涼風神楽の日常 下
「神楽、久しぶり」
「葵。今日は早かったのね。久しいと言っても二週間よ。」
屋敷の庭で素振りをしていた私に何も言わず、手ぬぐいを差し出してくれる葵。
「ありがとう、葵。」
今日は打ち合いの勝負だから、動きやすい男物の服を着ている。
幼馴染で、一家同士で仲が良いし、別に?そこあたりは問題ないはずなのだが。
「またそんな格好で…。仮にもお前は女に分類されるのだから、身なりくらいはちゃんとしてくれよ、お嬢様」
「はあ?一つ階級が違うだけでお嬢様とかやめてよね。葵もいいところの嫡男
なのだから」
「俺にも思い当たる節はあるが…。とりあえず打ち合いするぞ。木刀を貸してくれ。」
「え、うん」
葵にも思い当たる節があるのかと驚きながら、後ろに控えていた侍女の元へ駆け寄る。
「奈留。木刀をもう一本持ってきてもらっても良いかしら」
「かしこまりました。すぐ持って参ります。神楽様は葵様の元へお戻りになってください。」ペコリと一礼して木刀を取りに行った奈留。
奈留は生きる気力を失い、死のうとしていたところを私が説得し、
我が家に招き入れたのだ。
そして当時、まだお付きの侍女が決まっていなかった私に、私がなりたいです、と言ってくれたのだ。
「神楽様。持って参りました。お昼の準備が整い次第、お呼びします」
「ありがとう、奈留!」
奈留から受けとった木刀を葵に渡す。
「じゃあ、魔力込みで一本勝負な。」
「望むところよ。今回こそ勝ってやる!」
「やれるもんなら、やってみろよ!連勝記録がかかっているから手は抜かないけどな!」
心の中で数を数える。息を整えて、見つめ合った。
そして、二人同時に駆け出して木刀が打ち合う音が聞こえた。
「ファースト、彼岸!」
「隙ありっ!ファースト、翠玉」
魔力が木刀に込められる。
葵の魔力属性は水だ。
私の炎の魔力は葵の魔力に負けてしまうことが今まで殆どで、
そのたびに体勢を立て直さなければならなかった。
けれど、前回までの私じゃない。
「サード、紅玉」
木刀に込める力が粒立つ。そして私の魔力受け止めていた葵の刀が
弾かれた。
「やった!やったわ!これで五十六勝、四十二敗、三引き分けね!」
「逆だ、バ神楽!俺が五十六勝だ」
「あれ?けれど今ので四十三勝ね!」
ハッと何かを思い出したような素振りをみせる葵。
「あの技、前回使おうとして失敗した技だろ?サードに適応が遅れたんだが」
「紅玉ね。前回から毎日練習したのよ。魔力を粒立たせて、複数相手に当てる技なの。そういう葵は進んだの?前回、セカンドを完成させてきたじゃない」
「今は魔法改良中だ。もう少しなんだが。」
悔しそうに顔を歪める葵。水の魔法は攻撃向きじゃないのだ。水の魔法は結界術との相性が良いと聞く。
けれど、葵は技を攻撃用にも改良し、魔法の勉強も幼い頃から努力してきていることを近くで見てきた。
「葵は結界術が上手でしょう?だから、攻撃は私に任せなさい!まだ勝ちの数では勝てないけれど、葵と一緒に戦いたいのよ。」
一度目を見開き、口元を手で覆い後ろを向く葵。
「葵?どうしたの。今日何か変よ」
数十秒経って、こちらへ向き直って優しく微笑む葵。
「ああ。一緒に戦ってくれ!」
確かに私たちは高め合ってきた。
強くなった。努力も怠らなかった。
けれど、まだ十五歳の子供で私たちよりも強い人たちなんて沢山いる。
だけれど、私と葵なら二人で戦っていけるような気がした。
「神楽様。葵様。食事の準備が整いました。」
「すぐ行くわ。行きましょう、葵。」
強くなって、大切な人は私が守る。
そう、青空に誓った。




