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獣姫と歩む英雄譚 ~調教スキルで勇者討伐~  作者: 黄波戸井ショウリ
プロローグ 獣使い、狐耳の黒髪少女を手懐ける
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まずは羊飼いから

「……ふー」


 草地に腰掛けてひと息つく。明るい日差しに照らされた草原では、羊たちがうまそうに草を食んでいる。


「もう二ヶ月か……」


 教会で職業(ジョブ)を授かり、フィナが王都に行ってしまってから、今日で二ヶ月になる。


 結局、フィナはそのまま王都にとどまって賢者としての訓練を受けることになったらしい。

 フィナが授かった『賢者』は、全職業の中でも魔法に関する能力が飛び抜けて高い。その職能(スキル)も高速詠唱や万象理解など魔法の開発と使用に特化している。そんな有望な人材を、国のお偉いさんたちもみすみす手放したくはないのだろう。

 そんな急な変化にもめげず手紙をくれるフィナに、村の大人たちも鼻高々だ。


 一方の僕はといえば、職能(スキル)を活かして羊飼いになっていた。

 羊くらいなら僕のレベルでも言うことをきかせられる。職能(スキル)【教練の賜物】で肉体を強化してやれば狼から逃げ切ることだってできるし、【導く言霊】で成長を早めているので毛の伸びが普通より少し早い。文字通りの天職だろう。


 だから今日も今日とて、僕は羊を連れて野山を歩いているのだった。


「お姫様のために薬を持ち帰って神聖騎士に、かぁ。はかない夢だったな……」


 神聖騎士とは、女神から与えられる職業(ジョブ)とは別に、王国から与えられる称号のひとつだ。武勲や功績によって准騎士、騎士、大騎士……と上がってゆき、神聖騎士はその中で最高位にあたる。


 それこそ、人類存亡の危機を退けただとか、そのくらいの英雄でないと賜ることはできない。ハズレ職業(ジョブ)の手が届くような世界では到底無いのだ。


 それでも、獣使いでもどうにか戦えないか、そんなことを模索してみたりもした。しかし調べれば調べるほど、この職業が戦闘に向かないと思い知らされるだけだった。


 なにせ『獣使い』(ビーストテイマー)は五段階ある等級の中でも一番下、第五級職業(ジョブ)だ。

 この等級は戦闘への向き不向きに応じて決まっている。たとえば最上級の第一級には、魔物との戦いで神がかった活躍を見せる職業(ジョブ)が揃っている。フィナが与えられた『賢者』もこれだ。

 もちろん下級の職業(ジョブ)でもレベルを上げれば強くなれるが、では努力次第で上級の職にも追いつけるかといえばそうとも限らない。

 一般に、等級がひとつ違えばレベルにして一〇程度の戦力差がつくと言われている。第一級のフィナと第五級の僕との間には、スタートの時点で四〇レベル相当の差があるわけだ。熟練した戦士のレベルがだいたい三〇~四〇、歴代の神聖騎士で六〇前後なことを考えると、一生かかってもその差を埋めるのは難しいだろう。


 完全に夢を諦めようとまでは思わない。思わないが、少なくとも、焦ってどうなるものではないと学んだ二ヶ月間だった。


「さてみんな、そろそろいこうか」


 だから、そんなことをいつまでも考えていても仕方ない。

 草地から立ち上がり、羊たちに声をかける。職能(スキル)【猛獣調教】があるのだから声に出す必要はないけれど、村を出かけて帰るまでずっと無言はあんまりにも寂しい。


 そうして僕が声をかければ、羊たちはすぐに僕のもとに集まって……。

 ……来ない?


 羊たちは皆、僕に背を向けて何かを見つめている。こんなことは初めてだ。


「みんなどうしたの? 何かいるのか……い……?」


 羊たちと同じ方向に目を向けて、僕も思わず言葉を失う。


 逆光を背に、大きな影がヌッと現れる、まさにその瞬間だった。

キリスト教圏、ユダヤ教圏では、神が愛した動物を飼う者なので高貴な職業。

エジプトでは、奴隷にさせることの多い卑賤の職業。

葬儀屋など人の生死に関わるものを除けば、羊飼いほど扱いに地域差のあった職業も珍しいのではないでしょうか。

ちなみにクラトスの住む世界では、農夫と同じく特にどちらということもありません。

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