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第13話 装備と導体と、ミナの「うっかり背中」




 翌日、街の大通りは、朝から活気に満ちていた。

 武具屋、道具屋、防具工房。

 新人冒険者向けの安価な装備から、熟練者御用達の高級品まで、迷うほど並んでいる。



「まずは服と防具ね」



 セレスが、きびきびと歩き出す。



「ダンジョンに入る以上、最低限の防御力は整えておきたいわ。

 特に──」



 ちら、とセレスの視線がハヤトに向く。



「静電気を扱うあなたは、“電気が通りやすいもの/通りにくいもの”を理解しておく必要がある」



「教授にも同じこと言われました……」



『当然じゃ』



 ハヤトの胸元の本から、じいさん声が響く。



『電気は、通りやすい道を選ぶ。

 通りにくいものに囲まれていれば、お前だけ安全に、相手だけ痺れさせられる』



「じゃ、そのへんも見ながら装備選ぼうか」



 リアナが笑う。



「“静電気特化の地味装備”ってなんか響きがいいよね」



「地味って最初から言わないでください」













最初に入ったのは、革防具と軽装に強い店だった。

 店の奥には、胸当てやアームガード、ブーツが所狭しと並んでいる。

 店主の大柄な男が、じろっとこちらを見た。



「新人か?」



「はい。《エレキ・ストライド》ってパーティです」



 リアナが胸を張る。



「ダンジョン行きなんで、軽くて動きやすいのと、こいつ用にちょっと特殊なのが欲しくて」



「こいつ?」



 店主の視線が、ハヤトに向く。



「特殊魔力、静電気です」



「静電気ねえ……」



 店主は顎髭を撫で、適当に棚から革の手袋を一つ抜き出した。



「ほれ、こいつ嵌めてみな」



「は、はい」



 ハヤトは手袋をはめ、指先にそっと静電気を集める。

 革越しに、微かなビリビリが自分のほうにだけ返ってくる感じ。



「どうだ」



「……直接のときと違って、かなり弱いです。

 ビリビリはしますけど、“押し引き”の感覚がぼやけるというか」



『革は、そこそこ絶縁するからのう。

 細かい制御には向かんが、“自分を守る”には悪くない』



「じゃあこれは、常用じゃなく“強い電撃を撃つときの保護用”ですかね」



「判断早いな」



 店主がニヤリと笑う。



「だったら、手のひらだけ薄くして、甲側を厚く補強するタイプもあるぞ。

 細かい感覚が欲しいなら、指先だけ素手で使えるもののほうがいい」



「それ、いいですね」



 セレスが頷く。



「指先は制御用、手の甲から腕は保護用。

 “電気が通る道”を身体の中でも選べるようにしておきなさい」



『やはり話が早いのう、この娘』



『失礼な』













あれこれ試した結果──

・革+布の重ね着で、身体をある程度絶縁

・金属部品は最小限、どうしても必要な部分にだけ

 という、“静電気を扱う前提”の装備構成になった。



「見た目は本当に地味ですね……」



「でも、ハヤト君には似合ってますよ」



 ミナが柔らかく笑う。



「“仕事する人”って感じがします」



「それ褒めてます?」



「もちろんです」



『見た目が地味でも、電気が通る“中身”が変わるからのう』













「次は、ミナね」



 セレスが振り向く。



「あなたのローブ、防御力が心許ないわ。

 布は電気的には扱いやすいけれど、刃物には弱い」



「ですね。治癒が間に合わないこともありますし」



 ミナは自分の修道服を見下ろした。



「肩と胸元だけでも、軽く補強したほうがいいかも」



「じゃあ、こっち来なさい」



 店主が、ローブ用の補強具が並ぶ棚へ案内する。

 布の下に仕込む薄い革、簡易胸当て、肩パッド。

 どれも“ゴツすぎず、でも何もないよりずっとマシ”という絶妙なラインだ。



「……これどうでしょう」



 ミナが、女性用の軽い胸当てを手に取る。

 布ローブの下に着るタイプで、外見にはほとんど響かない。

 ただ、着脱にはそれなりに時間がかかりそうだ。



「試着してみな」



「は、はい」



 ミナは頬を少し赤くしながら、更衣用の小さな仕切りスペースへ入っていった。

 布一枚で仕切られた簡易スペース。

 中から、もこもこと布の擦れる音が聞こえてくる。



「ハヤト、お前はそっち向いてろよ」



「向いてます!」



 リアナに言われるまでもなく、ハヤトは店の壁のほうを向いていた。

 教授の声も、さすがに今は黙っている。

 ……はずなのだが、



『布の厚みが増えると、電気の通り方もだな──』



『おお、すまん』



 中から、ミナの小さな声が聞こえた。



