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獅子と兎と狐と猫と僕

「見えたぞ。名前はオーレリア・クロウ。Lv.11。受託職業(ジョブ)は……何?」


 アリシアさんの手が止まった。何か信じられないものでも見たかのように固まっている。

 気になってアリシアさんの手元を覗き込んだ僕は、思わずそこに書かれていたことを口走った。


「……第一級 『聖騎士』(パラディン)


 フィナと同じ、勇者の仲間たる第一級職業(ジョブ)の名前がそこにあった。




「いやー、やっぱり外の空気はウマいッスね!」


「そ、そうだね。牢屋に比べればね」


「これもクラトスさんのおかげッス! ありがとうございます!」


「ああうん、どういたしまして……」


 オーレリアはケラケラと笑っているが、留置所職員たちは大騒動だ。

 とりあえず、第一級職業(ジョブ)が牢屋の中はさすがに不味いということで特別に鍵を開け、今は任意の事情聴取という形で応接室に座ってもらっている。というより彼女がその気になれば牢屋なんて簡単に破って逃げられるのだから、どこにいさせても同じだという意味合いが大きい。

 そしてなぜか監視役を任された僕が他愛もない話をしていると、一旦抜けていたアリシアさんが戻ってきた。


「王都には早馬を飛ばして、『聖騎士』(パラディン)の所在を伝えておいた。一週間後くらいには迎えの馬車が来るだろう」


「えぇっ!? いやいやあたしに馬車なんてもったいない! 自分で歩いていくッスよ!」


「歩いて行こうとして留置所に放り込まれたんだろうに……」


 というか、聖『騎士』なのに歩きというのもどうなのだろう。ちなみにオーレリアの職能(スキル)はこうだ。



<受託者>

 オーレリア・クロウ Lv.11


受託職業(ジョブ)

 第一級 『聖騎士』(パラディン)


受託職能(スキル)

・【護りの光】 Bランク

 自身と味方の防御力と状態異常耐性を上げる。

・【篤き信仰】 Aランク

 自身の精神に防壁を設け、読心や洗脳を防ぐ。

・【守護者】 Dランク

 自身の扱う剣・槍による攻撃の威力を上げる。仲間が弱いほど上昇量が大きい。

・【光の一閃】 Bランク

 自身の攻撃に光の追撃を付与する。

・【治癒の波動】 Cランク

 自身と仲間の回復を促進する。

・【救済の光】 Cランク

 自身の近くにいる不死者を浄化する。

・【騎乗】 Eランク

 自身の馬術を向上させる。



 七つもある職能(スキル)の末尾に、馬に乗るための職能(スキル)は一応持っている。が、他の職能(スキル)とくらべて明らかにランクが低い。歩きで全て済ませてきた彼女の人生が現れているのかもしれない。


「それに、オーレリア殿にはまだやっていただかないといけないことがある」


「はい?」


「カネの調達だ」


 そう言って、アリシアさんは文字の書かれた木の板を差し出した。ギルドと違い、留置所の書類は紙と木の板の混合らしい。犯罪者の扱いにいちいち紙なんて高級品を使っていられないのだろう。


