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神AIが教える《発明》の力で、落ちこぼれの俺は孤独なゴーストの魂を継承し最強になる  作者: 衛士 統


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第2話:神AIによるはじめての講座

目の前に浮かぶ、温かい光の球体。

脳内に直接響き渡る、どこか尊大な、無機質な声。


《――そして、お前が探す父への、唯一の道標だ》


「父さんを…知ってるのか!?」


俺は、混乱も忘れ、その言葉に食いついた。

行方不明になった父さん、ヒュウガの手がかりは、この数年間、何一つ見つかっていない。なのに、目の前のこいつは、知っているとでも言うのか?


光の球体…『イグニス』は、俺の焦りを、まるで楽しむかのように、静かに答えた。


《今はまだ、話せない。お前が、資格を証明すれば、いずれ分かる》

《その資格とは、お前が、お前の魂の本当の価値を、世界に示すことだ》


「資格…」


その言葉に、俺は拳を握りしめた。

そうだ。俺は、強くなりたい。父さんのように、最強の『アンカー』になるんだ。


「分かった。なら、教えろ! どうすれば、俺は強くなれる!? エレメントの使い方を、教えてくれるんだろ!?」


俺の、必死の問い。

しかし、イグニスは、それを鼻で笑うかのように、一蹴した。


《聞け、三流マスター。お前に教えるのは、ただのエレメントではない》

《お前たちが必死に学んでいる教科書…『起源の書(ジェネシス・コード)』。あれは、神が定めた、たった99個の正解が書かれているだけの、陳腐なものだ》


『起源の書』。

俺たちが使う、全ての“エレメント”の技…《スキル》が、その属性ごとに、No.1からNo.99まで記されている、アカデミーの教科書。


《他の凡人どもは、自らの魂という名の一つの声に集中し、その陳腐な解答集を、必死に、そして忠実に実行しているに過ぎん》


《だが、お前の魂は、優しすぎる。お前の魂は、常に周囲の感情の声を、拾いすぎているのだ》

《お前が力を発動させようとする時、お前の魂は、誰かの恐怖を、期待を、あるいは好奇心を、同時に受信し、情報が多すぎるあまり、パニックを起こしている》


《――そのままでは、お前は、永遠に三流のままだ》


「な…っ!」

図星だった。


思い当たる節はいくらでもある。

俺は、他人が考えていることや思っていることを、さも自分のことのように感じていた。


だが、その言葉を聞いた瞬間、凍てついていた魂の奥底に、温かい水が流れ込むような、不思議な解放感があった。


これまで、ただの欠陥だと思い込んでいた、自分の力の暴走が、まるで()()()()()だったのだと、初めて納得した。


「じゃあ…俺は、どうすれば…」

《答えは、一つだ》


《その前に小手調べだ。まず、このコップの中の水を沸騰させてみろ》

「そんなもん、できるわけ...」


水を沸騰させるには、スキルナンバー:1である点火を発動させる必要がある。


点火、それは炎のエレメントの基礎中の基礎。

しかし、アカデミーでやろうとしても、俺の炎は暴発するだけだった。


「そりゃあああ!」

俺の掌に、熱い炎が生成される。


しかし、その炎はすぐに暴発し、

「あちっ!」


水は激しく突沸し、遥か高く天井まで登っていった。


《はははっ。まるで天にも登る滝のようだな。》


「何笑ってやがんだ馬鹿。そら見ろ。やっぱり俺には無理なんだ。」


《それは違うなマスター。お前のやり方ってものがあるんだ。》


そう言ってイグニスは、部屋の隅でつけっぱなしになっていた、テレビの画面を示した。

人気の料理番組だ。有名な料理人が、観客を沸かせている。


「これがなんだってんだよ。普通の料理番組じゃねえか。こんなの見ても料理なんてできっこねえよ」


《ただテレビを見ろと言っているんじゃない。料理人の魂を覗くのだ。お前は、それができるはずだ》


「魂を、覗く...?」


《そうだ。一人だけを、感じるんだ》


俺は、腑に落ちないまま、料理人の一挙手一投足を、食い入るように視た。


「さあ、皆さん! このスープに、最後の仕上げを! 私の想いを込めて…《スキルNo.1:点火》!」


料理人が、愛情のこもった、優しい眼差しで、鍋のなかのスープを見つめている。

その瞳に、その魂に、俺の魂が、徐々に釘付けになっていった。


《…それだ、マスター! 雑念を捨てて集中しろ! あの男の、魂を視ろ!》

《無になれ! そして、あの料理人の魂に、そのまま、お前の魂を合わせろ!》


言われるがままに、俺は、自らの雑念を消していった。

そして、ただひたすらに、画面の中の料理人が放つ「美味しくなれ」という純粋な願いに、その魂を、同化させていく。


その瞬間だった。


俺の掌から、いつものような暴力的な熱量が放たれるのではない。

まるで、見えない電子レンジのように、俺の魂から放たれた何かが、ガラスのカップを透過し、その内部の水分子だけを、直接、揺さぶり始めたのだ。


ザワ…


カップの中の水が、まるで生き物のように、内側から、静かに、蠢き始めた。


目を開ける。

信じられない光景が、目の前に広がっていた。


ガラスのカップは、ひんやりとしたままだ。俺の手も、熱くない。

なのに、その中の水だけが、確かに、くつくつと、無数の小さな泡を立てて、静かに、しかし確実に、沸騰していた。


アカデミーで何回やっても出来なかった、安定した『炎のエレメント:スキルNo.1<点火>』

それも、その応用となる()()という現象。


「……できました!これで美味しいスープが完成する!」


声が、震えた。


(あれ? なんで、俺は『美味しいスープ』なんて言ったんだ? 俺はただ、失敗せずに技が出せたことに興奮してただけなのに。)


だが、そんな疑問は、自分の手の中で起こった初めての奇跡の前に、すぐに消え去った。


俺の手から、炎は、一切出ていない。

ただ、熱という概念だけが、世界の法則に、顕現した。


人生で初めて。

俺は、自分の力を、完璧に制御できたんだ。


「すごいぞ、イグニス! これが、おれの本当の力なのか!?」


興奮する俺を、イグニスは、いつものように、冷徹な一言で切り捨てた。


《違うな。これは、まだおまえの持つ真の力ではない。ただの自己紹介だ。お前が、お前の魂に、「俺は、こういうことができる人間だ」と、教えてやったに過ぎん》


イグニスの言葉は相変わらず尊大だが、俺の心は、これ以上ないほど高揚していた。

やれる。こいつとなら、俺は、変われるかもしれない。


その時だった。


ピロン♪


昨日と同じ通知音が、端末から鳴り響いた。

画面に表示されたのは、無慈悲な、しかし、今の俺にとっては最高の知らせ。


【D級ライセンス追試・実技試験の組み合わせが決定しました。対戦相手:『ケンジ・サイトウ』】


サイトウ…。昨日、俺を一番笑いものにしていた、あの皮屋のエリートだ。


俺の心臓が、恐怖ではなく、武者震いで高鳴るのを、感じた。

脳内に、イグニスの、どこまでも冷静で、しかし、どこか皮肉に満ちた声が、響き渡った。


《…ほう。最初の実験台としては、上出来だ。見せてみろ、マスター。お前の、その()()()()()()が、どこまで通用するかを》

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