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獣姫と歩む英雄譚 ~調教スキルで勇者討伐~  作者: 黄波戸井ショウリ
第1章 獣使い、捨て猫幼女をひろう
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物事は前向きに考えよう

 僕らを連れて受付室に移動したアリシアさんは、バサバサと書類を取り出した。冒険者名簿、パーティ名簿、依頼管理票などなどなど。事務主任だけあって手慣れたものだ。

 それにしてもさすがはギルド。質は低めだけど、書類がすべて板でなく紙だ。それだけの経費をかけられるくらいには潤っているのだろう。


「さて、いろいろと懸念事項はあるが、物事は前向きに考えよう」


 僕とスズが席に着くと、アリシアさんは書類の山から冒険者名簿を手に取った。スズがフードをかぶったままだが、そのくらい冒険者には珍しいことでもないのだろう。特に何も言われなかった。


「まずはクラトス・メイヴ君。君のレベルと職能(スキル)を確認させてもらう。私の目をじっと見ろ」


 言われた通りにアリシアさんの青い瞳を見つめる。十五年生きてきたけど、こんな綺麗な人と見つめ合ったことなんてないからか自然と手が汗ばんでしまう。こんなおっかない人と見つめ合ったのも初めてだから、そっちのせいかもしれないけど。


 そんな僕の心境をよそに、アリシアさんは手元を忙しく動かして名簿に僕の情報を書き込んでゆく。



<受託者>

 クラトス・メイヴ Lv.4


受託職業(ジョブ)

第五級 『獣使い』(ビーストテイマー)


受託職能(スキル)

・【猛獣調教】 Dランク

 獣および獣型の魔物を使役する。

・【教練の賜物】 Eランク

 獣および獣型の魔物の能力を向上させる。

・【導く言霊】 Dランク

 獣および獣型の魔物の成長を早める。



「うむ、珍しい職業(ジョブ)だから実物を見るのは初めてだが、これでもかというほど『獣使い』(ビーストテイマー)だな。どうしたものか」


「あの、それもしかして【鑑定】ですか……?」


「ああ、人やアイテム、魔物を注視するだけで情報を知ることができる。もっとも、人の場合は互いに注視しあわないといけないがね」


 さらりと言うが、【鑑定】を持つ職業(ジョブ)は数少ない。その中でも人、アイテム、魔物の全てを鑑定できるのは、僕の知る限りではひとつきり。


「アリシアさんって『司祭』(プリスト)だったんですか?」


 防御魔法と回復魔法に優れ、『聖壁』(せいへき)とも呼ばれる第二級職業(ジョブ)だ。

 フィナの『賢者』のような第一級職業(ジョブ)は特別な時にしか現れないから、平時の最上位職業(ジョブ)ということになる。


「よく勉強しているな。正解だ。まあ、私自身は『司祭』(プリスト)らしくないと言われてばかりだがね。法衣がどうも性に合わず、事務員服ばかり着ているのがよくないのだろう」


 もっと別な理由な気がする。


「しかし、話には聞いていたが『獣使い』(ビーストテイマー)というのは本当に難儀だな。自身で戦うための職能(スキル)がまるで無い。となると問題は使役獣だが、何を使役している?」


「……羊を十頭ほど」


「羊……そうか羊か……」


 腕組みをしてウンウン唸っている。前向きに考えようとしてくれているのだろうが、普通はこの町まで辿り着くことすらできない戦闘力なのは自覚している。

 実際はスズが主力の使役獣なんだけど、ここは言わないでおこう。


「いや、諦めるのは早い。メンバーとの相性というのもあるからな。ここはスズ君の方を先に見てみよう」



<受託者>

 スズ・クゼハラ Lv.12


受託職業(ジョブ)

第四級 『斥候』(スカウト)


受託職能(スキル)

・【潜影】 Dランク

 自身と仲間の気配を察知されづらくなる。

・【蛇の眼】 Dランク

 暗闇や霧の中でも自身の視界を保つ。

・【つぶての名手】 Eランク

 自身の投擲攻撃の威力を上げる。

・【疾風怒濤】 Cランク

 自身の攻撃速度を上げる。



「なんですと?」


 自分のデータを見ていたスズが、何か反応した。


「どうしたの?」


「いえ、Lv.12とはいささか上がりすぎているような……。最後に確認したのはひと月ほど前ですが、その時はまだLv.9でした」


 その直後にレベルが上がっていたとしても、一ヶ月でふたつもレベルアップしたことになる。確かにかなり早い。


「スズ君は『斥候』(スカウト)になってどれくらい経つ?」


「もうじき一年になります」


 レベルの上がり方にはもちろん個人差があるが、たいていの冒険者は一年が過ぎた時点でLv.10だ。

 一年目を目前にLv.9だったなら、少なくともそれまでは標準的な成長速度だったことになる。


「ふむ。まあレベルが高いに越したことはない。見ろ、【疾風怒濤】がCランクになっている。これはレベルアップの恩恵だろう」


「なるほど、Lv.10を越えたからですか」


「そうだ。職能(スキル)は使用することで少しずつ成長するが、レベルが10上がるごとに使用頻度の高い職能(スキル)のランクがひとつ上がる。君は【疾風怒濤】をよく使っていたのだろう」


『斥候』(スカウト)として相応しいかは怪しいですね……」


 職能(スキル)を鑑定すると、その職業(ジョブ)にとって重要な順で表示されると聞いたことがある。獣を使役する『獣使い』(ビーストテイマー)なら【猛獣調教】が、偵察が役目の『斥候』(スカウト)なら【潜影】が大事ということだ。


 でも、そんなのはあくまで目安だ。必要と自分の理念に応じて使っていけばいい。


「僕はいいと思うよ。スズには正々堂々と戦うほうが似合うと思うし!」


「左様ですか! ありがとうございますクラトス殿!」


 スズ自身もそうありたいようで、嬉しそうに笑顔を向けてくれる。

 隠密系の職業(ジョブ)を与えられたスズだが、生まれも育ちも戦士の家系。ご先祖様にあたる神聖騎士ヤマト・クゼハラのように、剣を振るって戦いたいというのが本音なのだろう。


「うむ、スズ君は第四級のLv.12、つまり第三級のLv.2に相当する戦力だ。推奨レベルには少々足りないが、今回の依頼にも挑戦することを許可しよう」


「ありがとうございます、アリシアさん」


「誠心誠意、務めさせていただきます」


「期待しているよ。さあ、残りのパーティ登録などはこちらでやっておくから、君たちは町に出るといい。冒険の成否は、その九割九部が準備で決まるのだからな」


 アリシアさんに頭を下げ、席を立つ。

 と、前を歩いていたスズがドアに手をかけた所で、アリシアさんが僕を呼び止めた。


「おっとすまない、リーダーの拇印が必要な書類があったのだった。クラトス君だけ残ってくれ」


「分かりました。スズは先に出ててもらっていい?」


「ええ、お待ちしております」


 スズが退室し、僕は席に戻る。


 そのわずかな間で、


「……!?」


 アリシアさんの雰囲気が変わっていた。


「クラトス・メイヴ。冒険者たるもの秘密のひとつやふたつはあろうが、私を容易くごまかせると思わないほうがいいぞ」

さり気なくクラトスの【猛獣調教】も1ランク上がっていますが、E(最低)からDの変化なんて微々たるものです。


スズの【疾風怒濤】はもうちょっと適当な名前がある気がするんですが、思いつかないのでこのままで。何かあれば感想からいただけると幸いです。

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