光の戦士『勇者』
『賢者』。
それが私、フィナ・バーンズに与えられた祝福の名前。その知恵と魔導でもって、魔王に相対する光の戦士『勇者』を支えるべき存在です。
辺境の村でその職業を授かった私は、すぐ王都へ馳せ参じました。今は王都の城にて、仕えるべき勇者の出現を待っています。
……と、世間には公表されていますが、事実は少し違います。
実は、勇者はすでに現れ、王城にいるのです。
なぜ、それを秘匿しているか。それは勇者本人からの希望があったからです。
国民の期待に応えられるようにとかもっともらしい理由を言っていましたが、私は知っています。
「賢者、まだ成果は出ないのか。まったくいつまでグズグズと!」
ノックもなしに部屋へ入ってきた彼が、当代の勇者様。
「獣化症候群の治療法発見は、勇者として最初の実績となる予定だと言ったろうが。さっさと見つけるんだ、いいな!」
私の返事も聞かず、好き勝手に言って部屋を出ていく。
そう、あれが勇者様。
出現と同時に輝かしい実績を上げたという伝説を作りたいがため、私を王城に押し込めて研究を強要している、その張本人です。
セルフプロデュースは大事です。
すごい人も、すごさをアピールしないと知名度は上がらないからです。
まあ勇者様のやることではないとは思いますが。




