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獣姫と歩む英雄譚 ~調教スキルで勇者討伐~  作者: 黄波戸井ショウリ
第1章 獣使い、捨て猫幼女をひろう
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兎は年中発情期なんていうけれど

「クラトス・メイヴ。冒険者たるもの秘密のひとつやふたつはあろうが、【鑑定】までごまかせると思わないほうがいいぞ」


「……分かりますか」


「甘く見ないでもらいたいな。スズ君は私と同じく獣化症候群だろう? だから君の職能(スキル)の効果を受けたと見た。耳と尾はフードとマントで隠していたが、希少な魔導具でも使わない限り私の目からは逃れられんよ」


「流石ですね」


 スズは今、黒狐の獣人だ。獣の成長を早める僕の職能(スキル)【導く言霊】の影響を受けてレベルが早く上がってもおかしくない。

 それを、アリシアさんはひと目で見抜いていた。


「やはりそうか。いやはや、『獣使い』(ビーストテイマー)職能(スキル)が人間にも効くようになるとはな。君にとってはまさしく天の恵みか」


「ここまでの効果があるとは僕も思っていませんでしたけどね。隠していてすみません」


 獣や魔物には、経験値やレベルという概念がない。鍛えれば強くなるが、その種族の限界を超えることはできないのだ。ネズミをいくら成長させたところで、ネズミは所詮ネズミのままだ。

 だが人間は違う。女神の託宣を受け、経験値を積み、レベルを上げることでどこまでも強くなる。その違いがこんな形で現れたのは僕にとっても予想外だった。


「いや、これほどの効果となれば隠すのも無理はない。こうして呼び止めたのは、隠すならもっと徹底して隠せと忠告するためだ」


「そう、ですね。アリシアさんほどの『司祭』(プリスト)はめったにいないでしょうが、人間を鑑定できる『追跡者』(チェイサー)『薬剤師』(ファマシスト)には見破られるかもしれませんし」


「そういうことだ。低レベルで優秀な職能(スキル)を持つと、厄介事に巻き込まれやすい。気をつけるんだぞ」


 そう語るアリシアさんの目はどこか遠い。過去に、このギルドでそういう事件があったのかもしれない。


「分かりました。ご忠告ありがとうございます。でも、その話ならスズを外に出す必要はあったんですか?」


「君は、女の子が隠しているものを男の前で暴くのかい?」


 おみそれしました。


「では、スズが待っているのでそろそろ行きます」


「ならば最後にひとつ。これから色々あるだろうが、くれぐれもスズ君を泣かしてやるなよ。君は罪な男になるはずだからな」


「……え?」


「なんだ、気づいていなかったのか」


 僕が罪な男になる。

 その意味が分からず固まった僕に、アリシアさんは妙に楽しそうに教えてくれた。


『獣使い』(ビーストテイマー)は獣を使役できる。そうだな?」


「え、ええ」


「だがひと口に獣と言ってもいろいろいる。強さを重んじるもの、美しさを重んじるもの、巣作りの上手さを重んじるものなど、上に立つために求められる資質は千差万別だ。ではクラトス君、それらをひと言で表すと何になると思う?」


「ひと言で……?」


「『魅力』だよ」


「魅力……」


 どんな獣も人間も、魅力ある者についてゆく。言われてみれば当たり前だ。


『獣使い』(ビーストテイマー)職能(スキル)【猛獣調教】はな、クラトス君。あらゆる獣から見て、自分を魅力的に見せることがその本質なのだと私は考える」


 ここまで聞かされてようやく、僕にもアリシアさんの言わんとするところが分かってきた。


「つまり、獣化症候群にかかった人にとっては僕は……」


「限りなく魅力的な男に見える。全てを賭けてついてゆきたくなるほどに」


 まるで淫魔(インキュバス)だ。

 だが、待ってくれ。獣化症候群にかかった人から見て僕が魅力的だとすれば……。


「えっと、アリシアさん?」


「どうしたクラトス君」


「えっと、顔が近いかなーって」


「何か問題かな?」


 碧い瞳が迫ってくる。茶色い兎の耳が、興味深げに小刻みに動く。


 目をそらせない。ギルドの喧騒が遠のき、彼女が息を吐く音しか聞こえない。


「いや、待って、心を強く持って!」


「男と女、それでいいじゃないか。それとも、年上はお嫌い?」


 兎は年中発情期なんていうけれど、こんなところに影響が出るものなのか。


「いやいやいや、そういうことじゃなくて、ほら、女神様からもらった職能(スキル)をこんなことに使っちゃいけないんじゃないでしょうか!」


「なるほど言われてみればその通りだ。ここまでにしよう」


 迫っていた唇が、スッと引き下がった。


「へ?」


「なかなか初い反応をするな、クラトス君。さて、この状況をひと言で表すと何になると思う?」


「……遊ばれましたか」


「はっはっは。残念だが、『司祭』(プリスト)はガードが硬いのさ」


 兎耳を揺らしながら心底愉快そうに笑うアリシアさんを見て、僕は思う。


 この人、やっぱり微塵も司祭らしくない。

兎は年中発情期。なので性欲の強いものの代表みたいに言われますが……


人間の方が発情してる時間は長いんですよね、実際のところは。


次回、猫幼女、出ます。

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