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獣姫と歩む英雄譚 ~調教スキルで勇者討伐~  作者: 黄波戸井ショウリ
第1章 獣使い、捨て猫幼女をひろう
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冒険を終えて瓦礫

「ねえスズ」


「なんでしょう、クラトス殿」


「僕らの宿って、ここで合ってるよね?」


「そのはずです」


 アントクイーンを討伐した僕とスズは、羊たちとマタローを連れてリンバスまで無事戻ってきた。

 一刻も早くリリィに顔を見せようと思い、ギルドの前に宿屋へ寄って今に至る。


 いや、正確には、宿屋だったものの前に寄って今に至る。


「なんで、宿屋がなくなってるの」


 一階は酒場、二階と三階が宿屋だった建物は、いつの間にか瓦礫の山と化していた。


「火事というわけでもないようですが、しかし柱がへし折れているだなんて……。まるで魔物でも出たかのようです」


「こんな町中で? いや、それよりも! リリィは!? リリィはどこへ!?」


「そ、そうでした! まさか、瓦礫の下敷きに?」


「そんな……。これから家族らしくなるところだったのに……」


 トントン、と。

 最悪の可能性に呆然と立ち尽くした僕の肩を、誰かが叩いた。


「元気そうだな、クラトス君にスズ君」


「アリシアさん! その、宿屋が、リリィが! あ、リリィっていうのはこの前お話した女の子のことで」


「私のことリリィって呼べるようになってる」


「そう、ちょうどそんな顔の……あれ?」


 苦笑しながら僕の話を聞いていたアリシアさんの後ろに、リリィがいた。

 何やらフリルとリボンのついた可愛い服を着せられている。


「えっと?」


「説明しようか。一昨日の夜のことだが、この建物の酒場で異様に強い酔っ払い同士の大喧嘩が起こった。壁を砕き、柱を折る大乱闘だったとかで、警備兵が駆けつけたときには当人たちが瓦礫の上に倒れている状態だったそうだ。相打ちだったらしい」


「私は早めに逃げ出して助かった。けど、寝る場所が無くなった。スズ……お姉ちゃんが、どうしても困った時はアリシアさんにって言ってたから、その通りにした」


「な、なるほど。無事でよかった。その服は?」


「アリシアさんが貸してくれた」


「うむ。老若貴賤を問わず、女は着飾らねばな」


「そうでしたか。アリシアさん、ありがとうございました」


「いやいや、例には及ばんよ。しかし水臭いぞクラトス君。詳しい事情はリリアーナ君から聞いたが、実に見上げた心意気じゃないか。なぜもっと早く相談してくれなかった」


「いや、知り合ったばかりの人に子供を預かってもらうなんて気が引けますし、それにギルドの仕事そっちのけでリリィのことに注力してしまいましたし……」


「なんだ、そんなことを気にしていたのか。だが、ちょうどいい。この件でこいつらから話があるそうだ」


 アリシアさんが合図すると、男ふたりが前に出た。

 正直、さっきから気になっていた。リリィの後ろに、まったく隠れ切らない巨漢がふたりいることに。


「よ、よお、マラカスっつったか」


「違うぞ兄弟、クラッカーだ」


「クラトスです。オルさん、ロスさん」


 それは、ギルドで僕らに絡んできた兄弟だった。アリシアさんが言う『この件』というのは、アントクイーンの討伐のことだろう。それを達成できるかどうかで、僕らと彼らの賭けの結果が決まるのだから。


「依頼のことなら、ちゃんと達成しましたよ。これ、証拠です」


 ひと抱えあるズダ袋を手渡す。その中身は、スズが切り落としたアントクイーンの首だ。特に証拠品を持って来いとは言われていなかったけど、綺麗にとれたので拾ってきたのだ。


「お、おう、こいつはすげえな。俺たちが悪かったよ」


 素直に非を認めてくれた。いいことなんだけど、なんだか腑に落ちない。


「それよりよ、お前、捨て子を拾ったんだって?」


「え? ええ、まあ」


「しかも親にも会いに行ったんだって?」


「そうですけど」


 そう答えるやいなや、オルさんの大きな手が僕の両肩に置かれた。


「お前、良い奴だなぁ……!!」


「……は?」


「ふむ、クラトス君にはまだ話していなかったな。その兄弟は元は捨て子だ。私が拾って育て、冒険者になってからもギルド職員として面倒を見ている。たまに悪さをするものだから、まだまだ目が離せなくてな」


 そっちか。『この件』って仕事じゃなくてリリィの方か。

 隣のスズも、たぶん僕も理解が追いつかないという顔をしているが、オルたちは涙をボロボロ流して思い出話をしてくれている。


「俺が九歳、弟が七歳の時に親に捨てられてよぉ」


「不漁続きだから口を減らすってんだ。ひどいだろ?」


「仕事は無えし、盗みをしようにもやり方なんて分かんねえし。草とか虫とか口に入るもんはなんでも食ってよぉ」


「生のカナブンはマズかったよなぁ……!」


「二年くらいたった頃かなぁ。兄弟揃って病気やっちまって、道端に転がっていよいよ終わりかって時にアリシアさんに拾われてよぉ」


「『まだ生きたいか。なら君たちもついてこい』って言われてよぉ」


「病気を治してもらって、飯も服ももらって、やっとまともな生活に戻れてよぉ」


「二年ぶりに食ったあったけぇスープはウマかったよなぁ……!!」


「そのリリィとかいう嬢ちゃんが、俺らみたいな思いせずに済んだと思うともう、もう……!」


「泣くな兄弟。男の涙なんざ流すだけ損だぜ」


「そうだな兄弟。だが、出ちまうもんはどうしたらいいんだ」


「そいつは仕方ねえさ兄弟」


 当時のことを思い出したのか、何やら互いに慰めあっている。彼らもなかなか苦労したようだ。

 話せなくなった兄弟を脇にどけ、アリシアさんはリリィを僕らの方へ押し出した。背中を押されたリリィが僕の元へ駆けてくる。


「ただいま」


「ああうん、おかえり」


「まあ、そういうわけだ。あいつらだけでなく、リンバス・ギルドには私が育てた冒険者が何人かいる。町で冒険者以外の仕事をしている者も含めればもっとだ。今さらひとりやふたり増えたところで、どうということはない。遠慮なく頼ってくれたまえ」


「は、はぁ……?」


 そう言って笑うアリシアさんだが、僕は別のことが気になっていた。

※夜にもう一度更新します。


以前、カンボジアで孤児院を運営されている方の講演を聴いたことがあります。

その方が孤児院を始めたのはもう十年以上前のことですが、当時は人身売買も横行しており、子供を取り巻く状況は本当に過酷だったそうです。そんな中で様々な子供を引き取り、内戦や自然災害に見舞われながら、今も首都プノンペンで孤児院を運営されています。


詳しくは、『カンボジア 孤児院』などで検索すると色々情報が発信されています。よければ。

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