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悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業  作者: クロウ・タイタス
第一章:幼年期の終わり
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五話:妹救出①

 時は流れ、ラスティは15歳、メーテルリンクは14歳。朝の稽古は変わらず続いてきたが、今日で一つの区切りを迎える。ラスティはミッドガル王国の首都に聳える魔法学園へ入学するため、今日を最後にこの屋敷を離れるのだ。


 まるで運命が新たなページをめくるように、彼の物語は次の舞台へと移る。


「最後の手合わせだ。お互いに本気でやるとしようか」

「はい、お兄様」

「「魔力始動」」


 言葉と同時に、ラスティは疾風の如くメーテルリンクに肉薄する。まるで雷が地を這うような速さだ。

 メーテルリンクは大ぶりの一撃で応じるが、ラスティはそれを振り払うように軽くいなす。返す刃を警戒して防御に徹したメーテルリンクに対し、ラスティの全力の一振りが空気を裂く。


 ドッ! と空気が震え、爆音が響く。勢いよくのけぞったメーテルリンクは、反撃とばかりに突撃を仕掛ける。だが、ラスティの剣は一瞬でそれを切り払う。まるで彼女の動きを予見していたかのように。


 三連撃がメーテルリンクを綺麗に捉え、吹き飛ばす。回避も防御も間に合わず、ラスティの剣が殺到する。渾身の一撃は、まるで時間そのものを切り裂くかのよう。

 ――直撃。

 戦闘は、わずか10回未満の攻撃で終結した。圧倒的。ラスティの剣技は、まるで芸術の域に達しているかのようだ。


「流石です、お兄様」


 メーテルリンクは、恍惚とした表情を浮かべ、血の海に沈む。ラスティは剣を収め、一礼。すぐに冷静な指示を飛ばす。


「治療を!」

「はい!」


 メイド姿のエクシアが、まるで風のように駆け寄り、治療を施す。瞬く間にメーテルリンクの傷は修復され、彼女の顔には穏やかな寝息が戻る。


「明日の出立の準備がある。メーテルリンクは部屋に寝かせておいてくれ」

「承知しました」


 部屋に戻り、出立の準備を進めるラスティ。だが、扉をノックする音が静寂を破る。


「誰かな」

「エクシアよ」

「用件はなんだい?」

「メーテルリンク様が『ロイヤルダークソサエティ』に誘拐されました」

「……この数時間で?」

「ええ。私がメーテルリンク様を部屋に休ませた直後に誘拐は行われたみたい。部屋が空間ごと削り取られている痕跡があったわ」

「魔法……いやアーティファクトか。面倒なことをする」

「それだけの価値を見出したってことよ。急がなければいけない」

「どう動くべきか……メーテルリンクの運ばれた敵拠点の特定と敵戦力の推定を最優先に。これ以上被害を出すわけには行かない。必ずツーマンセルで動くよう徹底して深入りはしてはいけない」

「ヴェスパー家の動きは?」

「父さん達が動くだろう。エクシアはヴァーチェと組んで情報収集に努めてくれ。お願いするよ」

「ええ、わかったわ。安心して。貴方の妹は必ず助ける」

「君たちの安全が最優先だ。敵は正体不明のアーティファクトを持っている。空間を移動するものを含めて、強大だ。最大限の警戒をして臨んで欲しい」

「了解」


 エクシアが姿を消す。ラスティは魔導兵装を手に、メーテルリンクの部屋へ向かう。そこは、ベッドを含め『空間が丸ごと削り取られた』と形容するしかない状態だった。


 巨大な半球状の穴がベッドに空き、布が無残に引きちぎられている。対象を指定してポン! と移動するような生易しい道具ではない。まるで空間そのものを切り取る刃の仕業だ。


「……ラスティ、お前は無事だったか。当然か」


 父親が安堵の息を吐く。その口ぶりに、ラスティは違和感を覚える。まるで、メーテルリンクの誘拐を予見していたかのような――。


「何か知っていますね? お父様」

「……ついてこい。部屋で話そう」


 父親の部屋まで、ラスティは黙って従う。言葉の重みが、空気をさらに重くする。


「この家の闇は覚えているな?」

「はい。麻薬、暗殺、奴隷。どれもミッドガル王国では禁止されている違法行為です」

「それに深く関わり、暗躍する組織がある。『ロイヤルダークソサエティ』。一言で言えば国家を跨いで暗躍する世界の敵だ。我が家はそこと協力関係にあった。メーテルリンクもその協力の一環だ」

「闇の組織に娘を差し出したわけですか」

「軽蔑するか」

「いえ、根が深い問題である以上、どうしようもないでしょう。都合の良い第三勢力でも存在しない限り、ヴェスパー家は破滅する」

「そのとおりだ。国家が正常に機能した場合は私たちの汚職の歴史が晒されて家は取り潰しになり、領民や屋敷の者たちは路頭に迷う。かといって闇の組織に手を貸して続けるのも搾取される」

「板挟み、というわけですか」

「その通りだ。情けない父親ですまない。メーテルリンクのことは諦めてくれ」

「お父様の苦悩は理解できます。辛い選択だったでしょう。私はお父様の味方です。それに、もしかしたら都合の良い第三勢力がメーテルリンクを助けてくれるかもしれません」

「そうであればどれほど良かったか……話は以上だ。部屋に戻って、出立の準備をしてなさい」

「わかりました」


 父親の部屋を後にし、ラスティは自室で学園への準備を進める。


(思った以上に腐っている。しかし腐った後でどうにかしようとする意思があるだけ我が父は立派だ。被害を最小限に止めようと努力していた。娘を闇の組織に渡すのは辛い決断だっただろうに)


