突貫
「く、クラトス殿、前を!」
「ブラックボアの群れ……!」
イノシシの魔物、ブラックボア。
鋭い牙にさえ気をつければ、新米冒険者でも狩ることのできる魔物だ。それでも今この状況で相手どりたくはないし、何より数が多すぎる。ギュルルルと不快な鳴き声を上げるブラックボアたちは十五匹はいるだろう。
黒塗りの群れが、リンバスへ向かう道を塞いでいた。
「侮れない数です! いかがしますか」
「戦わずに通してさえくれれば……! 【猛獣調教】を以って命ずる、道を開けろ!」
獣を使役する職能を使ってみるが、道は開かない。
当然だ。初見の魔物の群れを簡単に操れるようなら、『獣使い』はハズレ職業なんて言われていない。
「クラトス殿、ここは迂回しますか!?」
「それは危険だ。あの数で追ってこられたら逃げ切れないし、何より時間がない」
「では、やはり力で切り抜けるしか!」
「うん、でも全て倒していたら街の門が閉じてしまうかもしれない。スズを僕の職能で強化するから、最短距離を一気に突っ切ろう!」
「承知しました! 道を切り開いて見せましょう!」
このブラックボアたちも、人間の町に近づきすぎると危険だということは知っているだろう。町の方へ逃げる獲物を深追いしてくることはないはず。
いかに早くリンバスの方角、つまり群れの向こう側へ抜けられるかが勝負の分かれ目だ。
背中の少女の息遣いを確かめ、僕は職能を発動した。
「行くよ! 【教練の賜物】!」
「クラトス殿が獣、スズ・クゼハラ。推して参ります!!」
重い足を、再び前へ。
黒塗りの群れへ、たったふたりの冒険者が矢のように突貫する。
「【疾風怒濤】!!」
衝突と同時、急加速したスズの短刀がブラックボアの首を切り裂いた。状況が理解できず固まった個体を無視し、そのまま群れの中に切り込む。
スズ自身の『斥候』の職能と、僕の『獣使い』の職能。二重に祝福されたスズの動きはまさしく疾風が如しだ。たちまち、ブラックボアの群れが楔形に割れた。
「クラトス殿、続いてください!」
「スズ、ナイフを投げて左右後方を牽制して! そうしたら一気に向こう側まで駆け抜ける!」
僕らの力はしっかり見せつけた。スズの正面に立ち塞がろうというブラックボアはもういない。あとは背後から襲いかかろうとする連中さえ抑えれば、包囲されることはなくなる。
「【つぶての名手】!」
スズが放ったナイフが、雨粒を切り裂いて左右後方へ飛ぶ。目論見通り、僕らの背中を突こうと構えていたブラックボアの群れが一歩下がった。
それはほんの一秒と少しだったが、確かに敵すべての動きを封じた。ここからは、走るだけだ。
「今だ!」
「はい!」
群れを抜けた。後ろからギーギー鳴いているのが聞こえるが、追撃の足は鈍い。
激しさを増した雨の中、僕らは閉門寸前のリンバスへと滑り込んだ。
スズの投げナイフは使う度に回収していますが、今回ばかりはそうもいきません。
そこそこのお値段がするので、この後ちょっと凹むことでしょう。
12日は夜更新します