「えっと……紐が、ちょっときつ……」



 結び紐を調整しているらしい。



「きゃっ!?」



 乾いた音と、ミナの短い悲鳴。



「ミナさん!?」



「大丈夫か?」



 三人が慌てて振り向くと、ちょうど仕切り布の端がするりと外れかけていた。

 慌ててセレスが手を伸ばし、布をつかんで引き上げる。



「ちょっと店主!」



「悪い悪い、あの仕切り、最近紐が緩んでてな……」



 店主が頭をかく。

 布はぎりぎりのところで踏みとどまり、完全には落ちていない。

 それでも、一瞬だけ──

 結びかけの胸当てと、その下の白い肌が、横からちらりと見えた。

 背中側だけ、肩甲骨あたりまで。

 ローブ越しでは分からなかった、ミナの細い背筋。



「……っ」



 ハヤトは、咄嗟に視線を逸らした。



「ご、ごめんなさい!」



 布の向こうから、ミナの慌てた声。



「今の、見えましたよね……?」



「見てないです!」



「一瞬だけ背中は見えた!」



 リアナが、変な正直さで即答する。



「でも、胸とかは見えてないからセーフ!」



「リアナさん、その基準やめてください!」



 セレスが布をしっかり押さえながら、ため息をついた。



「とにかく、ミナ。

 紐がしっかり結べるまで、私が外側から持ってるから、急いで」



「は、はい……」



 中で、もぞもぞと布と革の音がする。

 やがて、



「……できました」



 控えめな声がして、ミナが再び姿を現した。

 ローブの上からは、ほとんど違いが分からない。

 よく見ると、胸元と肩周りがほんの少しだけ厚くなっている程度だ。



「ど、どうでしょう」



「うん。見た目変わらないのに、ちゃんと守ってくれそう」



 リアナが感心する。



「動きにくくない?」



「大丈夫です。むしろ、姿勢がしゃきっとする感じで」



 ミナは、どこか照れくさそうに笑った。



『今の“背中”の感覚、覚えておくとよいぞ』



『いや、電気が通りやすい“生身”と、布・革一枚挟んだときの違いは──』



 ハヤトは、再び壁の木目を真剣に数え始めた。













装備を一通り整えたあと、道具屋でも簡単なアイテムを揃えた。

 ・ロープ

 ・小型ランタン

 ・予備の水袋と乾燥肉

 支出は痛いが、ダンジョンに入る以上、ケチるところではない。



「で、ハヤト君」



 店を出たところで、セレスが横に並んだ。



「電気が通りやすいもの、通りにくいもの。

 今日の買い物で、どれくらい分かった?」



「えっと……」



 ハヤトは、自分の装備と仲間たちの装備を見回した。



「金属は、一番“すっと入る”感じがします。

 革はそこそこ、布は薄ければ通るけど、重ねると弱くなる。

 濡れてると、どれも通りやすくなって……」



『その通りじゃ』



 教授が満足そうに頷く気配を送ってくる。



『導体と絶縁体。

 世界を“電気の通り道”として見られるようになれば、お前の武器はもう一段階増える』



「ダンジョンの石壁も、場所によって違いそうですね」



 ハヤトは小さく息を吸った。



「湿った場所のほうが、電気は走りやすい。

 逆に、乾いた土と布の上だと、あんまり広がらない──とか」



「そういうのを全部、“頭と感覚の両方で”覚えておきなさい」



 セレスが言う。



「私の火が、どの材質でどう燃え広がるかと同じ。

 あなたの電気が、どこでどう走るか」



「はい」



 ミナが、ローブの裾をそっと握りしめた。



「私の治癒も……届く場所と届きにくい場所があります。

 だから、ちゃんと“届きやすい場所”にみんながいてくれると嬉しいです」



「任せなさいよ」



 リアナが胸を叩く。



「《エレキ・ストライド》の一歩は、みんなで合わせる一歩だからね」



 ハヤトは、自分の指先を見つめた。

 導体と絶縁。

 金属と革と布。

 生身と、守るべき距離。

 ミナの背中が、一瞬のハプニングでちらりと見えたとき。

 そこが、どれだけ無防備だったか。それを補うために胸当てを選んだこと。

 それもまた、



「電気の通り道」



を考える視点のひとつだった。



『よいか、ハヤト』



 教授の声が、静かに響く。



『電気は、目に見えん。

 じゃが、“通り道”を正しく選べば、その見えん力で仲間を守り、敵だけを打てる』



 ハヤトは、胸の内で強く頷いた。

 静電気しかない最弱魔力。

 それでも、導体と絶縁を味方につければ──

 ダンジョンの中でも、きっと戦える。

 そう信じて、ハヤトは新しい手袋をぎゅっと握りしめた。

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