第1話 ウォルストン学園
古い城が崩れ落ちる夢を見た。
この夢に出てくる古い城は魔王城で今から200年ほど前に勇者との戦闘があった場所だ。今は国の管理下に置かれている。
その夢の内容というのは魔王視点で勇者との戦いの前から始まり魔王が討たれ城が崩れ落ちる瞬間で終わり目を覚ます。なんとも見心地の悪い夢だろう。自分が勇者で魔王を倒す夢ならまだしも自分が倒される側だなんて、しかも魔王には優秀な配下が四人もいたのに転移魔法を使い全員をどこかへ転移させ一人で戦う道を選んだ。
もし、四人の配下と協力していたら勇者に勝っていたのではないかとつくづく思う。
そんな夢を見て今日も目を覚ます。
太陽の光がカーテン越しに差し込み一日の始まりを伝える。
俺―グラン・フォーカスは町はずれにある木造の家に師匠のリアナ・クリアと二人で暮らしている。
「師匠、起きてください朝ですよ」
リアナの部屋の扉を開け声をかけるととても眠そうでやる気のない声が返ってきた
「いやぁまだ朝じゃない。まだこんなに暗いじゃないか」
リアナはベットの上で頭から布団をかぶり起きてこようとしない。
これは今に始まったことではないが師匠はとにかく朝に弱い。だからこうして毎朝起こしに来ているのだ。
「いい加減起きてください!双剣の魔術師様」
「や、やめろその名前で呼ぶな」
リアナは布団から顔を出し恥ずかしそうに頬を赤らめ慌てて飛び起きた。
双剣の魔術師。それはリアナに付けられた異名だ。彼女は自分の魔力を武器にする魔創の剣で戦うのが得意で昔魔物の群れから街をたった一人で守った彼女はいつしか双剣の魔術師と呼ばれるようになった。
だが彼女はその名で呼ばれるのを嫌っている。
「嫌なら早く下に降りてきてくださいね朝飯作ってますから」
ベットの上のリアナに声を掛けて階段を降りて行く。
しばらくたってぼさぼさの髪のリアナが二階から降りてきて
椅子に座り机の上に置かれたパンを食べ始めた。
「今日は珍しくよく動いているな、グラン何かあるのか?」
着替えや掃除で動き回っている俺を見て呑気にリアナは聞いてくる。
「何でって…今日はウォルストン学園に行く日って昨日の夜に言ったじゃないですか」
俺は動きを止めため息混じりに言う。
ウォルストン学園は王都ウェルネス郊外にある学校で敷地は広く学生寮からは王都を一望出来るようになっている。
この学園は魔術や剣術など様々な分野の学問が学べる王都随一の学園に今日から通う事になった。
「そうか、今日だったんだな。何でもっと早くに言わないんだ、ちょっと待ってろ」
「だから昨日―」
俺が言い切る前にリアナは部屋から姿を消していた。
俺は左胸に学園の校章が入った白と藍色の制服の上から黒のローブを羽織っていつも使っている剣と革の鞄を持ち外へ出ようとした。
「ちょっと待てグラン、お前に渡さないといけない物がある」
そう言ってリアナは俺に何かを手渡してきた。
「何ですかこれ、指輪?」
「これは装備者の魔力を半分以下まで吸い取る指輪だ。お前は生まれつき人より多くの魔力を持っているのにも関わらず魔力が安定せず魔法が暴発しあたり一面を焼き尽くすなんて事があったからお前の魔力を半分以下に下げて魔力を安定させる為の物だ」
本当にこの何の変哲もない指輪に魔力を吸い取る力があるのか疑心暗鬼になりながらも左手の人差し指に指輪を嵌めた。すると、全身から魔力が一瞬で指輪へ吸い取られた。
試しに燃え盛る炎を出す魔法を使おうとしたが俺の手から出た魔法はロウソクの火の様な魔法しか出なかった。どうやら魔力を半分以下まで吸い取ると言う効果は本物らしい。
「師匠これじゃまともに魔法使えないんですけど」
「その為の指輪をだからな。それに魔力の流れをコントロール出来るようになればちゃんと実践で使える様になる」
指に嵌めた指輪を眺めながら話しを聞いた。
