表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神AIが教える《発明》の力で、落ちこぼれの俺は孤独なゴーストの魂を継承し最強になる  作者: 衛士 統


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

第8話:夜闇に響く、最初の悲鳴

あの日以来、俺の日常は、少しだけ変わった。

放課後のチャイムが鳴ると、俺は仲間たちとは別の場所…アッシュ教官の研究室の隣にある、彼専用の訓練場へと向かう。

それが、俺にだけ課せられた、特別訓練の日課だった。


「…集中しろ。雑念が多い」

アッシュは、腕を組み、壁に寄りかかったまま、冷たく言い放つ。


俺の前の空間に、ホログラムで一体の訓練用ゴーレムが投影されている。


課された訓練は、ただ一つ。

「《スキルNo.12:フレイムランス》で、あのゴーレムのコアだけを、正確に撃ち抜いてみせろ」

C級アンカーを目指す者なら、誰もが最初にぶつかる壁。


俺は、必死に《魂の燭光(ソウル・トーチ)》を使い、自らの感情のノイズを抑え込もうとする。


そして、『起源の書』の手順通りに、魂の波形を集中させる。


「…っ! 《フレイムランス》!」

しかし、掌から放たれた炎は、槍の形にはならない。


いびつな塊となってゴーレムに当たり、その核ではなく、胴体を、無駄に焦がすだけ。


「違う。貴様の魂は、貫くという意志が、足りん」

アッシュの声には、感情がない。


何度も、何度も、失敗を繰り返した。

炎は暴発し、壁を焦がし、時には、俺自身の眉毛を焼いた。


その度に、脳内に響くイグニスの罵倒が、俺の心を抉る。

《ポンコツが。三流が。それで、父の“謎”を追うだと? 笑わせるな》

うるさい、と心の中で叫び返す。


そして、何十回目かの失敗の後。

アッシュは、溜息をつき、言った。


「…次だ」

次の訓練は、《カードNo.001:嫉妬深き剣士》の制御。


「あの黒い刃を出して、瘴気をコントロールし、剣先を長くしろ。その形を、10秒間、維持してみせろ」


俺は、意を決して、カードを発動する。


その瞬間、脳内に流れ込む、あの冷たい感情。

視界の隅に表示される『自我境界』のゲージが、100%から、99%、98%…と、1秒ごとに、ゆっくりと死へと近づいていく。


「なぜ、俺じゃないんだ…」

耳の奥で、声がする。


俺は、必死に抵抗する。

(うるさい…! 俺の魂は、俺のものだ…!)


俺は、右手に、あの《劣等の一閃》の漆黒の刃を、具現化させる。

しかし、それを振るわない。


ただ、その形を、必死に維持しようとする。


《残り、3秒…2秒…1秒…!》

イグニスのカウントダウン。


「――解除!」

俺は、叫び、自らの意志でカードを引き剥がした。


全身は、汗でびっしょりだった。

だが、その顔には、確かな達成感が浮かんでいた。


俺は、10秒だけ、あの力を、コントロールしたんだ。


アッシュは、そんな俺を見て、初めて、ほんのわずかに、その口の端を吊り上げたように見えた。


「…勘違いするな。戦場は、訓練場ではない」と言い放った。

その、厳しい言葉ですら、今の俺には、最高の褒め言葉に聞こえた。



***



その夜。

俺は、一人、自室で訓練の復習をしていた。

仲間たちは、もう、それぞれの寮に帰っている。


《フレイムランス》の手順を、何度も、何度も、頭の中で反芻する。


地味で、退屈な反復練習。

だが、その小さな失敗の積み重ねが、俺に、確かな課題を与えてくれていた。


その時だった。


――ピィン…!

俺の魂が、まるで警鐘のように、鋭く鳴った。

魂の燭光(ソウル・トーチ)》が、勝手に発動したのだ。


脳内に、直接、映像が流れ込んでくる。

アカデミーの外れにある古い墓地。


そこから、強く、そして哀しい、ゴーストの存在波形が、放たれている。


そして、それだけじゃない。

もう一つ。


小さく、怯えている、誰かの魂の悲鳴が、確かに聞こえる。


「…嘘だろ…!」

こんな時間に、なぜ…?


アッシュ教官は、もういない。

仲間たちは、遠い寮の中だ。


俺しかいない。


俺の脳裏に、アッシュの言葉が蘇る。

『戦場は、訓練場ではない』


そうだ。

これは、もう訓練じゃない。


()()だ。

父さんなら、どうする…?


