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孤独の賢者

 私が神官様に連れられて王都を訪れたのは、二ヶ月と少し前のことです。


 本部教会という立派な建物で改めて職業(ジョブ)を確認し、本当に『賢者(セージ)』だと分かると、あれよあれよという間に私は王様の前にいました。緊張しすぎて、どんなことを言われたかはよく覚えていません。


 そして、私は彼に会いました。

 魔王を滅する光の戦士、当代『勇者』のジーク・ミュラーに。


 まだ勇者様は現れていないと聞いていたので、いきなり紹介された時は驚きました。でも王様を相手に堂々と振る舞う彼の姿はとても頼もしく、驚きはすぐに期待へと変わりました。


 そんな私が、彼の本性を知ったのはその直後。

 ふたりきりになるやいなや、

「俺は伝説になる男だ。貴様は、そのお膳立てをするための存在でしかない。分を弁えろよ」

と言われ、獣化症候群の治療法を探すよう言いつけられました。それ以来、私は王城から出ていません。来る日も来る日も、獣化症候群患者の身体を調べたり、読んだこともない医学書を読み漁って勉強したりの繰り返しです。


 ジークはジークで、自分の華々しいデビューを演出するための準備に奔走していると聞きます。その合間を縫って私の所に来ては、進捗に悪態をつき帰ってゆくのだから煩わしいことこの上ないというのが正直なところです。


 今日も、そろそろ来る頃でしょうか。


「おい、治療法は見つかったのか」


 本当に来ました。Bランクの【魔力察知】はこんなことを察知するための職能(スキル)ではないんですが。


「そんなに毎日来られても、見せられるものなんてありません」


「無いなら用意するのが貴様の役目だろうが。それでも賢者か!」


「そんなことを言われても」


 何をそんなに焦っているのか。聞いてみたことはありますが、知る必要はないの一点張りでした。


「まったく、どいつもこいつも役に立たん! やっとパーティが揃ったというのに、功績のほうがこれでは……!」


「パーティが揃った? 『聖騎士』(パラディン)が見つかったんですか?」


「そうだ。頭数が揃った以上、城で腐っているのは時間の無駄だ。すぐにでも国民の前に出て力を示したい」


 歴代『勇者』を支えるパーティメンバーは、原則として三人。『賢者』(セージ)『司教』(ビショップ)、そして『聖騎士』(パラディン)。全て第一級職業(ジョブ)です。時にはそこにその時代の強者が加わったりします。

 私たちのパーティは『聖騎士』(パラディン)が行方不明だったのですが、それがついに見つかったようです。これでいつ魔王が現れても旅立てますが、そのことがかえってジークを苛立たせているのでしょう。


「実績が欲しいなら、この前発見した予防法があるじゃないですか。『さっそうと現れた勇者は、瞬く間に難病の予防法を確立した』。英雄譚の出だしとしては十分だと思います」


「そんなものはどうでもいい! 必要なのは、もうかかってしまった人間を元に戻す方法だと何度言ったら分かるんだ!」


 そう、一週間ほど前、私は獣化症候群の予防法を発見したのです。ただの村娘だった私がそんな発見をするなんて、と城の学者たちは褒めてくれたけれど、ジークは気に入らない様子です。


「そんなものって……」


「いいか、一週間だ。一週間後、俺の存在を国民に明かす。だからそれまでに治療法を見つけろ。これは命令だ」


「そんな、勝手すぎます! いくら【万象理解】や【白き魔眼】の職能(スキル)があっても、最後は時間をかけて試験しないと……!」


【万象理解】

 自身が見聞きしたあらゆる知識を即座に理解できる。

【白き魔眼】

 自身が目にした生物の体調や体内の様子を知ることができる。


 どちらも医学の研究者としては破格の能力ですが、それにしたって一週間は無茶としか言いようがありません。


「ふん、できないのか」


「できません!」


「そうか。ところで、最近手紙を出したそうだな?」


「それが、何か?」


 突然変わった話題に嫌な予感が湧き上がりましたが、すでに手遅れでした。


「宛先の村、あれが故郷だろう。あと男の名前が書いてあったな。クラトスとかいったか」


「私の手紙を、勝手に読んだんですか……!?」


「当たり前だろう。俺の存在を匂わせるようなことを書かれてはたまらんからな。俺の出現は突然かつ劇的でなくてはならん」


 いくらなんでも、ひどすぎる。

 それに、今ここでそれを言うということは。


「話が二転三転して悪いが、国王陛下は今、頭を痛めていらっしゃる。魔物の被害が増えたせいで兵士の増員や保障のための予算が足りないらしい。そのぶんの税をどこから取り立てるか、誰から取り立てるか、さて、どう決めるのだろうな」


「なんてことを……! あなた、それでも勇者ですか!?」


「勇者の仕事はいずれ現れる魔王を倒すことだ。それ以外のことは全て些事。知った事か」


「……ッ!」


 私の怒りなど気にも留めず、ジークは部屋を出て行きました。残されたのは私と、あまりに大きすぎる絶望感だけ。


「クラトス、私、どうすればいいの……?」


 どこにいるかも分からない幼馴染に尋ねますが、答えは返ってきませんでした。

昨日、はじめてカテゴリ別の日間ランキングに載りました。ありがとうございます。


日本ではやや珍しいですが、戦争のために村を潰すというのは史実でも行われていたことのようです。国境が地続きって恐ろしい……。

次回からクラトス視点に戻ります。

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