「後、魔力が安定するまで指輪を外すなよ」
「どうしてですか?」
「指輪を外した時に身体に流れる魔力の負荷に耐えれずに命を落とすか耐えれても自我を保つのでやっとだ。だから私の許可なく指輪を外す事は許さない」
「大事なことはもっと早くに言って下さいよ!もう指輪を外せないじゃ無いですか!」
俺の声が大きいかったのもあるだろうがリアナは両手で耳を塞いで聞こえないふりをしている。
リアナはいつも大事なことは後に言うからその癖を直して欲しいと言うのもなかなか治してはくれない。だからよくこんな事が起きる。
「ところでグラン列車の時間は大丈夫なのか?」
「えっ?」
時計を見ると王都行きの列車が町の駅に到着するまで残り五分を切っていた。
「うわぁぁぁぁ列車に乗り遅れる!じゃあ行ってきます師匠」
「あぁ、学園生活楽しんでこいよ」
俺は勢いよく家を飛び出し全速力で駅へ向かった。優しい笑顔で見送ってくれているリアナには振り向かずただ左手を上げ手を振った。
「ハァ、ハァ何とか間に合ったぞ」
息を切らしながら列車に乗り込み空いていた席に腰を下ろした。
程なくして列車はウォルストン学園のある王都ウェルネスへ向けて動き出した。
道中列車は、木々が生い茂る山の中を抜け透明な水が勢いよく流れ落ちる滝の上にある橋を渡り草原に差し掛かった時、列車が急停止した。
「こんなところに…ありえない…、ブリアグローが出たぞ!全員列車の外へ逃げろ」
どよめく車内にこの列車の車掌の声が響く。乗客達はドアと窓を開け大慌てで列車の外へ出て行く。
「これがブリアグローか初めて見たけどデカいな」
視界の先には三つ目の巨人が巨大な棍棒を振り回し線路や周りの木を破壊している。
「おい、誰かあのデカブツを協力して倒さねぇか」
斧を持った大柄な男がやけに自信満々言う。
「あんた何無茶なことを言うんだ、相手は本来、豪魔の森に生息している危険な魔物なんだぞ勝てるわけがないだろ」
商人らしき男が反論する。
確かに危険な魔物なのは見てわかる。でも、今から王都に助けを呼んで精鋭が来るのを待っていたら確実にこの場にいる全員が犠牲になるだろう。なら俺は・・・
「おっちゃん、俺も戦うよ」
剣を握り大柄な男の下へ向かった。
「おお、一緒に戦ってくれるのか感謝するぜ。ほかに誰かいないか」
「私も一緒に戦うわ。魔術師がいないときついでしょ」
黒髪の魔術師の女性がこちらに歩いてくる。
「俺も一緒に戦います」
杖を握った青緑色の髪の少年が歩いてきた。
この勢いで戦いの参加者が増えると思ったがそうはいかず四人で戦うことになった。
「それじゃ戦闘前に軽く自己紹介だ。俺はラべグ・マスカロス元冒険者で今は鍛冶師だ」
斧を担いで挨拶を始めた。
「俺はグラン・フォーカス今は魔法が使えないが剣なら俺に任せてくれ」
ラべグに続いて話す。
「私はシオネア・リネナ魔術師よ」
「俺はエルド・リオッド同じく魔術師だ」
それぞれのあいさつが終わり今なお暴れているブリアグローに視線を向ける。
深く息を吸い剣を抜いた。こちらに気付いたのかブリアグローは棍棒を振りかざしながら走り出した。
「来るぞ!」
斧を構えたラべグの声が響く。ブリアグローは前衛であるラべグと俺を狙うように振り下ろされた棍棒を避け、接近して足を切りつけブリアグローの片膝を地面につかせた。
「やるなぁ、あの坊主。あのブリアグローの足をいとも簡単に切りやがった普通は硬くて刃すら通らねえのに・・・このチャンスを無駄にするな奴にありったけの魔法をぶつけろ!」
「「了解!」」
シオネアとエルドは杖に魔力を込めブリアグロー目掛けて放った。すさまじい魔法の量に押されなすすべもなく倒された。
しばらくして王都から衛兵たちがやってきてブリアグローの調査を始めた。俺たち乗客は馬車に乗り王都へ向かった。
「じゃあ俺はこの先の鍛冶屋にいるからいつでも来てくれよな」