答えは、決まっている。


俺は、部屋を飛び出した。

ただ、聞こえてくる悲鳴だけを頼りに、夜の闇の中を、走り出した。


墓地の中心。


古びた英雄の慰霊碑の前で、俺は、その絶望の光景を、目の当たりにした。


一体のB級ゴーストが、その場に倒れ込むアカデミーの下級生の少女に、その絶望の大剣を、振り下ろそうとしていた。


俺は、迷わず、少女の前に飛び出した。

「やめろ!」

ゴーストの、虚ろな瞳が、俺を捉える。

その魂から放たれる質量の違いに、俺の全身が、戦慄する。


こいつ…! 『嫉妬深き剣士』と同等の…いや、それより上か…!


俺は、震える手で、懐のカードを握りしめた。

やるしかない。


俺が、この子を、救うんだ。

「俺が、お前の魂を、救ってやる!」


その、あまりにも青臭い宣言が、

孤独な戦いの、始まりの合図だった。


まず、俺が選んだのは、唯一の攻撃手段。


震える手で、懐のカードを握りしめる。

「頼む…力を貸してくれ…! 《カードNo.001:嫉妬深き剣士》!」


俺は、カードを装備した。

その瞬間、脳内に流れ込む、あの冷たい感情。


視界の隅に表示される『自我境界』のゲージが、100%から、一気に70%まで降下する。


《警告! ターゲットから放たれる絶望の波形が、マスターの自我を侵蝕しています!》


イグニスの警告通り、訓練の時とは比較にならない圧が、俺の魂を締め付ける。


だが、構わない。

俺は、右手に、あの《劣等の一閃》の漆黒の“刃を、具現化させた。


「いけえええっ!」

刃を、ゴーストのコアめがけて、叩き込む。


しかし。


キィン!


甲高い金属音。

俺の刃は、ゴーストの体をすり抜けることなく、その手前で、まるで分厚いガラスに阻まれたかのように、弾かれた。


「なっ…!?」


《…無駄だ、マスター》

イグニスの、冷徹な声が響く。

《気高い騎士の魂は、卑しい嫉妬の魂と、決して共鳴しない。お前の力は、奴の誇りに、拒絶されている》


くそっ…!

ならば、これしか、ない…!


俺は、カードを解除し、最後の希望に賭けた。


「スキルNo.101:《魂の燭光(ソウル・トーチ)》!」

嫉妬深き剣士の心を救った、俺だけの発明。


俺は、目を閉じ、ゴーストの魂の深海へと、意識をダイブさせようと試みた。

あの声を…『魂の残響』を聞き分けるために…!


しかし。


――ズンッ。


俺の魂は、まるで分厚い鉛の壁に、叩きつけられたかのような衝撃と共に、弾き返された。


脳が、揺れる。

なんだ…? この壁は…?


《警告! ターゲットの魂の壁が、強固すぎる!同調シンクロが、強制解除される!》


この騎士のゴーストが抱く「絶望」は、少年の「嫉妬」とは、次元が違った。

その魂の嵐は、あまりにも深く、あまりにも冷たい。


『魂の残響』など、一筋の光すら、見つけ出すことができない。


攻撃も、ダメ。

対話も、ダメ。


万策尽きた。

その、思考が停止した一瞬の隙。


ゴーストの、無慈悲な大剣が、俺の、がら空きの胴体へと、振り下ろされていた。


「しまっ…!」

もう、避けられない。


死ぬ。


俺が、その絶望を、受け入れた、まさにその瞬間。


――ガァンッ!

俺の目の前で、ありえないほどの火花が、散った。

ゴウキが、その巨大な土の盾で、ゴーストの大剣を、受け止めていた。


いや、違う。受け止めきれていない。盾には、巨大な亀裂が走り、ゴウキの口から、苦悶の声が漏れている。


――バチバチバチッ!


そのゴウキの側から、ジンの雷の鞭が、しなりながら、ゴーストの剣に絡みつき、その軌道を、必死に逸らそうとしている。


――パリンッ!

そして、俺とゴーストの間を、シズクの氷の壁が、何重にも、何重にも、刹那の速さで展開され、そして、砕け散っていく。


三つの壁。

彼らが、命がけで稼いだ、その数秒が、俺を死の淵から、引き戻した。

そして、俺の背後から、仲間たちの声が、響き渡った。


「バーカ!一人でカッコつけんなって!」

ジンの、悪態。


「…全く、無謀ですわ。貴方という人は…!」

シズクの、呆れ声。


「大丈夫…! 僕が、絶対に、守るから…!」

ゴウキの、覚悟の声。


そして。

「…ホムラくん、大丈夫!?」

カオルの、涙声。


ああ、そうだ。

俺は、いつだって、そうだった。


一人では、何もできない。

落ちこぼれの、俺は。


だが。

仲間と、一緒なら。


その事実が、

俺の、折れかけた魂に、

もう一度、火を、灯した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