十六夜サァカス
いつまでも起きていると十六夜サァカスが来るよ、と云われても、さっぱり脅しにはならないシーツのお化け。
十六夜サァカスは、シーツのお化け。
青白い月夜に、ふよふよと飛んで出ます。かわいい声で、こんなふうに唄いながら。
イザヨイ イザヨイ イザ ヨイヨイ
ねむれない 子は 寄っといで
朝まで おどろ いっしょに 唄お
イザヨイ イザヨイ イザ ヨイヨイ
ええ、眠れない夜に空を見上げれば、飛んでいく十六夜サァカスが見えますよ。
「あ、十六夜サァカスだ!」
そんなふうに指させば、ふよふよ声のする方へおりてきます。そして、もいちど唄いかけるのです。
イザヨイ イザヨイ イザ ヨイヨイ
ねむれない 子は 寄っといで
朝まで おどろ いっしょに 唄お
イザヨイ イザヨイ イザ ヨイヨイ
空に向けていた指は、小さなシーツの手で、きゅっとにぎられていることでしょう。
あなたがぽかんとしていても、にっこりしていても、十六夜サァカスは、にぎった手をぶんぶんふりながら唄います。気付いてもらったのがうれしいのです。
いっしょに唄えば、よろこんでポンポン飛び跳ね始めますから、そのまま唄ってやるもよし、踊り出すもよし、あなたしだいです。
とちゅうで眠れば、十六夜サァカスはシーツにもどって、そばでまるくなりますよ。
もちろん、唄のとおりに、朝まで踊り明かしても良いのです。
どちらにしても、しらじらと空の明けるころ、十六夜サァカスは消えてしまいます。
そこには、ももいろのそらが、のこります。
十六夜サァカスについては、弄りまわしているうちにとある地域土着の妖怪である設定とか、その地域から抜け出して研究者になる女の子の話とか、その先生である民俗学者とか、その学者が解き明かす、地域にある神社の神使の可能性、とか、いろいろ話が発展してしまっているのですが、寝かしつけに使っている部分を抜粋。さすがに唄だけだと訳わかめなので短編付き。
ウチの子は「十六夜サァカスが来るよ」と言われると大変喜びますが、唄っているうちに寝てしまいます。