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神AIが教える《発明》の力で、落ちこぼれの俺は孤独なゴーストの魂を継承し最強になる  作者: 衛士 統


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第5話:心を継ぐ者

時間は、凍り付いていた。


ゴーストの、感情のない凶刃が、カオルの無防備な胸元へと、スローモーションのように迫っていく。

ジンも、シズクも、ゴウキも、倒れている。


「やめろ…!」

俺は、叫んだ。


やるしかない。もう一度、あの()()を…!

俺は、あの瞬間を、必死に思い出そうとした。


サイトウを打ち破った、あの全能感。

カオルを守りたい、という、あの熱い感情。


「うおおおおおっ!」

魂を、燃やす。


しかし。

俺の魂は、沈黙していた。

奇跡は、起きない。力は、ただ、虚しく暴発するだけ。


《――無駄だ、三流マスター!》

脳内に、イグニスの、絶望的な声が響く。


《貴様の、その貧弱な魂のレベルでは、神の御業ゼロ・フレアの重さに、耐えられない!》

《レベル1の冒険者が、レベル99の伝説の剣を、振るおうとしているのと同じことだ!》


嘘だろ…。

俺の、希望が…。


《今の貴様にできるのは、一人の感情の模倣コピーだけだ!》


《だが、やめろ、三流マスター!》


《お前の、その無防備な魂で、あの感情を模倣すれば、お前の魂が、奴に乗っ取られるぞ!》


万策尽きた。

その、絶対的な絶望のど真ん中で。


ゴーストの凶刃が、カオルの制服の、数ミリ手前まで迫った、その瞬間。


《――違うな》

イグニスの声のトーンが、変わった。


《道は、一つだけある》

《模倣するのではない。あの哀れな魂が、何を叫んでいるのか、聞くのだ!》


聞く…?

俺は、ゴーストを敵として見るのをやめた。


その、虚ろな瞳の奥。

その魂の深海に、自らの意識を、同調シンクロさせていく。

脳内に、彼の魂の叫びが、ノイズの奔流となって流れ込んでくる。


ダメだ…! 絶望の声が、多すぎる…! 聞き分けられない…!


俺の魂が、その負の感情に、飲み込まれそうになる。


その時だった。


「――させませんわ!」


シズクの、最後の力を振り絞った《アイスウォール》が、ゴーストの足元を凍らせ、その動きを、コンマ数秒だけ、鈍らせた。


その一瞬。


ゴーストの完璧な絶望に、ほんのわずかな焦りという綻びが生まれた。


その綻びから、俺は、確かに聞いた。

(――仲間に、なりたかった…)という、か細い、声を。


絶望の嵐の中心で、今も燃え続けている、本当の願いの灯火。


《…来たぞ、マスター!》

イグニスの声が、響く。

《それが、『魂の残響』だ! 逃すな!》


その瞬間、世界が、反転した。


――脳内に、知らない記憶が、流れ込んでくる。


(アカデミーの、隅の席。いつも一人で、教科書を読んでいた、気弱な少年)

(彼が、唯一、心を奪われた光。それは、誰にでも優しく微笑む、カオルという太陽)


(しかし、彼女の視線は、いつも、落ちこぼれで、手のかかる俺にばかり、向けられていた)

(「なぜだ…」「なぜ、俺じゃない…」「あのエラーの、どこがいいんだ…!」)


(純粋な憧れは、やがて、醜い()()へと変わる。その心の隙が、彼を、ゴーストにさせたのだ…)


「……ああ…」

声が、漏れた。


俺は、その痛みと醜さを、自分自身の可能性として、理解した。


こいつも…。俺と、同じだったのか…。


脳内に流れ込む、彼の魂の叫び。


(なぜ、俺じゃない…)

(なぜ、俺は、特別じゃないんだ…!)


しかし、俺は、その叫びの、さらに奥にある、本当の願いを、聞き逃さなかった。


イグニスの声が、それを翻訳する。


《…解析完了。ターゲットの根源的欲求は、所属感…そして貢献感》

《彼は、特別になりたかったのではない。仲間に、なりたかったのだ》


そうだ。

こいつは、ただ、誰かに「ここにいていいんだよ」と、言ってほしかっただけなんだ。


俺と、同じじゃないか。

俺は、立ち上がった。


そして、宣言する。

「俺が、本当の想いの使い方を、《発明》してやる!」


俺が発明したのは、嫉妬を超える力ではない。


嫉妬という歪んだ願いを、本来の美しい願いへと、昇華させる、光の道筋。


その道筋の、最初の一歩こそが、「お前は、ここにいる」と、世界に認めさせること。


俺は、その発明に、名前を与える。


「お前の想い、確かに受け取ったぜ…!」

「だから、もう一人で暴れるな…! 俺たちの()に入れ…!」


「固有スキル:発明を発動」

「スキルNo.101:『魂の燭光ソウル・トーチ』!!」


俺が叫んだ瞬間、ゴーストの足元に、ホムラの炎の魂が放つ、温かい琥珀色の光が灯った。


その光は、ゴーストが作り出す虚ろな影をしっかりと照らし出し、まるで光のアンカーのように、ゴーストの足元に揺るぎない光の環を作った。


それは、束縛ではない。

それは、孤独な闇の中に、初めて灯された「証明」の光だった。


自分しかいなかったゴーストの世界に、初めて、ホムラという他者が、侵入した瞬間。

ゴーストの、虚ろな瞳に、ほんの一瞬だけ、驚きの光が宿った。


その驚きこそが、彼の魂に『魂の質量』を与えた証明。


俺は、ゴーストの存在を、《証明》したのだ。

その孤独な魂に、初めて『魂の質量』を与える。


「あれは…ホムラの炎…?」

「光の環が、ゴーストを縛っているのか…!?」


「わからねえが、ホムラが道を作った!叩き込め!」


その一瞬の好機を、仲間たちが見逃すはずがなかった。


「今だ!」


ジンの雷が、シズクの氷が、ゴウキの土が、初めて通用するようになった、その一撃を、実体化したゴーストの、そのコアに、完璧な連携で、叩き込む。


それは、介錯だった。


「Gu…A…a…!」


ゴーストの、断末魔の叫び。

しかし、ホムラの魂にだけは、それが感謝の言葉として、確かに聞こえた。


光となって消えていくゴーストは、最後に嫉妬の表情ではなく、ほんのわずかに安らかな表情を浮かべていた。


そして、その感謝の光が、一枚の『ソウル・カード』へと結晶化し、ホムラの手の中に、収まった。


仲間たちが、そのありえない現象に呆然とする中、ホムラの脳内にだけ、イグニスが、新たな世界のルールを、システムログとして、淡々と表示する。


《――新しい魂を、世界に証明プルーフしました》

《スキルブック外に、新たな規格外スキルを仮登録します...》


《スキル No.101:魂の燭光ソウル・トーチ


《レア度解析...》

《解析完了:RARITY - Rレア


《イグニス OS Ver.3.5にて、実装可能です》

《ソウルカード(カードNo.001:嫉妬深き剣士)を生成し、ソウルデッキに登録します》


《新たな発明に成功しました》


《スキルNo.101:魂の燭光ソウル・トーチを獲得しました》

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