 父親を情けないとは思わない。非難される行為でも、立場を考えれば最善を尽くした結果だ。だからこそ、都合の良い『第三勢力』が必要なのだ――ラスティ自身が、その勢力となるために。


「エクシアよ」

「準備が整ったか?」

「ええ。メーテルリンク様が運び込まれたとされる敵の拠点を発見した。規模もそれなりの数があるけど、練度は低い。けど高い魔力反応を二つ検知した。一つはメーテルリンク様だとして、もう一つは」

「敵の幹部クラスか。すぐに動く時間をかける必要はない。最短最速でメーテルリンクを救い出し、敵を全て殲滅する」

「最優先はメーテルリンク様、次点で敵の殲滅で間違いない?」

「ああ、問題ない」

「了解」

「じゃあ、行こうか」


 二人は同時に動き出した。まるで運命の歯車が、最高速度で回転を始めたかのように。

 ヴェスパー家を出て数キロ。領地の外縁部に近づくにつれ、風景は廃墟と化す。風化した壁、傷だらけの道路、土が撒き散らされた地面。モンスターとの戦いで倒壊した建物も多い。ここに価値を見出す者などいない――それが、この地の荒涼たる真実だ。


指定された集結地点は、小さな宿屋。一階建ての建物は、倒壊を免れ、かろうじて形を保っている。


 営業はしていないが、先客がいた。アーキバスの面々が、店を占拠し、四方を固めている。

デュナメスが駆け寄り、ラスティたちを出迎える。


「待ってたぜ、ボス」

「状況は?」

「まだ聞いてないのか? じゃあ説明するぞ。メーテルリンク嬢を誘拐して監禁している施設は、ここから運河を渡って10キロほど東に行ったところにある。詳しい状況は不明だが地下に張り巡らされた坑道を改装して利用してるようだ」


 キュリオスがゆっくり現れ、情報を補足する。


「魔導端末をみてみてください。さっきまでそんなことなかったのに通信状態が著しく悪い。『ロイヤルダークソサエティ』が周囲に魔力ジャミングを発生させているんだと思うよ。王国の使ってる長距離通信の周波数を狙い撃ちにしている。今までこんなことなかったのに……」

「『ロイヤルダークソサエティ』の連中は実際に目で見て確認した。私が偵察に出たけど運河の沿岸に沿って量産型のゴーレムが配置されてる。これが包囲の外環だと思う。メーテルリンクがいる拠点は完全に『ロイヤルダークソサエティ』の包囲下にある」


 最後にヴァーチェが加わる。


「包囲を突破するなら、まずは運河を渡らないいけません。すぐそこに橋があるからそれを渡ればいいんですが、しかし私は反対です」

「理由は?」

「橋の向こう側は『ロイヤルダークソサエティ』も防御を固めています。道の両側に遠距離狙撃用のゴーレムが配置されたスナイパーストリートになっているんです。橋以外の地点を渡ってもいいけど敵前渡河になります。私たちはそんな訓練を受けてないし、絶対に損害が出ます」

「厳しい状況だ」


 ラスティは魔導端末から地図を呼び出し、メンバーに共有。敵拠点の位置を正確にマッピングする。


「ここが目標地点。まだ基地で戦っているのか、すでに脱出しているのかは分からない。とにかく包囲の内側に入って状況を確認しなければならない」

「そうね。でも、どうやって包囲を突破すれば? 橋の先がスナイパーストリートになっているのなら私たちの戦力で正面突破は難しいわ。迂回して別の橋を見つける? あまり時間はないと思うけど……それとも運河を泳いで渡る? 狙い撃ちにされるわよね」


 エクシアが手を口に当て、悩む。遮蔽物のない橋を狙撃型ゴーレムに晒しながら渡るのは、まるで死の行進だ。渡河も危険。明るい時間帯では、

 『ロイヤルダークソサエティ』の目はごまかせない。

 ラスティは別のルートを提案する。地図に、都市を東西に貫く線が描き出される。


「地下坑道を使うとしよう。この領地の地下にはアリの巣みたいに地下坑道が走ってる。『ロイヤルダークソサエティ』もすべてを警戒することはできないはずだ。この宿屋のすぐそばにも入口がある。運河の下にもトンネルがある。それを辿る。上手くいけば戦わずして包囲の内側に飛び込めるかもしれない。情報を収集し、メーテルリンクを助け、そのまま見つからずに地下坑道で撤退する」

「地下坑道……そうね。地上で大弓の黒騎士から十字砲火を受けるより地下を通る方が安全かもしれないわね。分かった。デュナメス、キュリオス、ヴァーチェもそれで良い?」


 エクシアの問いに、デュナメスは自信満々に親指を立てる。


「ああ、もちろんだ。早く『ロイヤルダークソサエティ』を殲滅するぞ。皆殺しだ。やつらに慈悲なんてくれてやるか」


 武器を愛おしそうに撫でながら、デュナメスは獰猛に笑う。キュリオスは肩をすくめる。


「私は二人の判断に従うよ。けれど、デュナメスはこう言ってるがあまり戦うべきじゃないと思う。包囲のただ中に飛び込むんだ、危険な行為だ。今までとは比べ物にならない。迅速に行動して速やかに脱出しよう」

「私も同意見だ。極力戦闘は避ける方向にする」

ラスティはキュリオスの意見に頷き、エクシアも方針に同意。だが、デュナメスだけは頬を膨らませ、不満げだ。


 ラスティたちは地下坑道の入口へと向かった。まるで闇の奥へと潜る冒険者のように、彼らの足音は静かに、しかし力強く響く。


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