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兎の耳は地獄耳

「クラトス殿、どうお考えですか」


 昼下がりのギルドはだいたいの冒険者が仕事へ出払っており静かだ。その一角で額を突き合わせている僕らの姿は、端から見れば新米冒険者たちのかわいい作戦会議だろうが、実際の議題は深刻なものだった。


「こんなの、とても偶然とは思えない。でもこれだけの情報じゃ何も見えない」


 改めて集まった情報に目を落とし、小さく唸る。

 いなくなった人たちを見ても、年齢も性別も職業もバラバラで共通点が見えない。獣化症候群患者が多い気はするけど、そもそもこの町の何割が患者なのかを僕らは知らないからなんとも言えない。


「じゃあどうするんスか?」


「ギルドの指示を仰いではいかがでしょう。我々の手には余る話です」


「むー、それはどうッスかね」


 スズが妥当そうなことを言うが、レオは疑問を挟んだ。


「何故ですか? いち冒険者パーティが独断で動いていい話とも思えませんが」


「それはそうッスけど、なーんか匂うんスよねー」


「僕も、レオの言う通りだと思う」


「クラトス殿まで?」


「一ヶ月で二十二人、僕らが気づいていない人も含めればもっといるかもしれないのに、全く騒ぎになっていないなんて変だ。犯人がよほど周到な準備をしてやっているか、あるいは……」


「ギルドが、かくしてる」


 横から入ってきたリリィが僕の言葉を先取りした。カラフルなツギハギとエプロンが目を引く馬子の作業服を着ている。


「リリィ、仕事は?」


「お弁当の時間」


 馬の世話をしていると昼時に食事をとれないことも多いのだろう。リリィは僕の隣に腰掛けると、遅めの昼食を頬張り始めた。今日はキャベツとチーズのサンドイッチだ。


「お昼はいつもひとりなの?」


「ん。ご飯の時間はみんなバラバラだからしょうがない……にゃー」


 思い出したようにアリシアさんに教わった語尾をつけ、サンドイッチを小さくしてゆく。

 表情は薄いけれど、白い猫耳がぴこぴこ動いているのを見るに今日の昼食は楽しんでくれているようだ。


「しかし、ギルドが事件を隠すなどあり得るのでしょうか? 一体何の得があってそんなことを……」


「問題はそこだよね……」


 とにかく、もっと情報が必要だ。

 そう考えた僕らは、その足で事務員室へと向かった。


「……事情はあいわかった」


 アリシアさんは、そう言って腕を組む。忙しいところを突然呼び出してしまったが、戸惑いつつも僕らの話を聞いてくれた。


 でも……。


「えっと、大丈夫ですか?」


「む、何がだ」


「いえ、ものすごくお疲れの様子なので、よほど忙しいのかと」


 アリシアさんの目の下には、くっきりと黒いクマができていた。職能(スキル)で睡眠不足からも身を守っているはずのアリシアさんがここまでなるとなると相当だ。


「ああ、最近どうも夢見が悪くてな。仕事とは関係ないから心配は無用だ。さて、本題に戻ろう。計画的犯行の可能性があるのは分かったが、その流れでなぜ私の所へ来る? 私はギルドの事務主任だぞ」


「アリシアさんが悪事に加担するような人とは思えませんから」


「なるほど、冒険者から信頼を得られているようで嬉しいよ。だがクラトス君、それだけの理由で動く君でもないだろう」


「ええ、まあ。だってオルさんロスさんたちの手を借りた時点で、アリシアさんには筒抜けも同じですし。それに……」


「それに?」


 これは言うべきか分からないけど、アリシアさんのことだ、どうせ察している。


「人売りがしたいなら、孤児を拾ってきて売る方がよほど効率的ですし」


「はっはっは! それを面と向かって私に言うかね」


「でもアリシアさんは絶対そんなことをしませんし、僕もしているとは思いません。だから全てお話ししました」


 すごく失礼なことを言ってしまったけど、豪快に笑うアリシアさんを見てほっとする。

 アリシアさんは【鑑定】持ちだ。その効力について僕もすべては知らないけど、人の考えもある程度読めるとはアリシアさんも以前言っていた。人が胸の内に秘めながら言わないこと、言えないことが見えてしまう彼女に対して、「失礼だから」「怒らせてしまうから」と言わないことは、ある意味では彼女を信頼していないと言っているに等しい。


 出会ってまだ長くはないけど、僕はアリシアさんという女性を信頼している。だから言うべきだと思って、そうした。どうやらそれで正解だったようで心底安心している。

 そんな僕の心を読んだの察したのか、アリシアさんは笑顔で頷いた。


「よし、いいだろう。わざわざ手間暇かけて大人を拐って回る理由も旨味もない私が、情報収集に協力してあげよう」


 こうして、ギルドを通さずアリシアさんのツテで情報を集めてもらえることになった。


 さすがアリシアさんは仕事が早く、翌日には分かっている行方不明者の数が六人増えて二十八人になった。


 でも。


「クラトス殿! リリィがどこにもいません!」


「あ、朝起きたらいなくなってたッス!!」


「なっ……!?」


 その六人のうちの一人は、リリアーナだった。 

兎といえば長い耳が特徴です。なので聴覚が鋭敏なのはもちろんですが、実は嗅覚、そして味覚も人間より遥かに優れています。

つまりアリシアさんはグルメで匂いフェチです(どうでもいい)。

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