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悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業  作者: クロウ・タイタス
第一章:幼年期の終わり
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六話:妹奪還②

「できたばかりの新作だが、これを渡しておこう」


 ラスティは、エクシア、デュナメス、キュリオス、ヴァーチェに、それぞれの魔装ゴーレムギアを手渡す。まるで新たな運命を託すかのように、その動作には重みが宿る。


「これはゴーレムのコアを利用して全身鎧を生成する。高い機動性と防御力、魔力伝導率を誇り、高い攻撃力を繰り出せる」

「そんなものが!?」

「流石です、主様」

「どうやって使うのですか?」

「ゴーレムギアを持って、言う。セットアップ。もしくは変身」


 ラスティがそう言うと、刹那、彼の姿が白と金のバトルスーツに包まれる。まるで光の騎士が降臨したかのような輝き。他の面々も、ラスティに倣い、変身コードを口にする。


 エクシアは白と青――清廉な海のような色彩。

 デュナメスは白と緑――獰猛な森の獣を思わせる。

 キュリオスは白とオレンジ――陽光のように鮮やか。

 ヴァーチェは白と紫――高貴で神秘的な輝き。


 四者四様の鎧が、まるで彼らの魂を映し出すかのように光を放つ。


「ヴァーチェは戦闘向きじゃない。ここで待機だ。戦術オペレーターとして支援をしてくれ」

「畏まりました」

「よし。行くとしよう」


 地下坑道へと続くトンネルへ、ラスティたちは踏み込む。一歩一歩、階段を下る音が響く。入口付近では日の光が差し込んでいたが、次第に闇が濃さを増す。

 まるで漆黒の深淵へと突き進む冒険者のようだ。この坑道はシェルターとしての役割も果たす設計らしく、地表から遠く離れた場所にある。内部は、意外にも外より状態が良い。


 階段を下りきり、トロッコのホームにたどり着く。だが、照明はない。完全な暗闇が、まるで世界そのものを飲み込むように広がっている。

 暗視モードを起動しても、視界はほとんど利かない。


 データリンクで互いの位置を確認しなければ、すぐに仲間を見失いかねない。こんな状況で待ち伏せを受けたなら、一瞬で全滅だ。暗闇から、デュナメスの声が響く。


「暗いな……フラッシュライトをつけるべきか?」

「だめよ。トンネルの先で待ち伏せられていたら明かりで位置がばれるわ。このまま行きましょう。接近戦にならないこと祈るわ。聴覚を研ぎ澄ますしかない」


 エクシアが冷静に答え、トロッコのホームから線路へ飛び降りる。靴底が地面に当たり、トンネルに音が反響する。

 全員の足音がこだまする中、静寂を破るコツコツという音が目立つ。足音を抑えようとしても、静寂に支配された空間では、どんな小さな音も際立つ。


 まとめてやられるのを避けるため、ひし形の陣形で進む。先頭はラスティ、殿はエクシア。


(あまり警戒する必要はないけれど、必要以上に気にしてしまうわね)


 エクシアはそう思いながら、頻繁に後ろを振り返る。闇の中では、存在しない何かまで恐ろしく感じる。誰かに見られているような、漠然とした不安が心を侵食する。『ロイヤルダークソサエティ』だけでなく、何か別の存在に襲われるのではないか――そんな恐怖すら湧き上がる。


 突然、足元で何かがうごめいた。拳より大きな何かがエクシアの足にぶつかり、動く。生温かい感触が靴を這い上がる。


「ひっ……!」


 思わず上ずった声を上げ、剣先を足元に向ける。暗闇に光る点が見えた――が、よく見れば、くすんだ体色のネズミだった。すぐにちょろちょろと闇へ消える。


「ふぅ」


 エクシアは深いため息をつく。恐ろしい化け物かと思ったが、ただのネズミ。人間が放棄したこの地下にも、他の生き物は生き続けている。怖がりすぎだと自分を戒める。


「どうかしたか、エクシア」

「何でもないわ、何でも」



ラスティに心配されたが、エクシアは何も言わない。殿で良かった。これを見られていたら、からかいのネタが増えただけだ。

 懸念に反し、『ロイヤルダークソサエティ』には遭遇せず。複雑に絡み合った坑道をすべて警戒するのは、さすがに不可能だったのだろう。運河を越え、包囲網の内側へ到達する。


