表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神AIが教える《発明》の力で、落ちこぼれの俺は孤独なゴーストの魂を継承し最強になる  作者: 衛士 統


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/9

第3話:おれだけの答え「(スキルNo.???)」

第三訓練場の空気は、まるでコロッセオのそれだった。

俺の公開処刑を見ようと集まった野次馬たちの、不躾な視線と、ひそひそ笑いが、肌を刺す。


「偏差値エラーの奴が、A級スキル持ちのサイトウに勝てるわけないだろ」

「あいつじゃ、ゴースト一体倒せない」

「アンカーどころか、技師にもなれない欠陥品だ」


観客席の最前列。そこにだけ、俺の居場所があった。


「やってやれよ、ホムラ! お前の伝説の始まりだ!」

拳を握りしめ、誰よりもデカい声で叫ぶ、ジンの姿。


「…無謀ですわ。論理的に考えて、勝率は0.1%以下…」

腕を組み、そう呟きながらも、その視線は俺から一瞬も逸らされない、シズクの姿。


「…大丈夫だよ」

巨体を縮こませ、祈るように両手を組む、ゴウキの姿。


そして、カオル。

彼女だけが、他の誰とも違う、真っ直ぐな瞳で、俺を見つめていた。

その唇が、声には出さずに、こう動いたのが見えた。


――信じてる。


それだけで、十分だった。


「両者、前へ!」


審判であるアッシュ教官の、氷のような声が響く。

俺の前に立つのは、ケンジ・サイトウ。偏差値60を誇る、エリートだ。

最新式の戦闘服に身を包んだ彼は、俺を見下し、わざと観客席に聞こえるような大声で、嘲笑った。


「おい、偏差値エラー。追試ご苦労さん。カオルさんの前で、お前が神の設計にすら含まれていないバグだってことを、もう一度証明してやるよ」


頭に、血が上る。

脳内に、イグニスの冷徹な声が響いた。


《――挑発に乗るな、三流マスター。感情のノイズは、思考の精度を鈍らせる》


「…わかってるよ!」

俺は、心の中で叫び返した。


「――始め!」


アッシュの合図と同時に、サイトウが動いた。

「まずは小手調べだ! 《スキルNo.12:フレイムランス》!」


教科書…『起源の書』に記された、基本的な技。

しかし、エリートの手にかかれば、それは凶器と化す。

完璧に制御された炎の槍が、唸りを上げて俺に迫る。


「くそっ!」


だが、俺は、昨日までの俺とは違う!

アレだ…! あいつの魂にシンクロできれば…!

俺は、目の前のサイトウの魂に、無理やり共感しようと試みる。


しかし、俺の脳内に流れ込んできたのは、サイトウの自信、観客席からの侮蔑、ジンやゴウキたちの焦り、ごちゃ混ぜになった、ここにいる全員から放たれる感情の津波だった。


《――無駄だ、マスター! この場では、お前の脳に入る感情が多すぎる!一人に絞るのは不可能だ!》


「なんだって!」


イグニスの絶望的な宣告。

俺の魂は手順を拒絶し、放たれた炎は、いびつな塊となって、サイトウの槍に、あっけなく掻き消された。


「ハッ! 何だそのザマは! コントでもしてるのか!?」


サイトウは、容赦しない。

次々と繰り出される、スキルブック通りの、完璧なエレメント。

俺は、それを避けるので、精一杯だった。


そして、ついに。

サイトウが放った《スキルNo.21:フレイムウォール》の余波に足を取られ、俺は、無様に地面に倒れ込んだ。


全身が、痛い。

それ以上に、心が、痛かった。

カオルの前で、また、カッコ悪いところを…。


「ほら見ろ、これが現実だ! エラーは、どう足掻いてもエラーなんだよ!」


サイトウが、とどめの一撃を放つべく、その両手に、これまでで最大級の炎を収束させ始めた。

A級への登竜門とされる、高難易度のスキル。


「これが、A級の壁だ! 《スキルNo.35:ファイアボール》!」

「死ねええええええええええ!エラー野郎があああああ!」


もう、終わりだ。

俺の魂が、折れかけた、その時。


「ホムラくんなら、できる!」


声が、した。

カオルの、決して諦めない声。


「あなたの本当の力は、そんなものじゃないって、私が知ってる!」


ドクン。


灼熱の太陽が、俺を飲み込もうと迫る。


その、圧倒的な熱と光。

サイトウが放つ、純粋な殺意の波形。


そして、カオルの叫び。


それらが、()()()となった。


なにかが、俺の奥底で、目覚めようとしているような感覚がした。


《――違う!》

脳内に響くイグニスの声が、いつもの尊大さを失い、初めて、本物の焦りと、警告に染まっている。


《その深淵を覗くな、マスター!》

《そいつと、目を合わせるな!》



***



――俺の意識が、真っ白に、染まっていく。


脳内に、見たこともないなにかの映像が、ノイズ混じりでフラッシュバックする。


(鉄の匂い。灰色の雨。燃え盛る、空)