一緒にの馬車に乗っていたラべグと別れ俺はエルドとシオネアの乗った馬車に向かった。しかし、シオネアとは話せたがエルドはそこに居なかった。
「エルドとも話したかったがいないならしょうがないか。てか早く学園に行かないと遅刻しちまう」
俺は学園へ走って向かった。だがこのまま走っては確実に間に合わないのでやむを得ずショートカットすることにした。建物の壁をけり屋根の上を走り街の中心にある時計を横切り坂を駆け上がって学園へ到着した。
「やっと着いた・・・なんか今日走ってばっかだな」
大きな校門を潜り抜け学園の中へ入っていく。広大な敷地内を大勢の生徒が行き来している。その中には先輩たちが新入生を歓迎するためにきらびやかな魔法と飼いならされた魔獣でパフォーマンス行っていた。
「まるで祭りだな・・・グアッ!」
新入生歓迎のパフォーマンスを横目に歩いていると突然《《黒い何か》》が顔に突撃してきて離れない。
「リィナ戻ってきなさい!」
少女の怒った声が遠くからだんだん近づいてくる。多分この顔から離れない何かと関係があるのだろう。その声を聴いた顔に引っ付いている黒い何かはすぐに離れてくれた。
「ごめんなさいうちのリィナがご迷惑をおかけして」
少女は顔を下げて謝った。
「俺は大丈夫だから顔を上げて」
「ありがとうございます。あれ、リィナは?」
「・・・俺の頭の上にいるよ」
リィナはいつの間にか頭の上に登って行った。それを見た少女は慌てて頭から引き離しすごい勢いで謝ってきた。そんな少女をなだめ一緒に校舎の中にあるクラス分けがされる部屋へ向かい歩き出した。
「そうだ名前まだ行ってなかったな俺はグラン・フォーカスだよろしくな」
「私はメリア・ランリスです。そしてその黒猫は使い魔のリィナです」
リィナはなぜか再び俺の頭の乗っている。初対面のはずなのにすごくなつかれている。
「それにしてもこんなに人になついてるリィナは初めて見たよ。もしかしてグラン君は動物に好かれる体質なのかな」
「いや、昔俺を見たおとなしい犬が急に吠えて威嚇してきたことがあったからそれは違うかもな」
そんな話をしながら二人はクラス分けが行われる部屋に到着した。
「君たちで最後だ。まったく初日から遅刻寸前とは・・・じゃぁそこの魔石に手をかざしてね」
扉を開け部屋に入るとイスに座っていたの眼鏡をかけ白衣を着た見覚えのある黒髪の女性だった。グランとメリアは魔石に手も伸ばすと光輝きだした。すると校章の下の三つの星の一つが黒色に染まった。この星は学年を表し自分がいる学年の星がクラスの色に染まる。グラン達は新入生つまり一年生なので星は一つだ。そしてクラスはオニキス色は黒だ。
「よかった同じクラスになれて」
「そうだな俺もうれしいよ。そういえばあの白衣を着た先生どこかで見たことがあった気がするんだけど気のせいかな」
「あ、ここが私たちのクラスだよ」
メリアが教室の後ろの扉を開け中へ入っていく。教室の中は三十人の生徒たちでにぎわっていた。二人は後ろの空いた席に座ると前の扉が開き丸い眼鏡をかけた男の教師が入ってきて教壇の上に立った。
「私がこのクラスの担任を務めるフロック・ハドラーだ。君たちには今から親交を深めてもらうためレクリエーションを行ってもらう。学園裏の森の前に集合だ」
グラン達はハドラー先生の指示通りに学園裏の森の前に集まった。
「これから君たちにはこの森の中に咲いているマリナローズという花を一時間以内に採ってきてもらう。誰かとチームを組むもよし妨害して花を奪うのもよしだ。十分後に各自スタートだ」
マリナローズはポーションの作成や錬金術なんかで重宝されている花でその花の付近には魔物や魔獣が多く生息している。クラスメイトの中には貴族出身の生徒もいてその生徒に近づくためにやる気に満ちている者もいる。
俺はメリアと組んでマリナローズを採りに行くことになった。