思うが手荒な真似はくれぐれも……なに?」
落ちてこない。
空を飛ぶ者にとって視覚は生命線だ。それを失ったはずの少女は、わけが分からないといった表情を浮かべながらも木立の間を悠々と飛んでいる。
「くそ、だったら弓で……!」
「当たりもしないものを射つな! 刺激して逃げられたらもう追いつけん」
アリシアさんに止められ、後衛の冒険者が矢をつがえようとした手を止める。暗い森の中、木と木の隙間を縫うように素早く飛ぶ有翼人種に当てるのは至難だろう。
今は状況を理解できていないようだからいいが、敵とみなされればすぐに逃げられて取り返しがつかなくなる。
「く、クラトス殿、いかがすれば!?」
「あたしが行くッス! ワイバーンを仕留めた要領でズバーンと跳んでバシーンと捕まえてやるッス!」
「ダメだ! レオが動けば刺激になる!」
ただでさえ存在感がある上、今や見た目も獅子に近づいたレオだ。そんな人間が臨戦態勢に入れば、野生動物なら間違いなく気配で気づいて逃げ出すだろう。
周りの冒険者たちにも策が無いらしく、今にも痺れを切らして飛びかかってしまいそうだ。だがそんなことをしたところで捕まえられる相手でもない。
「くっ、何か、何か打つ手は……そうだ!」
僕の職能で逃げるなと言ったところで無意味だろう。残る職能にも役立ちそうなものはない。
万策尽きたかと思った瞬間、僕の頭に数日前の発想が蘇った。
「【猛獣調教】をもって命ずる!」
「クラトス殿!? その職能に逃げる相手を引き止めるほどの力は」
「『君の歌をもっと近くで聴きたいな!!』」
「えっ、ホント!?」
降りてきた。
僕のすぐ目の前に。
「は?」
自分でやっておいて、思わず変な声が出た。周りの冒険者たちも思わず言葉を失っている。
職能【猛獣調教】は相手の意思を捻じ曲げるのは大変だが、願望を後押しするのは簡単だと先日のアントクイーン討伐で知った。
そして今回の相手は、ステージだとか言って人に歌を聴かせに出てくる女の子。もしかして単に歌を聴いて欲しいのかなと思ってやってみたが、まさか当たるとは。
「と、とりあえず、クラトス殿」
「えっと、うん」
目の前でわくわくと待っている有翼人の手を握った。少し堅いが、細く華奢な手だ。
「ぴぇ?」
「か、確保?」
焼き鳥大作戦、無事終了。
「満月を背景に、翼を広げて現れる」
そう聴いて思い浮かべるものは人によって違う気がします。
ちなみに私はガメラ3のイリスです。知らない人は「平成ガメラ イリス」で画像検索してみてください。