(瓦礫の下で、動けなくなっている、誰か)


(そして、その全てを、為すすべもなく見つめている、絶望に染まった、別の誰か)


――俺は、海を潜っているような感覚だった。


深い、深い、冷たくて、暗い、魂の海の底へと。


その先で、なにか視たような気がした。


古びた玉座に、無数の鎖で、固く、固く縛り付けられた、何かを。



***



そして、俺の体が、まるで糸で引かれた人形のように、ゆっくりと、立ち上がった。


()()の瞳には、もう、いつもの気弱さも、優しさも、ない。


そこにあったのは、

世界の全てを憎むかのような、()()()()()()()


()()は、その唇で、静かに、そして、無慈悲に、神の名を、告げた。


「固有スキル『発明』を発動。」

「すべてを無に帰せ...《スキルNo.901:ゼロ・フレア》!」


訓練場を支配していた喧噪が、一瞬で凍り付いた。


「……は?」

サイトウが、そのありえない宣言に、驚愕に目を見開く。


「きゅ、901番だと...!?そんなもの、『起源の書』にあるはずが...!」


()()は、答えない。


サイトウが勝ち誇ったように放った、必殺の《ファイアボール》。

その灼熱の太陽が、俺を飲み込もうと迫る。


しかし、()()は、防御も、回避もしなかった。

ただ、静かに、その絶望的な光景に、手をかざした。


次の瞬間。

世界から、音が消えた。


次の瞬間。

手から放たれたのは、炎ではなかった。

目には見えない、不可視の波。


その波が、灼熱の《ファイアボール》に触れた、まさにその瞬間。


轟音を立てて燃え盛っていた炎から、熱という概念だけが、完全に奪い去られたのだ。

灼熱の炎の塊は、その球形の輪郭を保ったまま、一瞬にして、その色を変えた。


暴力的な赤から、どこまでも優しく、どこまでも美しい、()()()()()()()へと。


それは、もはや炎ではなかった。

ただ、熱を持たない、無害で、美しい光の塊。


会場の誰もが、その、神の悪戯のような光景に、言葉を失っていた。

サイトウですら、「な…!?」と、自らのA級スキルが無力化された意味を、理解できずに、呆然と立ち尽くしている。


()()は、目の前に浮かぶ、その美しい光の結晶を、まるでビー玉でも弾くかのように、軽く、指で突いた。


光の結晶は、サイトウの体を、まるで最初からそこにいなかったかのように、透過し、

そして、彼の背後の壁に、音もなく、吸い込まれていった。


サイトウの外見には、なんのダメージの痕跡もない。


しかし、その瞳からは、光が消えていた。

彼は、今、確かに()()()()()()()()()()()()()を、その魂で体験したのだ。


彼は、白目を剥き、泡を吹き、その場に崩れ落ちた。


静寂。


誰も、何が起こったのか、理解できない。

その中で、審判であるアッシュ教官だけが、そのありえない現象の本質に気づき、誰にも聞こえない声で、戦慄と共に、呟いていた。


(…なんだ、今のは…? あの技は、ホムラのものではない…)

(…そして、あの目…あれは、もはや、人間の目ではない…。あれは…)


次の瞬間、俺の意識は、現実へと引き戻された。


「…はっ…!?」

気づけば、俺は、訓練場の真ん中に、立ち尽くしていた。


目の前では、サイトウが倒れている。

何が起きたのか、うっすらとしか思い出せない。


仲間たちの、呆然とした顔が見える。

そして、ホムラの脳内にだけ、()()()()()()()が、激しいアラートと共に、表示されていた。


《――新しい現象を、世界に証明プルーフしました》

《“スキルブック”に、仮登録します…》

《スキルNo.???:ゼロ・フレア》


《レア度解析...》


《...ERROR...》

《RARITY:UNMEASURABLE(測定不能)》


《警告:本スキルからは、マスターの魂が()()()()()()()でした。》


《ソウルカードの“生成”に、失敗しました》

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