「警戒して行くぞ」



トンネルを出ると、日の光が目に刺さる。周囲は異様に静かで、敵影は見えない。道路に面したこの場所は見晴らしが良すぎ、奇襲されやすい。南東に伸びる道路、北の荒れ果てた公園、後背の団地。


「団地に隠れながら進みましょう。敵の拠点の付近まで行って情報を収集し、奇襲を仕掛ける。それが最善だと思うわ」

「エクシアに同意見だ。迅速に捕まっている者たちを脱出させる必要がある。奇襲は一度しか使えないが、タイミングと場所さえ間違えなければ強い武器になる」


 再び陣形を組み、団地の狭い道路を進む。放棄されてから誰も踏み入れていないのか、地面を蹴るたび砂塵が舞う。埃臭さにむせそうになりながら、東を目指す。敵地にいる緊張感は、まるで肌を焼く炎のようだ。


 突如、爆音が街に響き渡る。断続的な轟音。ラスティが右拳を頭上に挙げ、仲間たちはその場にしゃがみ込む。捕捉されたわけではないが、音はかなり近い。


「助けに向かう」


 ラスティは焦りを押し殺し、返事も待たず駆け出す。エクシアたちは追いすがり、団地のアパートに飛び込む。道路を見渡せる一室に身を潜め、慎重に外を窺う。


 黒いジャケットの人間が道の向かいを走る。次の瞬間、閃光がほとばしり、その右腕が撃ち抜かれ、地面に落ちる。

 バランスを崩し倒れた人間の背後から、『ロイヤルダークソサエティ』の集団が姿を現す。先陣は見覚えのない黒い騎士。右腕が異様に肥大化し、巨大な大剣を逆手に構えている。


「『ロイヤルダークソサエティ』の幹部、エクスキューショナーか」


 ラスティは即座に照準を頭に合わせる。だが、攻撃は控える。ここで倒しても、戦闘音で部隊が殺到し、退路を失う。エクシアも武器を構えるが、攻撃をためらう。抑えるべき瞬間だ。


 エクスキューショナーが人間に近づく。人間――メーテルリンク――は這いつくばりながら、なんとか体を起こし、向き合う。


「メーテルリンク、哀れな少女め。お前が逃がしたやつらはみんな捕まえた。私が生きたまま切り刻んでやった。みんな泣き叫んでいたぞ。もうお前には何もない。命乞いをしろ」


 エクスキューショナーはメーテルリンクを嘲笑う。獲物を追い詰め、油断した様子だ。


「分かりました……あなたに従います。だから、お願いです。殺さないで……」


怯えた表情で、媚びるような声。メーテルリンクは懐に手をやる。刹那、ばねのように飛び上がり、ナイフがエクスキューショナーの腹部に突き刺さる。騎士甲冑を貫く鋭い一撃。


「死ね……! 誰がペットなんかになるもんですか!」


 闘志を剥き出しにしたメーテルリンクがナイフを捻る。エクスキューショナーのニヤつきが消え、怒りに歪む。膝でメーテルリンクの腹を蹴り上げ、突き飛ばす。


「このウジ虫が! ダイモス細胞で死ぬ運命の癖によくも歯向かったな!!」


エクスキューショナーの左手が火を噴き、メーテルリンクの体をめちゃくちゃに貫く。胸、腕、脚が引き裂かれる。


「止む得ない、私が一人で助けに行く! 君たちは潜伏して他の捕虜を奪還しろッ!」


 ラスティは魔力ブースターを全開にし、エクスキューショナーを蹴り飛ばす。


「魔力変形・雷槍穿ち」


雷の槍がラスティの手から放たれ、『ロイヤルダークソサエティ』の構成員を貫く。


「お兄様?」

「助けに来たぞ、メーテルリンク」


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