変わらないもの
「まあ、そういうわけだ。あいつらだけでなく、リンバス・ギルドには私が育てた冒険者が何人かいる。町で冒険者以外の仕事をしている者も含めればもっとだ。今さらひとりやふたり増えたところで、どうということはない」
「は、はぁ……?」
そう言って笑うアリシアさんだが、僕は別のことが気になっていた。
「あの、オルさんロスさんって今、何歳ですか?」
「俺か? 二十七歳だ」
「俺、二十五」
涙と鼻水でズルズルの顔で答えてくれた。絵面の気味悪さに思わず目を逸してしまったが、隣のスズはすでに後ろを向いていた。
「えっと、つまりアリシアさんがふたりを拾ったのって十六年くらい前ですよね?」
「ああ、そうなるな」
「アリシアさんって、今おいくつなんですか……?」
外見でいえば、アリシアさんは三十歳か少し下かといったところだろう。
しかしそうすると、十五歳にもならない少女が十一歳と九歳の子供を拾ったことになる。いや、聞いた感じだとその前にも何人か拾っていただろう。いくらなんでも無理がないか。
「く、クラトス殿! 失礼ですよ!」
「あっ」
「はっはっは、いや、それは訊かれ慣れているから気にするな。では問題だクラトス君。そも、老化とはなんだと思う?」
「老化?」
言葉としての意味は『歳をとって老いること』だが、そういうことを訊かれているのではないだろう。
質問の意図を図りかねる僕の後ろで、スズが手を挙げた。
「身体の内外が、古くなり機能不全を起こすこと、でしょうか」
「おおよそ間違いないが、もう一歩踏み込んでみよう」
「もう一歩?」
僕とスズで唸るが、答えは出ない。頃合いを見て、アリシアさんは答えを教えてくれた。
「老化とは、ダメージだ」
「ダメージ?」
「人間の身体は、常に様々なダメージに晒されている。何も魔物に斬りつけられるようなものばかりではないぞ? 日光も、酒も、寝不足すらも小さなダメージだ。若い内はそのくらいのダメージはすぐに修復してしまうが、歳をとるにつれ修復力はどんどん衰えてゆく。そうして、やがてダメージに修復が追いつかなくなるのが『老化』なのだ。回復魔法をもってしても、その修復を後押しすることはできない」
老化で皮膚にシワができるのは、皮膚の一部が死んでいるせいだと母さんが言っていた。
死んでしまったものを生き返らせるには、『治癒術』では足りない。『死者蘇生』のような最上級術式が必要になる。そんなものをいちいち皮膚にかけていたら、若さを保つどころか魔力切れで干からびてしまうだろう。
でも、実際にアリシアさんは元気に若さを保っている。そんなの、そもそも皮膚を死なせないくらいしか方法が……。
「まさか」
「やはり君は察しがいいな、クラトス君」
「ど、どういうことですか、クラトス殿?」
「防御の職能で、身体へのダメージを減らしている?」
「うむ、正解だ。ちなみに職能の名は【護りの光】という」
アリシアさんの職業は『司祭』。防御力に優れ、『聖壁』とも呼ばれる職業だ。
その職能で身体の防御力を高め、日光や酒によるダメージを軽減する。そうすれば、歳をとって衰えた身体でも余裕をもって修復できると、そういうことらしい。
「防御力を高める職能に、そんな使いみちが……」
「何事も工夫しだいというわけさ」
口には出さないけど、改めて思う。この人、本当に司祭らしくない。
そしてそんな僕の横では、スズが自分の職能を数えて悔しげにしていた。
「くっ、『斥候』にも防御の職能があれば、私にも同じことができたということですか……!!」
「スズ君はまだ若い。これからどんどん美しくなるし、生活に気をつければいつまでも美貌を保てるさ」
「しょ、精進致します!」
何やら張り切るスズに、愉快愉快と笑うアリシアさんに、まだ泣いているオルさんロスさん兄弟に、いつの間にか馬と戯れているリリィ。そしてすることもなく虚空を見つめる羊たち。
だんだん、場が混沌としてきた。
僕の好きな英雄譚にも、いろいろな変わり者たちが登場する。英雄たちは、そんな個性豊かな面々と時に協力し、時に敵対しながら冒険を繰り広げ、ついには偉業を成し遂げるのだ。
この状況も、それに近いといえば近いけれど。
「なにか違う気がする……」
でも、これはこれで悪くない。
昼時の真っ青な空を見上げて、僕はそう思った。
これにて『獣使い、猫耳幼女を拾う』完結です。
ありがとうございます。
章タイトルの割には幼女以外の成分が多かった気もしますが、きちんと拾ったのでご容赦ください。
今後共、お付き合いいただければ幸いです。
次章『獣使い、本物に遭う』
賢者フィナの目を通した勇者サイドの話も描かれる新章、よろしくお願い致します。




