百合色の猫少女
「うー……?」
「クラトス殿! 女の子が目を覚ましました!」
「本当に!? えっと、まずスープ? 薬湯? どっち?」
女の子を背負って走り、リンバスの街に駆け込んだ翌日。
アリシアさんに治癒術をかけてもらい、宿屋のベッドに寝かせたころにはもう夜も遅かった。それでも女将さんに頼み込んでスープの材料を調達し、朝一番には冒険者がよく使う薬草も買ってきた。
お金が無くて医者にまでは診せられなかったけど、どうにか持ち直したようだ。
「…………?」
あんまり高くない宿屋の簡素なベッドの上で、白髪に白い猫耳の女の子がうっすらと目を開けて周囲を見回していた。
「滋養はすべての基本といいますし、やはりスープでは!」
「分かった! すぐ温めなおしてくる!」
「……だれ?」
「ああごめん、びっくりしたよね! 僕はクラトスで、そっちの子がスズ。道で倒れてた君を見つけたから、町まで連れてきたんだ」
「なんでですか?」
じとりとした不信の目を向けられる。当然といえば当然だが、警戒されているようだ。
このご時世、死にかけの子供をわざわざ拾う人間なんて、慈善家より人売りの確率が高いだろう。この子がそこまでは知っているか分からないけど、いずれにしてもいきなり信用しろと言っても難しい。
そうとは分かっていても、やはりそんな目で見られるのは少々寂しい気がした。
「うーん、なんでって言われても困るんだけど……」
「私なんかを助けてどうするんです。お金はありませんし、できることなんてお裁縫くらいですよ」
「お金なんていらないよ。僕らが助けたくて助けたんだから」
「物好きな方ですね」
「こら! なんてことを言うんですか!」
「本当のことでしょう」
「この、可愛げのない……!」
スズが叱るが、少女の表情は変わらない。深蒼の瞳は冷めきっていて、白い髪、白い肌も相まってまるで冬の湖のような子だ。ベッドからはみ出したしっぽのゆっくりした動きも、興味の薄さの現れなのだろうか。
もっとも、今はそんなところを観察している場合じゃない。野生の世界で狐と猫の仲がどうなのか僕は知らないけど、少なくとも目の前の黒狐と白猫は一触即発だ。
「まあまあスズ、この子も疲れているだけだって。そうだ、まだ君の名前を聞いてなかったね。教えてくれるかな?」
「……リリアーナ」
「リリアーナ……。『百合』を意味する名前ですね」
「よろしく、リリアーナちゃん。白百合みたいな髪にぴったりだね」
「…………」
褒めてみたつもりだったけれど、無言で向けられた目はやはり冷たかった。
イヌ科とネコ科という意味では生存競争のライバル同士であろう狐と猫。
でも神道や陰陽道の世界では、同じ『陰』を司る動物として相性が良いとも言われているそうです。
要は、個人差が全てです。