「えーと? 宿屋の修繕費、周辺住民への迷惑料、条例違反の罰金、怪我人の治療費……。しめて四百六十万ミルカってどのくらいッスか?」


「四百六十万!?」


 先日、僕とスズが知恵を絞り命をかけて稼いだのが約十一万ミルカ。オーレリアに課せられたのは、その四十倍以上の大金だった。


「何級だろうが罪は罪だ。自分のやったことの落とし前もつけられない人間に、人類救済などできるものか」


 ごもっとも。ごもっともだけど、将来は将軍でも大臣でもなれるような人にそこまで正論をぶつけられる人はそうそういないと思いますアリシアさん。


「ごもっともッス。ごめんなさいは自分の口から言うもんだ、って村のじーちゃんも言ってたッス」


 神妙な顔で頷いている。物分りの良い人で助かった。


「よし。ではリンバス・ギルドは君が冒険者として依頼を請け、その報酬を賠償にあてることを許可しよう。その権限は、先ほどギルドマスターから預かってある」


「おお、アリシアさんやり手ッスね」


「ありがとう。だが慣れない町では勝手も分からないだろう。それに名目上は犯罪行為の賠償をしているのだから、監視がいる。そこで、クラトス君に世話係兼監視役を任せる」


「はい!?」


 残されていたのはこのためか。さも当然という顔で言い切っているが、僕に第一級の相手が務まるのだろうか。


「安心したまえ。依頼の報酬は従事者間で折半させるから、君にまで彼女の借金が降りかかるわけじゃない」


「いや、それより僕に監視役なんて」


「なに、気負うことはないさ。どうせ彼女が本気で逃げようとすれば誰がいても同じだからな」


「むー、そんなことしないッスよ」


「そんな無茶苦茶な……」


「戦闘になれば誰が相手でも苦戦は必至。ならば、もっとも戦闘になりにくい相手を監視につけるのが最善だ。では、彼女ともっとも諍いを起こしにくい冒険者とは誰だ?」


 そう言われて、先日の会話を思い出す。アリシアさんいわく、僕はあらゆる獣から見て『魅力的に』見えるはずだという。そしてオーレリアはライオンの獣人。よほど奇特な性癖でも持っていない限り、好き好んで僕を敵に回そうとはしないだろう。


 そう考えて納得しかけた僕の後ろで、ドアが勢い良く開いた。


「ちょっとお待ち下さい!」


「スズ?」


 ドアの外で話を聞いていたらしいスズが、応接室に乗り込んできた。後ろからリリィも顔を出している。


「えーっと、どちらさん?」


「クラトス殿のパーティメンバーでスズと申します。それよりアリシア殿! クラトス殿にオーレリア殿を任せるなど、お気は確かですか!?」


「どうしたスズ君。クラトス君の横に女が増えるのは不満かね?」


「うぇ!?」


 スズの喉から聞いたことのない声がした。


「おや、図星かな」


「ち、違います!」


「ではどうしたというんだ」


「どうしたもこうしたもないでしょう! 彼女は第一級職業(ジョブ)の持ち主で、宿屋を破壊した暴漢ですよ? クラトス殿にもしものことがあったらどうするのですか!」


 ありがとうスズ。よく言ってくれた。

 でも、アリシアさんもその反論は予想していたらしい。


「ふむ。では君は、クラトス君以外であれば誰かが犠牲になってもよいと考えているのかな?」


「それは……」


 容赦ない質問にスズが言い淀む。騎士の心得を重んじるスズにはハイとは答えられないし、イイエと答えたところでスズ自身が僕の代わりになるくらいしか代案がない。そしてパーティメンバーであるスズが世話係になったところで、僕がやるのと実質的には変わらない。

 黙ったスズに、アリシアさんは追い打ちをかける。


「安心したまえ、【鑑定】の結果からしても彼女に敵意はない。それに万に一つ敵に回してしまえば誰が相手をしても結果は同じなのだから、『獣使い』(ビーストテイマー)であるクラトス君が適任だ。普段から彼の職能(スキル)を目にしている君にこそよく分かるだろう」


「ぐ……」


「それに第一級職業(ジョブ)の冒険者がパーティにいれば、より難度や報酬の高い依頼を受けられる。スズ君にとっても悪い話ではないはずだ」


「それは、そうかもしれませんが……」


「では、決まりだ。迎えの来る正式な日取りが決まったら連絡するので、それまで精力的に依頼をこなしてくれたまえ」


 それだけ言い残して、アリシアさんは部屋を出ていった。

 後に残されたのは僕とオーレリア、スズ、それに応接室の花瓶に夢中なリリィだけ。


「なんだか、いろいろとお世話になるみたいッスね。とりあえずオーレリアだと長いんで、レオでいいッス。がんばるんでよろしく頼むッス!」


「よ、よろしくね、レオ」


「短い間でしょうがよろしくお願いします。オーレリア・クロウ殿」


 アリシアさん。

 空気が、重いです。

オーレリアは英語で書くと“Aurelia”。『金』を意味するラテン語aurumから派生した人名です。金を元素記号でAuと書くのも同じ単語が由来です。

赤髪の彼女が『金』の名を持っている理由は、まあ後々。

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