やっぱり物事は前向きに考えよう
「えっと、その耳は作りものとかじゃなく?」
「愚問だなトッシー! 本物の犬耳がついた俺たちこそ、まごうことなきオルトロスよ!」
「ついにアリシアさんとお揃いだぜトッシー!」
「トッシーって……」
「クラトスだからトッシーだ!」
「兄弟はアダ名で呼び合うもんだぜトッシー!」
「……楽しそうで何よりです」
勝手に盛り上がるふたりを見て、スズはため息をついた。
スズは今でもフードを手放さないが、このふたり、いや、この町の人にとって獣化症候群は抵抗あるものではないらしい。アリシアさんというそれなりに立場のある人が、耳を隠さず堂々と振る舞っているのが大きいのだろう。美人だし。
「おーおー、お兄さんたちイカしてるッスね! それ都会で大流行らしいッスよ!?」
レオ、たしかに王都で流行ってる現象だけど意味が違う。
「あんたが話題の『聖騎士』様かい? 噂に違わぬ美人だな! ライオンの耳が似合ってるぜ!」
「やだなー、褒めても翼竜の干物しか出ないッスよ〜? お兄さんたちもリスの耳がお似合いですよ!」
異様に青い干し肉を受け取ろうとしたオルさんロスさんの動きが、止まった。
いや、僕も気になってはいた。耳は見せびらかしているのに、しっぽの方はマントで隠していることが。
「ななな何言ってんだい姉ちゃん。こいつは犬耳だぜ、犬耳」
「そうだよな兄弟! ふたり合わせて雄牛の守護者オルトロスだもんな!」
「……もふもふ」
明らかに動揺した隙を、リリィに狙われた。マントを払った下にあったのは、茶色に黒のシマシマが可愛いシマリスのしっぽだった。
「比べたこともありませんでしたが、リスの耳と犬の耳とはよく似ているのですね……」
「……ああそうだよ嬢ちゃん。俺たちは哀れなシマリスさ……。買ったばっかの麻の服も毛だらけになるしよ。羊毛が高騰して、服を買うのも楽じゃないってのに……」
「ふたりでひとつの俺たち兄弟だが、ここまで同じとは思わなかったぜ……」
「オルトリス……?」
リリィ、ボソッと追い打ちするのはやめてあげて。
どうしよう、これで心が折れて帰られてしまったら計画がさっそく破綻する。
「しかし異国には『武道を律する』とかけてブドウとリスを武人の象徴とする文化がありますし、剣士の御二方にはむしろ似合いかもしれません」
スズの見事なフォローに、オルさんロスさんの顔がパッと明るくなった。機嫌を直してくれたらしい。
「そ、そうなのか嬢ちゃん!」
「聞いたか兄弟! 市場でブドウの買い占めに行くぞ!」
「あー、それは後にして、まずは用件を聞いてもらってもいいですか?」
これ以上なにかある前に呼び止める。さっさと話を進めた方が良さそうだ。
「おう、そうだったそうだった」
「それでトッシー、俺たちに何をしろってんだ」
「あなたがた、アリシアさんの子供たちの力を借りたいんです」
事の次第を伝えると、ふたりは意気揚々とギルドを出ていった。町の随所にいる義兄弟たちから情報を集めてくれるらしい。
そして、四日後。
「これは……」
「なんという……!」
アリシアさんの子供たちの数と力は予想以上だった。冒険者はもちろん、パン屋に仕立て屋、庭師、彫刻家、大工から役場職員まで町のあらゆるところに散らばっており、情報網の広さが尋常じゃない。
そんな彼ら彼女らが即座に集めてくれた情報を統合した僕らは、予期せず見えてきた事態に思わず息を呑んだ。
「この一ヶ月の間に、行方不明者が二十二人だって……!?」
それは、明らかに異常な数字だった。




